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30年ひたすら増収増益。ニトリの「異常すぎる」快進撃の背景

株式上場後一度も減収減益に陥ることなく、2017年2月期の決算で30期連続の増収増益を記録と、まさに絶好調のニトリ。その勢いはとどまることを知らないといっても過言ではありません。無料メルマガ『ビジネスマン必読!1日3分で身につけるMBA講座』では、著者でMBAホルダーの安部徹也さんがその快進撃の背景を徹底分析するとともに、同社が掲げる「売上高3兆円」という目標を達成できるか否かについて、MBAの視線で冷静かつ大胆に占っています。

30期連続増収増益を達成したニトリ

日本のインテリア・家具マーケットで圧倒的なシェアを誇るニトリは、2017年2月期の決算で売上高5,129億円経常利益875億円を記録し、売上高は12%、そして経常利益は16.7%と共に2桁の伸びとなり、30期連続で増収増益を達成しました。

ニトリは、1967年に現ニトリホールディングスの会長である似鳥昭雄氏が、札幌に「似鳥家具店」を創業したところからその歴史が始まります。そして、1989年には札幌証券取引所に株式を上場しますが、上場後は一度も減収もしくは減益に陥ることなく、常に成長を続けている類まれな企業です。

また、上場株式の時価総額は2016年6月には1兆4,000億円を超えて上場時の87.5倍に達し、1兆3,000億円超のイオンを抜き去って、3兆9,000億円のセブン&アイ・ホールディングス、そして3兆1,000億円のファーストリテイリングに次いで日本の小売業では3位に浮上する快挙を成し遂げるなど、浮き沈みの激しい小売業界の中でまったく後退することのない快進撃を続けているのです。

ニトリの快進撃の背景には何があるのか?

このニトリの30期連続増収増益という快挙には、どのような背景があるのでしょうか?

一つ目は、その卓越したビジネスモデルが挙げられるでしょう。

ニトリ自身が、自社を「製造物流小売業」と称するように、ニトリでは企画からデザイン、製造、物流、販売までのプロセスを一社で担っています。このように製品の企画から製造、販売までのすべてのプロセスを自社で取り仕切るビジネスモデルは、最初にアパレル業界で大きな成功を収めたことからSPA(Speciality store retailer of Private label Apparel)と呼ばれていますが、ニトリの特筆すべきポイントは、物流まで自社で行うところにあります。それゆえ、コスト削減効果も高く、ユニクロを展開するファーストリテイリングの2016年8月期の売上高経常利益率が5.05%に対して、ニトリの2017年2月期の売上高経常利益率は17.07%にも達し、「お、ねだん以上」の商品を販売しても、実にファーストリテイリングの3倍以上の利益率を叩き出しているのです。

また二つ目として、効果的な出店戦略が挙げられます。

ニトリは、出店に際して特定の地域に集中的に多数の店舗を出店するドミナント戦略を採用しています。狭いエリアに多くの店舗網を築くことにより、効率的な配送が可能になり、コスト削減も可能になりますし、店舗を目にする頻度が高まることから認知度も向上するなどブランディング効果も期待できるのです。加えて、顧客が気軽に立ち寄れる距離に店舗が点在するため、思い立ったらすぐに店舗を訪れることができるなど、売り上げ機会を逃さないというメリットもあります。

ニトリのビジネスに最も影響を与えるもの

確かにニトリの快進撃には、卓越したビジネスモデルや効果的な出店戦略などが大きく貢献していますが、最も影響力が大きいのは、創業者である似鳥昭雄氏の確固たる経営哲学にあるといっても過言ではないでしょう。

その経営哲学の原点は、今から45年前にアメリカで開催された「家具研修セミナー」にまで遡ります。

似鳥昭雄氏は、23歳の時に札幌に1号店を出店した後、27歳の時には北海道に2号店として郊外型の大型店をオープンしましたが、思うように売り上げが伸びずに窮地に陥ってしまいます。そんな矢先、アメリカで「家具研修セミナー」が開催されることを耳にして、参加したいと思うものの、受講には40万円もの費用を工面しなければなりませんでした。2号店の苦戦で資金繰りに窮していた似鳥氏にとって40万円は大金。そこで、親戚からなんとかお金を借りてアメリカへ渡ります。

当時、借金をしてまで多額の資金を投じ、清水の舞台から飛び降りる気持ちで参加したこのセミナーは、似鳥氏の人生の大きな転機となり、ビジネスはターニングポイントを迎えることになるのです。

アメリカに渡った似鳥氏は、販売されている家具の品質が素晴らしいばかりでなく、使う立場に立った機能も充実しており、そのうえ価格は日本の3分の1という現実にカルチャーショックを受けます。そして、この研修を境に、日本人のクオリティ・オブ・ライフの向上や世の中の役に立つことをやりたいという熱い想いが沸々と湧いてきて、「欧米並みの住まいの豊かさを日本のそして世界の人々に提供するというロマン」を抱くようになったのです。

アメリカから帰国後、似鳥氏はこの「ロマン」を達成すべく、ニトリの「60年ビジョン」を明確、かつ具体的に描いていくことになります。まず第1期を1973年から2002年の30年に設定し、「日本一の家具小売業」を目標に全国に100店舗を出店し1,000億円の売り上げを達成することを目指したのです。

この第1期のビジョンは、1年遅れとなりますが、見事2003年には達成しています。

そして、第2期の30年は2003年から2032年になりますが、次のようなビジョンを描いています。

<2012年> 300店舗 売上高3,488億円
「トータルコーディネートのニトリ」へ

 

<2017年> 500店舗 売上高5,500億円
日本の地方の暮しを変革。海外チェーン展開の本格的スタート。

 

<2022年> 1,000店舗 売上高1兆円
国内のドミナントエリア化により日本の暮らしの変革へ

 

<2032年> 3,000店舗 売上高3兆円
世界の多くの人々の豊かな暮らしに貢献。世界A級の「暮らし提案企業へ」

ニトリはこのようにロマン(志)とビジョン(中長期計画)を中心に、意欲、執念、好奇心を加えた「成功の5原則」という似鳥昭雄氏の経験に基づく経営哲学が社員一人ひとりに浸透することによって、組織としてのシナジーを最大限に発揮することが可能となり、ビジョンを確実に達成していくことにつながっているのです。

果たしてニトリは売上高3兆円企業になれるのか?

2032年には店舗数を3,000店舗まで拡大し、売上高3兆円企業を目指すニトリですが、果たして本当に3兆円の売上高を達成することができるのでしょうか?

2017年2月期の売上高は、家具・インテリア小売業の中で圧倒的な規模を誇りますが、それでもまだ5,000億円程度。残り15年で6倍の成長を実現させなければなりません。

ただ、確かに現状のニトリにとってはかなり高いハードルに思われますが、達成不可能なレベルと結論付けるのは早計でしょう。

そう、世界の家具・インテリア小売業界では、すでにIKEAが2016年度の決算で4兆円を大幅に超える売り上げを記録しているのです。

もちろん、日本の家具・インテリア小売業のみでは市場規模から見ても3兆円は恐らく達成不可能な数字だと思われますが、ビジョンに描いているように、「世界の多くの人々の豊かな暮らしに貢献し世界A級の暮らしを提案できる企業」に進化することができれば決して夢物語ではないともいえます。

つまり、IKEAと同じように、世界の多くの国々で成功を収めることができれば、自ずとビジョン達成が近づくことになるのです。

もし、ニトリが今後益々グローバル化を推し進めていくのなら、すでにグローバルマーケットで大きな成功を収めているIKEAとの争いは避けて通れないかもしれません。

日本市場においては、ニトリの5,129億円(2017年2月期)に対してIKEAは767億円(2016年8月期)と6倍以上の売り上げ規模を誇りますが、グローバルレベルで比較すると4兆2,205億円のIKEAとは逆に8倍を超える開きがあることを考えれば、現状は正面から戦っても勝てる相手ではありません。

それではここで今後のニトリのグローバル戦略を予想すべく、グローバルマーケットで最強のライバルと成り得るIKEAとの比較を行ってみることにしましょう。

【店舗数】

まず、店舗数ですが、現状ニトリが471店に対して、IKEAは340店しかありません。それぞれ、日本、ヨーロッパなど本拠地での店舗数が大半を占めていますが、IKEAが28カ国に展開しているのに対してニトリは日本、台湾、中国、アメリカと現状はわずか4つの国と地域のみです。海外への出店の観点からは、IKEAにもまだまだ拡大の余地はありますが、ニトリはまだ本格化しておらず、それゆえ伸びしろが大きいともいえるでしょう。

【戦略】

ニトリは471店で売上高5,219億円ですが、IKEAはわずか340店で売上高4兆2,205億円に達しています。ここで1店舗当たりの売上高を計算すれば、ニトリの11億円に対してIKEAは124億円と11倍を超える開きがあります。これは出店戦略の違いに起因するものといえるでしょう。ニトリがドミナント戦略で15万人から20万人程度の比較的小さい商圏で店舗が近接するように出店しているのに対して、IKEAは大型店戦略で100万人から150万人の大きな商圏に大規模店を出店し、1店舗当たりの売上高が最大になるような出店戦略を採用しています。このように出店戦略面では大きな違いがあるのです。

【商品】

商品自体も、ニトリとIKEAではその特徴に大きな違いがあります。共にSPAモデルで商品企画からデザイン、製造、販売を自社のみで展開するビジネスモデルを導入していますが、機能性を重視したベーシックなデザインを主流とするニトリに対して、IKEAは北欧のファッショナブルなデザインを取り入れた商品が中心となります。アパレル業界で例えていうならば、ベーシックなデザインのユニクロとファッショナブルなデザインのH&Mというポジショニングとほぼ同じといえるでしょう。

デザインもニトリは基本的に社内のデザイナーを活用する一方で、IKEAでは社内外のフリーランスのデザイナーがデザインしたものを、デザインの素晴らしさはもちろんのこと、かかるコストやIKEAの環境基準への適合など、様々な面からチェックして最終的に決まった案にデザイン料を支払うというシステムになっているのです。

このようにグローバルマーケットでは、ニトリのかなり先を行くIKEAですが、特徴を比較してみると、必ずしも正面からぶつかり合う関係ではなく、ニトリにもグローバルマーケットでのチャンスは大いにあるといっても過言ではないでしょう。今後、IKEAがヨーロッパを中心に事業拡大を図る中、ニトリは日本企業の強みを活かして中国や東南アジアを中心にドミナント戦略で集中的にマーケットを開拓していくことができるのではないでしょうか。

グローバル戦略では、業界は違えど機能を重視したシンプルなデザインという商品特性が似通ったユニクロを展開するファーストリテイリングの海外進出のケースをベンチマークすることもできるかもしれません。

ただ、これまで順調にビジョンを達成してきた似鳥昭雄氏率いるニトリといえども、今後のハードルは益々高くなることは間違いないでしょう。

果たして、思い描いたビジョン通りにニトリを店舗数3,000店、売上高3兆円の巨大なグローバル企業に導くことができるのか?

ニトリの飽くなき成長への挑戦はこれからもまだまだ続きます。

 

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【著者】 安部徹也 【発行周期】 ほぼ 週刊

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