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安倍総理が語り始めた「憲法改正案」は、どこに無理があるのか?

安倍総理は5月3日、改憲派の集会に寄せたビデオメッセージで、「2020年の改憲」を目指すことを改めて強調、さらに、「憲法9条の1項と2項は残した上で、自衛隊の存在を明記する条文を加える考え」であることを明らかにしました。無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者・北野幸伯さんはこれを受け、「安倍総理の主張にはかなり無理がある」とし、その理由を詳述しています。

ここがヘンだよ!安倍総理の「憲法改正案」

安倍総理が、いよいよ念願の「憲法改正」に動きはじめました。今日は、総理ご自身の提案」について考えてみましょう。

まず、毎日新聞5月3日を見てみましょう。

<安倍首相>「9条に自衛隊明記」「改憲20年施行目指す」

毎日新聞 5/3(水)21:32配信

◇改憲時期に初言及 憲法改正推進派集会にビデオメッセージ

 

安倍晋三首相は3日、憲法改正推進派の民間団体が東京都内で開いた集会に自民党総裁としてビデオメッセージを寄せ、「2020年を新しい憲法が施行される年にしたいと強く願っている」と表明した。

具体的な「時期」が出てきました。「2020年を新しい憲法が施行される年にしたい」そうです。で、総理は、どこをどう変えたいのでしょうか?

憲法9条をあげ、戦争放棄をうたった1項と戦力不保持を定めた2項を堅持した上で、自衛隊の存在を明記する条文を加えるよう主張。
(同上)

憲法9条の1項と2項は変えない。変えずに「自衛隊の存在を明記する条文を加える」そうです。この総理の主張、はっきりと覚えておきましょう。後で、もう少し詳細に見ます。

総理は、何を語ったか?

産経新聞5月3日に、安倍総理のビデオメッセージ「全文」が出ていました。総理ご自身が何を語ったのか、みてみましょう。

例えば、憲法9条です。今日、災害救助を含め、命がけで24時間、365日、領土、領海、領空、日本人の命を守り抜く。その任務を果たしている自衛隊の姿に対して、国民の信頼は9割を超えています。

 

しかし、多くの憲法学者や政党の中には、自衛隊を違憲とする議論が、いまなお存在しています。「自衛隊は、違憲かもしれないけれども、何かあれば命を張って守ってくれ」というのは、あまりにも無責任です。

総理は、「自衛隊を違憲』(=憲法違反とする政党や憲法学者が存在していることを憂慮されている。それで

私は、少なくとも私たちの世代のうちに、自衛隊の存在を憲法上にしっかりと位置付け、「自衛隊が違憲かもしれない」などの議論が生まれる余地をなくすべきであると考えます。
(同上)

つまり、総理は、「自衛隊を文句なしの合憲にしたい」と考えておられる。ここまでの話を聞いて、「護憲原理主義者」でないかぎり、ほとんどの人が、「そうかもしれないな~~」と思うのではないでしょうか? 問題は次です。

もちろん、9条の平和主義の理念については、未来に向けてしっかりと、堅持していかなければなりません。そこで、「9条1項、2項を残しつつ、自衛隊を明文で書き込む」という考え方、これは国民的な議論に値するのだろうと思います。
(同上)

9条1項2項を残しつつ自衛隊を明文で書きこむ」。

これが、総理の「憲法改正案重要ポイントである。この部分、もう少し掘り下げてみましょう。

憲法9条1項、日本の常識は、世界の非常識

安倍総理が「残す」と断言しておられる、「憲法9条」をみてみましょう。まず1項から。

第九条【戦争放棄、軍備及び交戦権の否認】

 

1 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。

戦争放棄」「平和主義」ですね。これを総理は「残す」としている。保守もリベラルも、あるいは普通の国民も賛同する人が多いのではないでしょうか?

この9条1項について、日本人が知っておいた方がいい事実があります。まず、「戦争放棄」「平和主義」は、「世界唯一ではない」。

日本には、「世界で唯一の平和憲法」と主張する人がたくさんいます。それで、憲法9条を、「世界遺産に!」とか、「ノーベル平和賞に!」などという人までいる。

しかし、実をいうと、「平和主義憲法、「特殊なことではありません。憲法学者・西修先先生の調査によると、何らかの「平和主義条項が憲法にある国は124か国(1989年時点)。日本と同じように「国際紛争解決の手段としての戦争を放棄する」としている国々は、アゼルバイジャン、エクアドル、ハンガリー、イタリア、ウズベキスタン、カザフスタン、フィリピンの7か国。というわけで、日本国民も政治家の皆さんも、「日本国憲法自慢はやめた方がいいです。

もう一つ。「戦争放棄、「自衛権を否定しない」ということ。この条項があるからといって、

日本が反撃できないわけではありません。細かい話になりますが、9条の「平和主義」「戦争放棄」は、1928年の「パリ不戦条約」がモデルになっています。この条約で、

が「違法」とされた。

しかし、条約提唱者のケロッグ米国務長官は、「自衛戦争は対象外!」と断言し、それが世界共通の認識になっています。ですから、「憲法9条がある北朝鮮が攻めてきても反撃するのは違憲だ!とはなりません。北朝鮮や中国が攻めてきたら、反撃するのは合憲」です。ですから、「攻められても反撃できないこと」を理由に「憲法9条1項改正」を主張するのは、知識が不足しているか、憲法改正自体が「目的化」しているかのどちらかです。

憲法9条2項を残し、自衛隊を「合憲化」するのは困難

次、これも総理が「残す」と断言している「2項」をみてみましょう。

2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

陸海空軍その他の戦力はこれを保持しない」そうです。

「え~~~~、自衛隊は戦力じゃないの???」。これ、どうですか? 子供からお年寄りまで、全国民が自衛隊は「戦力」であることを知っています。憲法には、「戦力を保持しない」とあるのに、「戦力である自衛隊が存在している。「これは、違憲だ!」というわけです。

皆さん、どうですか? 普通に考えたら、「違憲」でしょう? 自衛隊は、「戦力」ですから。しかし、私は、「自衛隊は違憲だから解散しましょう」とはいいません。日本の安全のために自衛隊は絶対必要だからです。

となると、

という話になります。安倍総理は、「憲法を改正して矛盾を解消する」と宣言しておられる。その方法について、総理は、こう断言している。「9条1項2項を残しつつ自衛隊を明文で書きこむ」。「2項を残す」とはっきりおっしゃっています。

もう一度2項を見てみましょう。

2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

これをそのまま残して、「自衛隊を明文で書きこむ」とは、いったいどういうことでしょうか? 皆さんは、どう思いますか? 私には、正直理解できません(もちろん、言葉の意味はわかりますが…)。どう書いても、「戦力は保持しない」とはっきり書かれている2項をそのまま残す限り矛盾は解消されないと思いますが…。

どういう話になるかわかりませんが、安倍総理のおっしゃる、「9条1項、2項を残しつつ、自衛隊を明文で書きこむ」、1項はともかく、2項を残して自衛隊を合憲化」するというのは、相当困難だろうと思います。それより、「2項を削除」すれば、すべての矛盾が解決します。

憲法改正が世界と日本に与える影響

次に、日本の憲法改正が世界と日本に与える影響について考えてみましょう。

皆さんご存知のように、中国は2012年11月、ロシア、韓国に、「反日統一共同戦線」戦略を提案しました。その骨子は、

  1. 中国、ロシア、韓国で、「反日統一共同戦線」をつくる。
  2. 中ロ韓で、日本の領土要求を断念させる。
    断念させる領土とは、北方4島、竹島、尖閣・「沖縄」である(日本に「沖縄」の領有権はない!!!)
  3. 「アメリカ」を「反日統一共同戦線」に引き込む。

● 必読絶対証拠は、こちら→反日統一共同戦線を呼びかける中国

中国は、この戦略でずっとやっています。中国が、アメリカ、ロシア、韓国を説得する時に使っているのが、以下のロジックです。

この傾向の「証拠」として、中国が挙げているのが、

などです。「憲法改正」がなぜ「軍国主義化」に繋がるかというと、日本のリベラルと同じ主張ですね。「平和憲法を修正するのは軍国主義化の証拠」というのです。

そして、「アメリカ製日本憲法を変えるのは、日本が再びアメリカに反逆する前兆だ!」と嫌がるアメリカの政治家もいます。私たちには「バカバカしい主張」ですが、リベラルなオバマさんは、2013年~2014年はじめまで、かなり中国に賛同していました。

日米関係は、2014年3月の「クリミア併合」、2015年3月の「AIIB事件」を経て良好になった。しかし、オバマさんは、安倍総理が登場して1年以上、中国の戦略に乗せられていました。

憲法改正」。それがどんな形のものであれ、中国韓国は大騒ぎするでしょう。アメリカはどうでしょうか? オバマさんと比べれは、トランプさんの理解は得やすいと思います。しかし、中国に近いアメリカ民主党からは反対の声があがることでしょう。

中国の対日戦略の最重要ポイントは、「日米関係を破壊すること」。ですから、憲法を改正するにしても、アメリカのリアクションを十分リサーチしておく必要があるでしょう。

中国は、熱心に「トランプ懐柔工作」をやっているので、まったく油断できません。そして、安倍総理の主張自体かなり無理があるので、「じっくり議論が必要」というのは、そのとおりですね。

image by: 首相官邸

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【著者】 北野幸伯 【発行周期】 不定期

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