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【書評】万年赤字のローカル線「いすみ鉄道」を復活させた驚きの手法

千葉県のいちローカル線であったいすみ鉄道は、2009年に社長公募で採用された鳥塚亮氏の手腕により異例の人気を勝ち取ることに成功しました。無料メルマガ『ビジネス発想源』の著者・弘中勝さんは、鳥塚氏の「いすみ鉄道を立て直したビジネス論」が記された書籍を紹介し、地方や中小企業が生き残るためのヒントを提示しています。

買われなくていい姿勢

最近読んだ本の内容からの話。

大韓航空、ブリティッシュ・エアウェイズと外資系航空会社に勤務していた鳥塚亮氏は、子供の頃から鉄道ファンだったことが高じて、副業として鉄道前面展望ビデオの販売を開始し、DVDはシリーズ総計で500本を超えた。2009年、経営再建中だった千葉県のいすみ鉄道の社長公募に応募して採用されて同社社長に就任し、いすみ鉄道を大きく改革して経営を立て直した。

全国には経営のどん底に瀕している地方鉄道が多く、地元の人たちは車社会で鉄道に乗らないのに、廃止にしようかという議論になるとなぜか廃止反対と言い出す。ローカル線を残したいと思っている人がローカル線を交通機関として真面目に議論して、いろいろな社会実験をすると、必ずバスに軍配が上がるようになっていて、結局は実験があだになって、廃止に追い込まれる。

しかも、ローカル線を廃止してバス転換しても、鉄道だったら黙って駅まで来ていた地域の人も行政が絡むバスだと「家の前まで来てくれ」となり、たくさんのコースを作らざるを得なくなった結果、鉄道に補助金を出していた時以上に地元負担が増える。社会実験のために営業に来ていたコンサルや学者もどこかへ行ってしまって知らん顔だし、鉄道を今さら復活させることもできない。そういう地域が増えている。

ではなぜ、鳥塚社長はいすみ鉄道を残すのかというと、素直に「鉄道のある風景が好き」だから。鳥塚社長は、ローカル線を交通機関として正面から捉えていない。交通機関として考えたらバスで十分だから、そんな赤字の鉄道にいくらお金をつぎ込んでも無駄。「乗って残そう運動」などをやっても意味がない。だから鳥塚社長は、地域の人たちにも、「無理して乗らなくてよいですよ」と言っている。

「乗って残そう運動」を行うよりも、「ふる里の列車のある風景を守ろう運動」のほうが、より的確で理解しやすい。そして、テレビや雑誌のインタビューなどでも、鳥塚社長は「ぜひ乗りにいらして下さい」とは言わず、「乗りに来なくてもいいです」と言っている。

マスコミに宣伝してもらっても、実際に来た人はJRの観光列車と並列の目で見られて「こんなものか。JRに比べたらみすぼらしいな」と思う。「何もないから、乗りに来なくてもいいですよ」と宣伝することで、お客様は来る前にある程度覚悟してやってくるし、大した期待もせず、物見遊山でくるような一般の観光客はいなくなる。

JRなどの大手の鉄道会社は、100人のうち80人の獲得を目指すマスのビジネスだから、新幹線にファーストクラスを作ることがブランド化であると考える。しかし、地方の小さな鉄道会社であるいすみ鉄道では、昭和40年製のオンボロディーゼルカーを走らせることがブランド化になる。

しかも1両しかないオンボロディーゼルカーだから、たくさんの人が押し寄せてきてもさばききれないので「乗りに来なくてもいいです」と言う。電車には乗らなくてもいいから、電車の写真を撮りに来るだけでもいいから、いらした方は売店でお土産品を買って頂いたり、地域にお金を落として頂ければよいと考える。

日常生活の不要不急品、つまり「いらないもの」ほど、本当に価値がわかる人だけがお客様なので、値引きも必要ないし、遠くても買いに来てくれるし、競争相手もいないので宣伝も口コミで十分。

いすみ鉄道は、地元の利用者にとってみれば交通機関として必要なものだが、遠くから来る人にとってみれば「いらないもの」「なくても困らないもの」である。だからブランド化しやすいのである、と鳥塚亮社長は述べている。

出典は、最近読んだこの本です。千葉県の人気ローカル線・いすみ鉄道の鳥塚社長の著作。地方や中小の会社が生き残るためのヒントが満載です。

ローカル線で地域を元気にする方法』(鳥塚亮 著/晶文社)

「全員に分かってほしい!」「誰もが対象、みーんながターゲット」というようなビジネスは、もうほとんど成り立ちません。テレビでさえも視聴率が急降下して「みんなが見るメディア」ではなくなってきて、ネットではアンチの発言も大きいので、どんなものも必ず賛否両論になります。大手の資本をもってしても難しいのに、中小企業などの場合は当然、そんな方向に行ったら失敗してしまいます。

どれだけお金を投じてキリがないし、わかってもらえない人の意見や反論を受けて、いちいちモチベーションを落としてしまいます。「本当に必要でなければ、買わなくてもいい」「本当に面白いと思わなければ、来なくてもいい」という意識を最初から持っていればいいのです。

無理な宣伝や売り込みをしたところで、本当に必要ではないところに売れてしまった、本当に面白いと思ってもない人を集めてしまった、となった時には、信用を落とすばかりか、自分たちも何がお客様にとって必要なのかを勉強する余裕がなくなってしまいます。

「別に買わなくていいですよ」「無理に来なくていいですよ」という意識のもとに、その魅力を発信したところ、本当に食いついてくれるお客様が、本当の意味でのお客様です。

そういう意識でビジネスをすべきかどうか、それを英断するのが、これからの経営者の仕事です。

 

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