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安倍政権大混乱。誰が外務省に東シナ海問題再燃を焚きつけた

対中関係を前進させようと首相が側近を北京に送り込んだ直後、中国の東シナ海のガス田開発施設の写真を公表した外務省。なぜ首相の意図に反するような動きが出てきたのでしょうか。メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』の著者・高野孟さんは、「官邸に巣くう右翼・嫌中派の側近たちが仕掛けた陰謀」と読みます。

「中国脅威論」に飛び移った安倍政権の軽はずみ

対中国姿勢をめぐって安倍政権が大混乱に陥っている。安倍晋三首相は、安保法案による支持率急落に焦って、外交面で何とか目覚ましい成果を出して国会終盤の乗り切りと自民党総裁再選、秋の政局へ向けての政権浮揚に弾みをつけようとしてきた。元々その狙いから仕組んだ北朝鮮の拉致被害者「再調査」は、1年を経て何の回答も出て来ないばかりか、結局は首相側近が北の情報操作に引っかけられただけだったことが判明し、もはや望みはない。そこで、9月3日に北京で開かれる中国の「抗日戦争勝利70周年記念式典」に敢えて乗り込んで対中関係の大きな前進をアピールすると共に、あわよくばそれに出席するロシアのプーチン大統領との会談を実現して、同大統領の年内訪日の日程をも確かなものにしようと企んで、腹心の谷内正太郎NSC局長をモスクワと北京に送り込んだ。

谷内訪中をブチ壊した官邸

7月16日から北京入りした谷内を、中国側は異例と言っていいほどに厚遇し、中国外交政策の司令塔である陽潔チ(注)=国務委員と夕食を含めて5時間半の「ハイレベル政治対話」を行っただけでなく、翌日には李克強首相が中南海に谷内を招いて会談し、さらには日本の政治家や政府高官の前に滅多に(今まで一度も?)姿を現したことのない常万全=国防相・中央軍事委員までが会談に応じた。これについて時事通信は21日付で「安倍首相の9月訪中が実現に向けて大きく動き出した」「9月に訪米を控えた習主席は戦後70年問題で日本との間で厄介な状況を作らないようにしておきたい。日本とのギクシャクした関係に底を打っておきたいというわけだ」と、谷内訪中は大成功とばかりに解説した。

注:ヨウケッチのチは機種依存文字で正しく表示されない。竹かんむり+雁だれ+虎。

ところが、谷内がモンゴル経由で20日に帰国し、遅くとも21日までには訪中成果を安倍に報告したと思われる(官邸日誌では確認できず)がこともあろうに外務省は翌22日、中国が東シナ海の海底ガス田開発で新たに12基のプラットフォームを建設中であるとして、15枚の航空写真まで添えてホームページ上で公表した。谷内の古巣の外務省が、なぜバケツで水をブッかけるような挙に出たのか、誰もが訝しんだが、23日付朝日新聞に載った匿名の外務省幹部によると「官房長官から宿題を出されたので回答せざるを得ない」と、官邸の意向に従ったことを告白した。中国外務省は直ちに「ことさらに対立を作る意図があり、両国の関係改善にとって建設的でない」と反発した。


余りのことに、巷では「菅義偉官房長官が谷内の訪中成功に嫉妬して潰しに出た」という憶測まで流れたが、まさか菅が、安倍の意を受けて訪中した谷内にそんな態度をとるはずがない。推測しうる真相は2つに1つで、1つは、谷内の訪中報告は時事の解説のような楽観的なものではなく、戦後70年談話の中身や文言にまで踏み込んだ極めて厳しいもので、安倍が、そんなにまで言われるならもういい、中国に遠慮するのは止めて思い通りの70年談話を出す、9月訪中も止めだ、それならいっそ参院審議では分かりやすい「中国脅威論」を前面に出して安保法案への国民の理解を取り付けよう──と腹をくくってしまったという場合。

もう1つは、谷内の報告はそれほど悪いものではなく、安倍は70年談話もできるだけ角を丸くして対日批判を避け、何とか9月訪中を実現したいという方向に傾きそうだったので、それに危機感を抱いた官邸に巣くうヘイトスピーチ的なド右翼・嫌中派の側近たちが安倍に相談もせずに官房長官の名前を使って外務省に陰謀を仕掛けたという場合……。

どちらの可能性が高いかと言えば、私は後者で、なぜなら安倍には、一昨年末の彼の靖国参拝の後、ワシントンから繰り返し伝えられている失望や警告や忠告を一切無視して、谷内を通じての対中関係改善の積み上げを投げ捨てるだけの勇気が欠けていると思われるからである。しかし後者であれば一層事態は深刻で、この政権の運営はアウト・オブ・コントロールに陥っていることになる。

image by: 首相官邸

 『高野孟のTHE JOURNAL』より一部抜粋

著者/高野孟(ジャーナリスト)
早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。
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