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NY在住の猫好き医学博士が警告する、危険な世界通貨「ドル」の実態

大きな話題となったアメリカ大統領選は、ドナルド・トランプの勝利で幕を閉じました。その過激な言動や女性問題から「反トランプ」の声も少なくありませんが、就任が決定した現在もその声は収束の気配を見せていません。メルマガ『しんコロメールマガジン「しゃべるねこを飼う男」』の著者でNY在住の猫好き医学博士・しんコロさんは、今回の米大統領選を通して「米国民の衆愚化」を懸念。トランプ氏のヘイトスピーチや女性問題よりも「未曾有の経済危機」の方がより深刻な問題であること、米国経済が危機的状況であることの根拠、そして米国や日本、世界中がどん底に叩き落される可能性について分かりやすく解説しています。

アメリカ大統領選を終えて

先週、アメリカ大統領選が終わりましたが、なんだか随分昔のことのように感じます。みなさんは、どのように受け止めましたか?

トランプが次期大統領に当選し、アメリカ各都市での反トランプデモが激しくなっています。きっと日本でもその様子は報道されていると思いますが、NYではトランプタワーのある五番街周辺や、ユニオンスクエア周辺で大規模なデモが連日行われています。

西海岸ではシアトル、ポートランド、ロサンゼルスでも激しいデモが繰り広げられ、ポートランドでは発砲や店舗などの破壊があり、警察もゴム弾や催涙ガスで応戦したそうです。ロサンゼルスでは150人が逮捕されました。 ヒラリー支持の主な大都市ではこのようなデモが依然として収まらず続いているようです。

今回の大統領選後のアメリカは本当に荒れています。彼の爆弾発言や人柄、家族構成や生い立ちについても日本のワイドショーはきっと事細かに報道していることでしょう。きっとアメリカよりも日本の方がトランプにまつわる細かいゴシップで溢れているのではないかと想像します。皆さんも、いいかげんテレビがトランプだらけで飽々している頃かもしれませんね(笑)。

その一方で、「トランプはとんでもないエロオヤジだった!」とか「ヒラリーはとんでもない犯罪者だった!」とかいう話題の方がメルマガの話題として読んでいて面白いかもしれませんが、今回もマジメな話題です。

難しい話ではありませんが、大切な話です。

アメリカ分断の背景

前もって言っておきたいのですが、僕は今回のトランプ vs ヒラリーの構図に関しては非常に懐疑的に見ています。なので、どちらのサイドを支持しているわけでもありません。

一方で、オバマ政権の失敗については思う所がいくつかあり、ツイートもしました。すると「お前はトランプ派か! 怒」と苦情メールまで送られてきましたが、僕はそもそも「トランプ派」でも「ヒラリー派」でもありません。

アメリカの不思議なところは、地域によってハッキリとトランプ派とヒラリー派に分かれていることです。まずその事実を懐疑的に見る必要があると僕は思います。

NYに住んでいたら多くの人が自動的にヒラリー派になります。確かに、NYのような国際的な都市に住む人達はグローバル化を求めているし、リベラルな視点を持っているのは事実なので、ヒラリーが属する民主党の基本的な方針に政治的視点が合うのは分かります。

しかし一方で、NYに住んでいるからNYヤンキーズのファンで、大阪に住んでいるから阪神タイガースのファンというように、NYに住んでいるから民主党支持という「当たり前」的な流れで政治的視点が決まっているのも事実です。つまり、多くの人があまり深く考えずに支持政党を決めているのです。

ちなみに、僕は今まで民主党支持の州にしか住んだことがないので、ヒラリーを例として出しましたが、それはトランプ派でも同じです。あくまでも誤解のないよう。

今回デモをしている人たちの多くがプラカードを掲げていますが、やはりトランプの移民問題に関する発言や、人種・性差別を示唆する発言に対する怒りの抗議が多いように感じます。貿易、経済、国防に関してのプラカードを掲げている人はほとんど見かけないので、デモ参加者の多くは個人レベルでの反トランプ意識で運動をしているように感じます。

その背景にはトランプの爆弾発言がフェイスブック等のSNSでシェアされて拡散していることにありますが、一方でトランプの演説の動画を悪意をもって編集して、激しい人種差別や性差別をしているように聞こえるよう操作をしたものが出回っているのも事実です。トランプが嫌いだと、そういう動画の出所を疑わず鵜呑みにし、さらに憎しみが増します。

誤解のないように繰り返しますが、トランプは過激な発言をしてきたのは確かです。しかしその一方で、曲げられた情報が溢れているのも事実です。

一方、ヒラリーに対する情報はどうでしょう? ヒラリーの場合はFBIの捜査対象になったメール問題もそうですが、クリントン財団の寄付金を使って娘の3億円の結婚式をしたという話題がありました。また、ウィキリークスの情報によると、ヒラリーが政府高官会議で「ジュリアン・アサンジ(ウィキリークスの広報)をドローンで暗殺できないのか?」と発言したという話もありました。

トランプ派はこういった情報を耳にしてヒラリーを憎悪していますが、これらの情報もどれだけ信憑性があるか分かりません。いずれの支持層も、自分の支持する候補の都合の悪い情報は信じたくないので「デマ」だと主張するものです。しかしその情報に根拠がなければ、「デマ」とするその主張自体にも根拠がないのです。

僕は常々思いますが、自分の政治的視点の根拠に常に疑いをもって、その時々で再確認と調節をする必要があると思うのです。職業柄、僕の癖なのかもしれませんが、僕は自分の研究に対していつも批判的で懐疑的です。良いデータが出た時には、「嘘ちゃうの? 何かの間違いじゃないか?」と思って何度も再実験して確認します。石橋を叩いて渡るどころか、一回ぶっ壊してその橋の強度を確認したいくらいです(笑)。

しかし、科学者の中にも自分に都合の良いデータが出ると妄信的になる人がいます。盲信してしまうことはある意味、宗教的で危険です。同じように、一部のヒラリー派 vs トランプ派の行動に関しても似た現象が見られます。自分の見解に対して疑いを持たず「自分達は正しく敵対政党は間違いだ」と信じ込み、あげくの果てに攻撃的になっているのです。

これを書いていて、一つの例として、マーク・トゥウェインの「ハックルベリ ー・フィンの冒険」を思い出しました。物語の中の当時は奴隷制度真っ只中で、 黒人は奴隷として扱われていました。黒人を人間扱いしたら神様から罰せられると本気で皆が信じていた時代に、ハックは黒人奴隷のジムと逃亡の冒険をします。そして、ジムを奴隷ではなく人間として見て、最終的にジムの味方をするのです。

ハックとしては、その決断は社会と神を裏切る行動でした。しかし、ハックは社会や神に従わず、自分の考えで大きな決断をしたのでした。つまり、 ハックは社会や集団の流れに迎合せずに、自分の頭で考えて判断をしたのでした。今の一部のヒラリー派 vs トランプ派の大騒ぎをしている人たちは、自分たちの頭で考えているのか、それとも当てにならないSNSやニュースの情報に扇動されているのか、非常に疑問です。僕には後者に思えて仕方ありません。

経済危機が本題

では僕はどう考えているのかということですが、僕はメディアやSNSの当てにならない情報に基づいてヒラリーか、トランプか、というようには考えていません。むしろ、ヒラリーになろうとトランプになろうと、これから起きうる問題の方を憂慮しています。そして、ここからが本題です。

前号で、「今のアメリカ経済は支柱がグラグラのジェットコースターのてっぺんにいる」と書きました。実体経済が伴わないのに、株価ばかりが膨れ上がり、国の借金も返せないレベルまでの超バブル経済だと説明しました。「バブル」と聞くとみなさんはどのようなイメージをしますか? 景気が良くて、お金がいっぱいあって、ドンペリを飲んで踊り、札束がお財布にいっぱい入っているイメージでしょうか? でも、本当の「バブル」とはそういう意味ではないのです。

「バブル」とは、株価なり不動産なりが「不適切に価格がつり上がっている状態」のことを言います。何やら小難しい話になってきた、と思われるかもしれませんが、難しくは書かないのでもう少しお付き合いを。

そもそも、どうしてそんなグラグラジェットコースター経済になったのかというと、2008年のリーマンショックで世界経済が崩れて以来、オバマ氏と連銀のベン・バーナンキ氏がドルを世の中にばら撒いたからです。お金を刷って、刷って、刷りまくったのです。お金が一杯あれば、経済が復活するだろうと思ったのです。

しかしそれは間違いでした。お金は一杯あっても、世の中を回らない限り経済は復活しないのです。そりゃそうですよね、お金があっても物やサービスが買われなければ経済活動は低迷している状態と同じです。結果、オバマ政権のここ8年は、戦後最低の経済成長でした。

でも、お金を刷りまくったのにはさらに大きな副作用がありました。国の借金が膨れ上がってしまったのです。小難しい話は抜きにしますが、実は借金が先にありました。政府が借金をして、連邦銀行(FRB)がお金を刷る、利子が生まれて借金がさらに膨れ上がり、さらにまたお金を刷る、その繰り返しです。

日本も同じですが、僕達が支払っている税金は公共事業というよりもむしろ、この利子の支払いにかなり使われています。アホっぽい話に聞こえるかもしれ ませんが、アメリカ政府がお金を刷った量がどれほど正気の沙汰ではなかったか、このグラフを見ると分かります。

青い線で表しているのが、ここ100年間のアメリカ政府が刷ったお金の量です。グレーの縦線はリセッション(不況)です。

2008年のグレーの線はリーマンショックによる不況です。そして2009年にオバマ政権になってから、 ものすごい勢いでお金を刷っている(青線が上昇している)のが分かると思います。

歴史上、ここまで激しいことをアメリカはやったことがありませんでした。借金が返せなくなると、政府には2つの選択肢が残されます。一つは「返せません、ごめんなさい」と正直にデフォルト(破綻)することです。ギリシャのようなシナリオです。

もうひとつは、さらにお金を刷ってそのお金で借金を返すのです。アメリカはいつも後者の選択肢をとってきました。しかしこれをすると、激しいインフレを起こし、国民から富を奪ってしまいます。お金を刷ると何故国民から富を奪うことになるのか、猫のカリカリを使って超簡単に説明します。

例えば、世の中にお金が100ドルしかなかったとします。その100ドルで100個のカリカリが買えたとします。政府はさらに100ドルの借金があるので、新たに100ドルを刷ったとします。そして政府はその100ドルを借金返済に使います。借金返済の時点では、その100ドルはカリカリを100個買える価値があります。

ところが、この新たに刷った100ドルが世の中に広がると、世の中に出回るお金の量は200ドルになります。 カリカリの量は今までと同じですから、お金の量が増えると市場原理でカリカリの値段が倍になります。みんなの給料も単純に倍になれば良いのですが、世の中はそううまくできていません。

結果、皆は今までの半分のカリカリしか買えなくなってしまいます。持っているお金の額が減っていなくても、世の中の物価が上がったら資産が減っているのと同じことです。これが、政府や銀行が好きなようにお金を刷って使い、結果的に国民から搾取しているカラクリです。

これを「大規模な詐欺だ」という経済の専門家もいます。でも、国民は全くこうして富を奪われることに気づかないのです。

迫り来る危機

話が少しややこしくなってきたかもしれないので、ここで核心に触れましょう。

まとめると、オバマ政権以来、現在はドルの刷り過ぎで借金が増え、株価や不動産や国債がバブルになっています。このバブルがはじけたら、2008年の経済危機の沙汰どころではない惨事になると予測されています。1929年の世界恐慌よりも悲惨なことになるかもしれないという専門家達もいます。

株価や不動産が暴落し、銀行や企業が破綻し、雇用がなくなり、高齢者の年金がなくなり、中流層が一気に貧困層になり、 犯罪が増える可能性があります。これは僕の個人的見解ではなくて、このような予想している専門家が沢山いるのです。

世界的に有名な投資家のジム・ロジャーズは、次に来るバブル崩壊が社会に及ぼす悪影響は史上最悪だと予測しています。ロジャーズ氏本人もNYからシンガポールに避難してしまいました。元議員で大統領候補だったロン・ポールも、史上最悪の経済危機が来ると予言しています。また別の元議員、デビッド・ストックマンも同じ意見です。

リーマンショックを的確に言い当てたアナリストのハリー・デント、ピーター・シフ、ジェラルド・セレンテも次に起こる経済危機は避けられないことで意見を同じくしています。

ミリオンセラー「金持ち父さん貧乏父さん」著者のロバート・キヨサキ、そしてキヨサキ氏のファイナンシャル・アドバイザーのマイク・マローニも史上最悪の経済危機が来ることを警告しています。

弁護士でFRBのアドバイザーの経験もあるジェームズ・リカーズは、経済危機に伴ってアメリカの金融機関は凍結し、ドルが崩壊するとまで著書「The Road To Ruin(破滅への道)」で述べています。

こういった専門家や知識人からの情報はメインストリームのメディアにはまず載りません。CNNにもロイターにもNYタイムズにも載りません。むしろ、メインのメディアは全く反対のことを言っています。日本のマスコミでもこういった情報は一部のメルマガ等を除いてほとんどありません。警鐘を鳴らしても、クレイジー扱いされてしまうのです。

しかし、2008年の経済危機の直前も、正しかったのはメインのメディアでも政府でもなく、警鐘を鳴らしていたアナリストや学者達でした。このように、2008年の経済危機を正確に予言した経済の専門家が現在迫り来る危機をこれほどまで警告しているのはそれなりの意味があり、彼らの声に耳を傾けるのは重要です。

その一方で、オバマ政権やFRBは「アメリカ経済は安定した復活を遂げた」と言っています。ヒラリー陣営も基本的にオバマ政権と意見が重なっているので「経済は大丈夫」という意見です。

さあ、何を信じますか? 何を信じて良いかわからなくなりますよね? だからこそ、何かを盲信するのではなく、事実をしっかりと見極めるために情報を集めることが大事だと僕は思うのです。デマとデモの拡散をやっている場合ではありません

こんなことを書くと、また「しんコロはトランプ派か!」とヒラリー派から反発を買うかもしれませんが、僕はトランプ支持の議論をしているのではなく、現在のアメリカ経済の実態について話しているのです。僕はヒラリー派とトランプ派の衝突は感心していませんが、皆にもっと深刻なことに目を向けて欲しいと思っています。

アメリカ経済を悲観する専門家達は、ヒラリーにもトランプにもこの危機は止められないと考えています。そして、先程のグラフを見ていただけるように、アメリカ経済の不況は約7~9年ごとにやって来ています。 今まさに、その時期になっているのです。

これから近い未来にアメリカ経済がこの危機をどのように迎えるのか、そしてその波紋でドルという世界通貨の運命がどう変わり、さらにアメリカに大きく依存している日本経済がどのような影響を受けるのか。そのようなことになったら、日本にいる皆さんにとっても他人事ではありません

これからのアメリカ経済の展開は注意深く追っていく必要がありそうです。

 image by: Songquan Deng / Shutterstock.com

 

しんコロメールマガジン「しゃべるねこを飼う男」

著者:しんコロ

ねこブロガー/ダンスインストラクター/起業家/医学博士。免疫学の博士号(Ph.D.)をワシントン大学にて取得。言葉をしゃべる超有名ねこ「しおちゃん」の飼い主の『しんコロメールマガジン「しゃべるねこを飼う男」』ではブログには書かないしおちゃんのエピソードやペットの健康を守るための最新情報を配信。

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