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ええっと、こう見えて「絵」なんです。リアルを追求する5人の芸術家

リアリズム(写実主義)は古代ギリシャの時代から多くの芸術家が目指してきたもので、1960年代後期から70年代にかけては高度な写実絵画が人気絶頂となり、フォトリアリズムやハイパーリアリズム(あるいは、スーパーリアリズム)と呼ばれる世界が生まれました。今回、写真のような絵を描く、気鋭の5人のアーティストのお話を聞きました。彼らが生み出す作品のクオリティの高さは脱帽モノ!これらがすべてキャンバスや紙に書かれたものだと信じられますか?

都市のカオスをダイナミックに描く/ Nathan Walsh

ニューヨークを描いた『NYC 6am 』(2014)

雨に濡れる都会を切り取った、アスファルトに映る濡れた光の表現が印象的なこちらの作品を手がけたのは、UK出身・在住のNathan Walshさん。

「この12年間、私のすべての作品は”都市景観“に関係しています。視覚文化的によく知らない都市を訪れることが好きなんです。これによって、予測ができない成果に導くんです。都市には魅了されっぱなしです。労力をかける価値があるものを描くという行為を通じて、都会生活のカオスを永遠のものにする可能性がそこにはあるんです」と話します。

シカゴの街角『Chicago in the rain』

今回、Nathanさんにどのようにこの構図が生まれるのかを伺ったところ、「訪れた都市を当てもなく歩き回り、都市特有のカオスや独特の雰囲気を感じ取ります。それをスケッチブックにサムネイルを書きとめる。同時に、たくさんの場所を写真に残します。それから、スタジオに戻ってポストカード大の情景からイメージを膨らませて、フルスケールの絵にするというプロセスを取っている」という答えが。

『23 Skidoo』(2013年)

実際に旅先からUKに戻ると、たくさん撮り溜めた写真をふるいにかけ、作品になりそうなものを選び、ポストカードサイズの絵のシリーズを作ります。そして、それを壁に貼り、ある期間を一緒に過ごしてみて、その中からダイナミックなフルスケールの絵をつくるために最も視覚的なポテンシャルを持っているものを選ぶんだそう。

図面はフリーハンドで引いていきます。イメージの機械的な伝達を否定することで、ゼロから各対象物を構築するそう。規模の大きい絵だと、これに1ヶ月もかかるとか。下書きこそが、ある意味、最もクリエイティブな部分だそうです。その後、油絵で色味をつけていきます。

Nathanさんの作業風景。レンズの歪みまで忠実に絵が描く

「もともと、フルタイムでアーティストになるっていうことを決心したという意識はなかったんです。でも、絵が上手くなりたいという欲望はありましたね」と話すNathanさん。

「たくさんのアーティストが、何度も同じことを繰り返すという発想で作品をつくるという成功の方程式をもっているけど、それは僕にとっては全然魅力的じゃなかったんだ。代わりにどうすれば、とんでもない発想が爆発するか、視覚的な問題に関してエレガントな解決方法を探しだせるか、といったことがエキサイトだと思いました」。

そんなNathanさん、今回特別に未公開の最新作を日本の読者に見て欲しいとのこと、編集部に写真を送ってくれました。
それがこちらです!

『Catching Fire’ 53 x 108 inches oil on linen』 / image courtesy of Bernarducci Meisel Gallery NYC

 

パワーが溢れるニューヨークという街のダイナミックさが、この絵から伝わってきますね!

Nathan Walsh
1972年UK生まれ。現在もUK在住。大学・大学院でアート専攻し、デッサンや油絵、版画、タイポグラフィーなどを学ぶ。ニューヨークやパリなどの世界樹の大都市を緻密に描くアーティスト。
Nathan Walshさんの公式サイト / Instagram

 

 

氷、波、曇など刻々と変わる色と姿の一瞬を切り取る / Zaria Forman 

グリーンランドを描いた作品『Greenland no. 71』

Zaria Forman 

グリーランドの雄大な氷河と寒々しい水面。見るものの心を魅了するこの作品を手掛けるのはZaria Formanさん。

『Greenland #69』

「旅先では、途方もない数の写真を撮るんです。スタジオに戻ると、大きなスケールの合成したものを創り出すために、写真と自分が体験した記憶で描くんです」と話すZariaさん。絵を描くことは、Zariaさんにとって瞑想の一形態であり、精神が安らぐもの。

「描いているときは、水や氷など、何を描いているのかを認知していません。それらのディティールを描いていると、迷った状態になり、時間がたっていることにも気づかないことがあります」。

『Whale Bay, Antarctica No.1』

『Risting Glacier, Antarctica』

フォトリアリスティックな絵を書いているつもりはなく、むしろ自分が見て感じたそのものを表現するように努めています。私の個人的なエモーショナルと経験が作品には反映されています。私の作品をリアリスティックに見えて欲しいですし、見る人が実際にみることがないかもしれない風景から何かつながりを感じて欲しいと思っています」と話します。

氷河や空などを始めとしたダイナミックな絵を描くZariaさん。

「私はたまに”水”や”空”を新たに作り直したり、氷河の形状を一部変えたり、バランスのとれた構図を作り出すためにいくつかの異なる画像を組み合わせたりします。しかし、9割の時間は私が見たそのままのシーンを描くことに費やしているんです。なぜなら、その時見たままの大自然の景観に忠実でありたいからです」。

「パステル画は私の作品の裏にあるメッセージを最高の形で伝えてくれるんです。それに見た人が、『これ絵じゃないの!?』というリアクションをみるのが好きですね」。

Zeriaさんの作業風景はこちらの動画をチェックしてみてください!

 

Zaria Forman
1982年生まれ・米ニューヨーク州ブルクッリン在住。『ナショナル・ジオグラフィック』、『スミソニアン・マガジン』、『ウォールストリート・ジャーナル』など多数の雑誌で特集される。
公式サイト / Facebook  / Instagram / Twitter

 

 

陰影のリアルさが美しすぎる / Emanuele Dascanioさん

ハイパーリアリズムを追求するイタリアの芸術家Emanuele Dascanioさん。布と肌と服のディテール感がフォトグラファーをも感動させる完成度なのがすごいです。髪の毛一本一本までがこの自然さ!何層にも重ねて描くことにより精巧なテクスチャーができあがっていきます。

『Depositio Maddalenae』(2015年)

『This is my Father 』(2013年)

『Alef-Beit』(2016年)

「絵を描いている時、参考にする写真を見ます。その写真を深く解釈しながら描いているのでただのコピーではありません」と話すEmanueleさん。

「たくさんの要素を表現するフォトリアスティックなアートを取り入れました。絵が描くことで、美しさのパワーを表現できるんです。私が使っている技法は、典型的なルネッサンス期のもの。芸術を最大に伝えることができるんです」。 

『Rosa Rùtila』(2013年)

Emanueleさんは、国内外で多くの受賞歴や上位ノミネートされており、精力的に全世界を回ってワークショップを開いているそうです。日本にもいつの日か来てほしいですね!

Emanuele Dascanio
1983年生まれイタリア出身。イタリア拠点に国内外で精力的に展示会をこなす。
公式サイト/ Facebook 

 

 

 

コンピュータを駆使する多彩な表現者 / Robin Neley

『The Poet』

Robin Neleyさんがハイパーリアリスティックな作品を描くようになったのは、10代のころバスケット雑誌の写真をみながらNBA選手の絵を描いたことがきっかけ。描けば描くほど緻密で写真のようになっていったことに面白さを感じたそうです。

近年の作品には、解像度の高いデジタル画像をどこまで自分の筆で表現できるかということに挑戦しているとのことです。

『Luminesce』

『Resolute』

Robinさんに作品と写真の違いはどこにあるか尋ねたところ、「違いを説明するのは、難しいね・・・。おそらく、実物の作品の前に立ってじっくり見てもらったら違いがわかると思います。多くの人はネットで見ることになるだろうけど、作品の写真を題名が見えなくなるぐらいしっかり拡大してみるとそれが絵だとわかるんじゃないかな」との答えが返ってきました。

 

 

Robin Eleyさん(@robineleyartist)が投稿した写真

 

自身題材にした『Self Portrait』はMoran Portrait Prizeを受賞

最近では新しいプロジェクトを始めたそう。モザイクで愛する子供の誕生を描いた最新作「Binary Project」はクラウドファンディングのKickstaterを見て欲しいとのことです。

 

Robin Eleyさん(@robineleyartist)が投稿した写真

Robin Neley

 

1978年生まれ、ロンドン出身。父親はオーストラリア人、母親は中国人で、幼少時にオーストラリアへ移住し、その後渡米。様々なアートコンテストで、上位の名前を連ねる。近年注目のアーティスト。
公式サイト / Instagram

 

 

透過光の美しさがすばらしい油絵 / Dennis Wojtkiewicz

『Rosettes Series #8』

「自分の作品はすべて光から始まる」と話すDennis Wojtkiewicz氏。「私が描いてるモノにどんな影響を与えるか? 光はどのように影響を与えるか?ということを考えています。光はとても演劇的であり、絵の中の感情やムードを作り出します。そして、永遠の感覚や、とてつもない何か大きなものに光は導きます」。

夕暮れや教会のステンドグラス越しの光を思い浮かべて、『光の感覚』を表現しているそうです。

そんな彼が最も敬愛する芸術家はオランダ人画家のヨハネス・フェルメール。

「映像のような写実的な手法と綿密な空間構成、そして光による巧みな質感表現を特徴とする」フェルメールの作品には、「別の世界を表現されている。私にはうまく描けないけど、それを感じるとることができます。それをずっと追い続けていますね」 。

『Melon Series #34』

『Dahlia Series #13』

『Flower Series #23』

花びらの質感までが間近に伝わってくる感じですね。

学生の時にスーパーリアリズムの先駆者でもある、リチャード・エステス氏の作品を見て、衝撃を受けます。

「彼の作品を見て、その横の説明に油絵とあって、本当におったまげたよ!これが本当に絵なのかってね。信じられませんでした」。その瞬間から、ハイパーリズムの世界に興味を持ちます。その後、パリへ向かい、スタジオでアートを学び始めました。

自身はスーパーリアリズムに傾倒しているわけではないと話します。
「作品のために写真を撮ることはあります。でも、それはマップのようなもの。どこに行きたいかを示すようなものということです。もし写真のように単に描写するだけなら、それはきっと人の感情をうごかさない乾いたものになってしまっていると思う。そこに存在感のある作品に仕上げることを心がけています。見ている者が感じて、つながるような作品を目指していますね」とフォトリアリズムの世界について話す、Dennisさん。

Dennis Wojtkiewicz
1956年生の米国人アーティスト。サザン・イリノイ大学卒業。スライスされた果物や花などの作品がよく知られている。米国を中心に海外でも活動。
公式サイト

 

 

まったく異なる表現をする5人のアーティスト。

やはりネットの画像だけでなく、実物の作品の前に立ち顔をぐぐっと近づけて、じっくりと細部のタッチを味わいながらフォトリアリズムやハイパーリアリズムの世界に浸ってみてはいかがでしょうか。

取材・文/桜井彩香

 

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