先日掲載の記事「あのアイリスオーヤマが、なぜ今『家電』で注目されているのか?」でもお伝えしたとおり、常識をくつがえす「なるほど家電」で業界を席巻中の同社が4月末、Wi-Fiが搭載された上に10万円を切るエアコンを発表し同業他社を驚愕させています。なぜアイリスオーヤマは、ありそうでなかったこのような製品を次々と生み出すことができるのでしょうか。メルマガ『理央 周 の 売れる仕組み創造ラボ 【Marketing Report】』では著者の理央さんが、MBAホルダーならではの切り口でその秘密に迫っています。
アイリスオーヤマに学ぶ製品開発の源
以前、「あのアイリスオーヤマが、なぜ今『家電』で注目されているのか?」でも取り上げた「なるほど家電」のアイリスオーヤマが、無線LAN内蔵で、外出先からスマホで操作できるエアコンを、4月28日から販売開始。アイリスオーヤマにとって、大型白物家電事業に初参入するということになった。
アイリスオーヤマのホームページによると、今回発売されるルームエアコンは4機種。うち2機種をフラッグシップ機種と設定し、Wi-Fiが搭載されているとのことだ。価格は、Wi-Fi機種が9万9,800円と7万9,800円、搭載なしがそれぞれ、8万9,800円と6万9,800円。
アイリスオーヤマならではのルーム・エアコン
これまでアイリスオーヤマでは、なるほど家電というネーミングで、消費者のニーズに応える生活家電やキッチン家電を開発・販売してきた。どれも、大手家電メーカーが手がける、王道カテゴリーのテレビや冷蔵庫、AV機器といったものではなく、日々の生活の中で「あったらいいな」という、いわばサブ・カテゴリーの中での製品開発が中心だった。
なるほど家電の特徴は、すでに消費者が知っている「顕在的ニーズ」ではなく、今は知らないが、教えてもらったら嬉しい「潜在的なニーズ」にうまく対応している点。潜在ニーズを発見し、製品開発をしているのだ。
消費者がすでに知っている、「顕在ニーズ」の分野で勝負をすると、目に見える「スペック」での勝負になりがちで、ひいては価格競争に陥りやすい。競争が似たりよったりの場所になり、そのカテゴリーのプレイヤーの製品が、類似点(Point of Parity)どうしの戦いになってしまうのだ。
したがって、現在は世に出ていないが、もし出れば、消費者ニーズに応えられる市場を発見し、独自な顧客価値を創造することを目指す。発見した市場で、先行者としての優位性を確保できれば、初期は、価格設定も自社で可能になり、値引きなどで勝負するケースが減る。
アイリスオーヤマは、この、美味しい潜在市場を探し、自社のアイディアと技術をぶつけることが得意なのだ。
アイリスオーヤマのルーム・エアコンの特徴
今回の、ルーム・エアコンも、アイリスオーヤマらしさが満載だ。
Wi-Fiで外出先からも操作できることに加えて、人感センサーによって温度も調節できるのだが、「おやすみモード」で、徐々に温度を上げたり、下げたりできる。設定温度も、8時間後までカスタマイズできる「睡眠モード」や、曜日ごとに設定できるオン・オフタイマーなども、搭載しているとのことだ。これを、スマホの「アプリ」で、直感的に操作ができるようにしている。
潜在的なニーズといっても、家電の新たなカテゴリーに、世の中にない全く新しい製品を出している訳ではなく、ルーム・エアコンという既存の製品カテゴリーに、上記の、既存の「機能」を足している。
エアコンも、各機能も、どこかにはある。しかし、合わさって10万円を切る価格で、ということになると、あまりない。いわゆる「新結合」的な製品だ。
ターゲット設定も秀逸だ。アイリスオーヤマ 家電事業部 統括事業部長 石垣達也氏は言う。
エアコンは一家に1台ではなくて、1部屋に1台がスタンダードになるだろうとみています。現在のエアコン市場は、省エネ性能の争いになっており、利便性の高い商品は存在しますが、価格設定が高いのが現状です。
そこで日本の世帯数の現状に合ったエアコンを発売し、単身・少人数世帯向けに快適で、省エネな暮らしをサポートしたいと考えています。
(「GETNAVI WEB」より)
設備や人件費がかかる大企業では、どうしても、コストがかかるため、大きめの「家族用」「リビング用」のエアコンを開発しがちだ。しかし、核家族化に加えて、1人1室という昨今、パソコン同様、一家に1台ではなく、1人1台のエアコンというニーズがある、と踏んだターゲティングも、ユニークで、なかなかできない発想だ。
アイリスオーヤマはなぜ画期的な製品を生み出せるのか?
ありそうで、ない。という製品を、数多く世に出しているアイリスオーヤマだが、なぜ、このような画期的なアイディアを持つ製品を世に出せるのか?
それは柔軟な思考によるからであろう。
画期的な製品は、良いアイディアから生まれる。しかし、思考停止が、それを邪魔する。この思考停止は、「過去の成功体験」と、「固定観念」によって生まれる。ということは、この2つを取り払えば、画期的な発想ができる、ということになるのだが、発想は「人間」がすることだし、企業体質にも関わることなので、一朝一夕には、変えることができないのが、企業経営者の悩みだろう。
アイリスオーヤマでは、「敵は常識」というスローガンのもと、新卒採用を行っている。このサイトには、製品情報や会社概要と同じくらいか、またはそれ以上の熱意を感じる。
この熱意は、もちろんのことながら、新人だけでなく、全社員に伝わっていると思われる。こうなると従業員たちは、「会社のお墨付きをもらって」、常識にとらわれない発言や、過去の成功体験にこだわらないアイディアを出せるようになる。アイリスオーヤマの、なるほど家電を筆頭にする、市場ニーズに対応した、画期的な製品は、このような社風から生まれてくるのだろう。
どれだけITが進化し、IoTやAIが発達しても、発想の原点、そしてビジネスを動かすのは「人」なのだ。
企業は人なり。我々中小企業が、アイリスオーヤマに学ぶべき点はここにある。
image by: アイリスオーヤマ公式YouTubeチャンネル