今月16日、北京で習近平国家主席と会談した二階幹事長。習氏は「両国が歩み寄って関係を正しい方向に発展させたい」と述べ、終始和やかなムードだったと伝えられています。これを受け、無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者で中国事情にも詳しい北野幸伯さんは、「日中関係は以前に比べると改善された」としながらも、「中国には今後も警戒が必要で、決してアメリカの存在を忘れてはならない」と指摘しています。
日本と中国、「適切な距離」の測り方
2012年の「尖閣国有化」以降、最悪になっていた日中関係。少しよくなってきたようです。「親中派」の代表、二階さんは5月16日、習近平と会談しました。結果は?
二階幹事長、中国の習国家主席と会談 安倍首相親書、首脳の相互訪問呼び掛け
産経新聞 5/16(火)13:10配信
【北京=石鍋圭】自民党の二階俊博幹事長は16日午前、北京で習近平国家主席と会談した。習氏は「両国が歩み寄って関係を正しい方向に発展させたい」と述べ、日中関係の改善に意欲を示した。二階氏は安倍晋三首相の親書を手渡した。首相は親書で「適切な時期」に両国首脳の相互訪問を実現したいとの考えを伝えた。
習近平が、「両国が歩み寄って関係を正しい方向に発展させたい」と言ったそうです。これを聞いて、読者の皆さんの多くは、「またウソ言ってる」という反応かもしれません。二階さんについては、「やめてくれ!」と思うかもしれません。特にRPE読者の皆さんは、中国の「反日統一共同戦線戦略」を暗記していることでしょう。その骨子は、
- 中国、ロシア、韓国で、「反日統一共同戦線」をつくる。
- 中国、ロシア、韓国は、日本の領土要求を断念させる。
断念させる領土とは、北方4島、竹島、尖閣・「沖縄」である(中国によると、日本に「沖縄」の領有権はない!!!)。 - 「反日統一共同戦線」には、「アメリカ」を引き入れなければならない。
●絶対必読、完全証拠はこちら→反日統一共同戦線を呼びかける中国
これを知ったら、「習近平、またウソ言ってる」「二階さんやめて!」という反応になるのは、当然かもしれません。しかし…。
日中関係は、米中関係に比例していなければならない
トランプは、「反中大統領」として登場しました。しかし、就任わずか4カ月で、ずいぶん懐柔されてしまったようです。なぜ?
まず、中国が必死の「懐柔工作」を行っている。そして、トランプは、「北朝鮮問題」で中国と協力せざる得ない。北朝鮮を生かすも殺すも、中国次第なのですから。この二つの理由で、トランプは、「私は習近平が大好きだ!」と公言するまでになっています。
一言でいうと、「米中関係が好転している」。こういう状況下で、日本が「強固な中国包囲網を築かなければならない!」と主張し、突っ走れば、孤立します。アメリカは、「好きにやって!」と、梯子を外すかもしれない。だから日本は、米中関係が悪いときは、日中関係もそれなりに悪く、米中関係が良くなってきたら、日中関係もそれなりに良くしていく必要があるのです。
現在、米中関係が良くなってきている。だから、日中関係がそれに比例してよくなっていくのは、正しい方向です。
大切なのは、「優先順位」
では、日中関係は、どのくらい良くなるべきなのでしょうか? 大切なのは、「優先順位」をはっきりと知っておくことです。なんの優先順位??? つまり、日米、日中関係の重要度は常に、
- 日米関係 >>> 日中関係
である。つまり日本にとっては、軍事同盟国アメリカとの関係が、中国との関係より「優先される」ということです。将来どうなるかわかりませんが、現時点ではそういうことです。
「そんなことは、当たり前だろ!」
こういう反応の人が多いでしょう。しかし私たちは、日中関係 >>> 日米関係 になった例をあげることができます。
アメリカを出し抜いた田中角栄
1960年代末、ニクソン大統領は、ソ連に対抗するために、中国と和解することにしました。1972年、ニクソンは、中国を訪問。「台湾に関する5原則」を提示し、台湾を事実上見捨てます。このニクソン訪中で、米中関係は、どうなったのでしょうか? キッシンジャー大統領補佐官が、「回顧録」でこう書いています。
事実上の同盟関係への移行を意味した。
当初はアジアに限定されていたが、その取り組みは一年後には拡大して、残りの世界も包含された。中国と米国の協議は、正式な同盟国の間でもまれな濃密なレベルに達した。
どうですか、これ? 1972年時点で、米中は、「事実上の同盟関係だ」と、キッシンジャーが言っている。このキッシンジャーは、しばしばトランプに会っています。なんでも、「トランプの外交指南役」だとか。トランプが「親中」になってきた原因の一つが、このおじさんにあることは、間違いないでしょう。
さて、ニクソン訪中は、1972年2月。日本では、田中角栄が72年7月、総理大臣に就任した。彼は、同年9月訪中し、「アッ」という間に「日中国交正常化」を成し遂げてしまいます(ちなみに、米中国交正常化は、1979年)。
アメリカを出し抜こうとする田中総理に、キッシンジャーは大激怒。「ジャップは最悪の裏切り者!」と絶叫したことが、明らかになっています。共同通信2006年5月26日から。
「ジャップは最悪の裏切り者」(解禁された米公文書より)
72年にキッシンジャー氏
【ワシントン26日共同】ニクソン米大統領の中国訪問など1970年代の米外交政策を主導したキッシンジャー大統領補佐官(後に国務長官)が72年夏、田中角栄首相が訪中して日中国交正常化を図る計画を知り「ジャップ(日本人への蔑称)」との表現を使って日本を「最悪の裏切り者」と非難していたことが、26日までに解禁された米公文書で分かった。
この時、田中角栄は明らかに、日中関係を日米関係より優先させていました。つまり、
- 日中関係 >>> 日米関係
それで、得をしたのは、どの国でしょう? そう、中国ですね。日本とアメリカが「中国愛」を競う状態になり、中国は急速に発展していった。毛沢東と鄧小平の外交は、まことに見事でした。
「人民解放軍の野戦軍司令官」になった小沢一郎
もう一つの例は、田中角栄さんの弟子・小沢一郎さんです。08年、リーマン・ショックから「100年に1度の大不況」が起こります。世界中の国々が、「アメリカは沈み、中国は昇る」と思った。これは、実際そうだったのです。
アメリカの沈没と、中国浮上は、日本の政界にも大きな影響を与えます。そう、親米自民党が沈み、親中民主党が政権をとった。鳩山・小沢コンビは、露骨に「アメリカ軽視、中国重視」に外交を転換します。
09年12月、大訪中団を率いて北京に乗り込んだ小沢一郎幹事長は、「私は、人民解放軍の野戦軍司令官である!」と宣言します。小沢さんは、師匠の田中角栄さんと同じで、日中関係を日米関係より大事にした。
それで、どうなりましたか? 比較的最近のことですので、私たちは覚えています。
日中和解はいいが、「工作」には要注意
というわけで、日中関係は、
- 米中関係と比例していなければならない
(米中関係が悪いときは、日中関係も悪く、良いときは良く) - 軍事同盟関係にある日米関係は、常に日中関係より優先される(これが逆転すると、ロクなことがない)
中国は、外交というか「工作」が得意なので、よほど注意が必要です。
「反日統一共同戦線戦略」第3のポイントは、「アメリカを戦線に引き入れる」でした。そのためには、「日本とアメリカを分裂させなければならない」。どうやって?
一つは、アメリカで、「安倍は右翼」「安倍は軍国主義」「安倍は歴史修正主義者」とプロパガンダする。これ、2013年から2014年初めにかけて、かなり成果が出ていました。リベラル・オバマさんが、中国のプロパガンダにひっかかった。
それがダメなら、中国は、「日本と大の仲良しになる」という方法もありますね。田中角栄さんや小沢一郎さんの時代を思い出してください。日中関係がよくなったので、結果、日米関係が悪化した。ですから、安倍総理、中国との関係を良くするのはいいですが、それで日米関係が損なわれないよう、細心の注意が必要です。
「トランプに5回会ったら、習近平に1回会う」くらいの頻度がちょうどいいでしょう。