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失言連発で物議。NHK籾井会長の退任を、新聞各紙はどう報じたか?

数々の政権寄りとも受け取れる発言で、就任以来各方面から批判を浴び続けてきたNHKの籾井会長。報道の独立性を忘れたかのような姿勢は「民主主義の危機」とまで指摘されました。そんなNHKの次期会長に決定したのは、元三菱商事副社長の上田良一氏。彼は籾井氏によって地に落ちたNHKの信頼を回復させることができるのでしょうか。そして新聞各紙はこの人事をどう報じたのでしょうか。メルマガ『uttiiの電子版ウォッチ』の著者でジャーナリストの内田誠さんが詳細に分析しています。

籾井氏退任! NHK新会長決定について、各紙はどう報じたか

【ラインナップ】

◆1面トップの見出しから……。

《朝日》…「NHK会長に上田氏」
《読売》…「日本 読解力8位に低下」
《毎日》…「カジノ法案 成立へ」
《東京》…「カジノ法案 衆院通過」

◆解説面の見出しから……。

《朝日》…「籾井氏後任 安定を重視」
《読売》…「長文 不慣れな中高生」
《毎日》…「格差広げたカジノ」
《東京》…「情報環境激変 読書のススメ」

ハドル

《朝日》《読売》《毎日》の3紙は、1面トップと解説記事を同じテーマでそろえています。テーマそのものは「NHK会長」「子どもの読解力」「カジノ」と別々なのですが。《東京》は、それらのテーマから1つずつ選んで1面トップと解説を構成。さて、思案のしどころです。

現状、3つの中で一番大きいテーマは、「NHK会長」というのが私の個人的見解です。幸い、朝日を筆頭に各紙、それぞれの立ち位置から報道していますので、今日はそういうことで…。

今日のテーマは…、籾井氏退任! NHK新会長決定について、各紙はどう報じたか、です。

基本的な報道内容

NHK経営委員会は、来年1月で任期満了となる籾井勝人会長の後任に、経営委員で元三菱商事副社長の上田良一氏を全会一致で選出した。上田氏は12人の経営委員中、唯一の常勤で、経営委員から会長が選出されるのは異例。また、経済界出身の会長は4代連続に。

籾井現会長は就任会見で「政府が右というものを左と言うわけにはいかない」などと発言するなど、様々批判され、国会でも、NHK予算案に一部野党が反対する異例の事態を招いていた。

上田新会長への賛歌

【朝日】は1面トップに2面の解説記事「時時刻刻」。見出しを並べる。

uttiiの眼

記事の特徴として気付いた点はいくつかある。その筆頭は、新会長に選ばれた上田氏に対する手放しの賛辞だ。

いわく、「経営委とNHK執行部の両方の立場を理解」、「職員とも信頼関係」、「落ち着いた性格で受け答えにも安定感」、「財務に精通」、三菱商事の社内でも「非常に真面目な理論派で、一度決めたことはきちっとやる」、「豊富な国際経験」と、歯が浮きそうな褒め言葉のオンパレード

旧財閥系の経営幹部というだけで不安の材料にしても良いくらいだと私は思うが、そうした感覚は《朝日》にはないらしい。ただ、思えば、上記の褒め言葉、総て現会長の籾井氏に欠けている点と考えれば、納得もいく。「上田氏を選んだ」のではなく、「籾井氏を降ろした」ことの方が重要だった。それが賛辞の連続につながったかと。

事実、籾井氏は経営委員会と決定的に対立するに及んだ。その間の事情を比較的詳しく書いているのも《朝日》記事の特徴と言えるかもしれない。ただ、記事は、籾井氏が安倍政権寄りの発言を繰り返し、「報道機関トップとしての資質が疑問視された」ことで経営委員会と対立したのか、それとも、直近の問題として浮上した受信料引き下げ提案を巡っての対立が「籾井降ろし」につながったのか、そこのところは明らかにしていない。僅かに前者ではないかと思えるような表現もしているが、定かではない。

新会長がどのような方針をとっていくのか。NHKのニュース番組の内容やキャスターのコメントがどう変わっていくのか、視聴者としてはその結果で新会長の評価を決めていくしかあるまい。

全くの私見だが、NHKが本当に変わるためには、籾井氏を降ろすだけでなく、籾井氏の肝いりで行われた人事を元に戻して「腰巾着どもを一掃し逆に降板させられたキャスターなどを戻すというような荒技が必要ではないだろうか。籾井氏の本当の問題は、「発言の不適切さ」ではなく、恣意的な人事に代表される「行動の不適切さにこそあると思うからだ。報道を含む番組制作に与えた悪影響を払拭するのが、新会長の最重要課題。違うだろうか。

籾井会長への挽歌

【読売】は1面の下の方に基本的な情報の記事。2面に新会長上田氏の人物紹介の「顔」欄、さらに13面に解説スペシャル。まずは見出しから。

uttiiの眼

《読売》は、1面記事でハッキリと「就任当初から言動がしばしば物議を醸したことなどが経営委から問題視され、1期のみで退任となった」と、籾井氏退任の理由を書いている。

では、その「物議を醸した言動」とは何か。

具体的な事例として《読売》が指摘するのは「ハイヤーの私的利用のみのようであり、各紙が指摘する「政府が右と言うものを左と言うわけにはいかない」などの安倍政権寄りの発言は眼に入らなかったらしい。紙面のどこを見ても記載されていないことに、あらためて驚く。もしかしたら《読売》は、その種の「政権寄りは当然のことであり、NHK会長として正しい態度だと思っているのかもしれない。

逆に《読売》が協調するのは、籾井氏の業績の方だ。

13面「解説スペシャル」は、15年度決算で受信料収入が過去最高を記録したこと、放送センターの建て替え基本計画をまとめたことなどを「実績」として紹介、逆に、経営委員が会長になる今回の人事に対する違和感」(NHK幹部)を言挙げしている。

さらに、籾井氏が受信料値下げの財源とした繰り越し余剰金800億円について、上田氏には「収支均衡の原則からかけ離れている財務状況を是正することが求められる」と、まるで、受信料値下げを否定されたことに対する意趣返しのような物言いまでする始末。

どこか「籾井退任」が悔しい様子の、今朝の《読売》。

上田新会長への応援歌

【毎日】は1面の下の方に基本的な情報の記事。2面に関連の解説記事、4面「ひと」欄も。見出しを拾う。

uttiiの眼

2面の解説は異彩を放っている。

上田新会長が直面する課題は、まず「副会長人事」だという。政権との距離の近い人物を選び、パイプ役にするとの動きがあり、会長がどう判断するかで「NHKと政治との距離が変わる」。籾井会長ではあまりにもあからさますぎたと、政権は学習したのかもしれない。

今回の人事について官邸サイドが「静観した」という意味のことを各紙書いているのだが、国民投票で憲法改正を目指す安倍政権が、NHKという最高の武器を簡単に手放すわけがない。なんとか、放送内容をコントロールし続けたいと考え、そのために副会長人事を重要視しているのかもしれない。ここは盲点だった。

記事の後半は、籾井体制が「停滞の3年間」であったとする内容。「政府が右と言うものを左と言うわけにはいかない」という例の発言に始まり、私的なゴルフで使ったハイヤー代の立て替え問題などに触れ、国会での予算審議についても、任期中一度も全会一致にならなかったほど、籾井氏への不信感は広がっていたという。だからこそ、受信料制度の改革も、余剰金の処理についても議論が進まず、新会長に持ち越されることになったという理解。新会長は、籾井氏の不始末のお蔭で、いわばその尻ぬぐいをさせられるわけだ。最後に、籾井時代の人事について、こう記している。

気に入らない人物を左遷する恣意的な人事も目立った。ある幹部は「左遷された職員を元に戻すのは容易でなく、会長交代後もゆがんだ人事構造の修復には時間が掛かるだろう」と嘆く。

新会長への懐疑

【東京】も1面の下の方に小さな記事で基本的な事実を伝え、6面に解説記事。見出しを拾う。

uttiiの眼

《東京》の特徴は何と言っても最後の一節、「識者批判の部分だ。どんな批判かというと…。

批判を浴びた籾井会長に対し、上田氏ら監査委員は十分機能していなかった。次期会長就任には疑問があり、選考過程が不透明だ。

というもの。メディア政策が専門でNHKに詳しい、立教大学の砂川浩慶教授によるもの。つまりは、退任させられる人と新しく就任する人は、一蓮托生というか、同じ問題について責任があるということだ。経営委員会でその点についての吟味が為されたかどうか疑わしく、その点が不透明なまま、会長を決めてしまうのはおかしいという異議だと思われる。

この部分についてはさらなる説明はなく、《東京》にとって、この視点は次の取材の取っ掛かりという位置づけなのかもしれない。続報に期待することにしよう。

あとがき

以上、いかがでしたでしょうか。

NHKのニュース番組がどんな内容、構成でなされるかということは、政治的な影響が非常に大きい問題であり、マスコミを通じた言論のコントロールを政権に許してしまえば、世論がねじ曲げられ、不測の事態を引き起こすことになりかねません。

籾井氏は最低・最悪の会長でした。その悪しき作用が、副会長を通じてさらに続くようなことがあれば、日本の民主主義にとって大きな危機が続くことになりかねないと思います。そうした動きに対する痛撃が、まず、NHK内部の良心的な人々の行動によって為されるべきではないでしょうか。

 

uttiiの電子版ウォッチ』2016/12/7号より一部抜粋

著者/内田誠(ジャーナリスト)
朝日、読売、毎日、東京の各紙朝刊(電子版)を比較し、一面を中心に隠されたラインを読み解きます。月曜日から金曜日までは可能な限り早く、土曜日は夜までにその週のまとめをお届け。これさえ読んでおけば「偏向報道」に惑わされずに済みます。
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