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効いているのか? 前川前事務次官が「個人攻撃」されだしたワケ

前川喜平前文部科学省事務次官から次々と明かされる「新事実」で、なおも荒れそうな加計学園問題。無料メルマガ『ジャーナリスト嶌信彦「時代を読む」』の著者・嶌信彦さんは、「政治の側が寄ってたかってたたきに回るのは、やましいことがあるからとも取れる。安倍一強政治も、驕り高ぶれば転げ落ちる可能性がある」と、政権の姿勢を厳しく批判しています。

驕りが過ぎると高転びも…加計学園問題で異様な擁護と役人たたき

先日、森友問題より加計学園の方が大事になるとコラム(※)に書いたが、何やらそんな成り行きになりつつある。官邸、関係省庁はフタをしてしまいたいようで、事態を暴露した文科省の前川喜平前事務次官の証言を寄ってたかっておとしめている。しかし、世間は菅官房長官などの異様な言い方にかえって不審をもっているのではなかろうか。このままフタをされてしまったら政治不信は極まり、安倍政権の横暴ぶりにも批判が高まるに違いない。

学部新設を突然認めた安倍内閣

加計学園の加計孝太郎理事長は、小泉内閣が経済特区を構想した約15年前から獣医学部を新設したいと許可を願いでていたという。しかし近年の獣医師の需給関係や既存の獣医師養成とは異なる構想、ライフサイエンスなど新たに対応すべき具体的分野の需要が見えないこと──などを理由に新設要請は却下されていた。要するに新たな需要が見えず特別な特色を持たない学部新設は必要ない、と文科省などが認めてこなかったのだ。

ところが安倍内閣が登場し、新たに戦略特区構想が発表されると安倍首相と長年の友人であった加計氏の学部新設構想が簡単に認められた。しかも加計学園には新設にあたり地元となる今治市は36億円余の私有地を獣医学部用地として無償譲渡し、県と共同で最大96億円の施設整備費を負担することになったため、文科省が安倍首相と加計氏の長年の友人関係を忖度して許可したのではないかと疑惑がもたれたわけだ。事は疑惑のまま封印されるかと思われていた。

前川前文科次官の反論

ところが文科省の前川喜平前事務次官が総理の意向を示す文書が文科省にあり、その意向により公平・公正であるべき行政が歪められた」と記者会見で明らかにした。つまり10年以上却下していた学部新設の話が、経済特区(小泉政権時代)から戦略特区構想に変わり、総理の長年の友人の学部新設の申請が出た途端、方針を180度変えてしまったことに異議を申し立てたのである。

退任したトップの前次官が「総理の意向を示す文書があったし自分も見た」というのは余程の覚悟がないと言いにくいことだ。しかも安倍首相はいまや5年間も総理の座にあり、衆参両院で与党の公明などと共に過半数を占める「一強の権力を有している。その安倍内閣に前官僚トップとはいえ批判をするのは余程の覚悟がないとできまい

案の定、政権側からは批判の嵐だ。菅官房長官、松野文科相、竹下国対委員長、二階幹事長らは「辞職した人についてのコメントは控える。再調査する意向はない」「あの人は地位に恋々としがみつき最終的に辞められた人」「適正な手続きにのっとって国家戦略特区の方法が進められていると認識している」「総理、官房長官の発言と辞めた官僚の発言どちらを信ずるか、と問われれば総理たちの方を信ずる」──など総攻撃といった様子で、「役人が何を言う」といった姿勢だ。むろん総理も働きかけを全面否定している。

文科省役人も援護せず

一方の文科省側は、表向きは「手心を加えたということはない」と政権側の意向に沿った言い方をしたり「言うのなら次官在職中に言って欲しかった」など、援護する動きは今のところない。前川氏も「後輩たちやお世話になった方々にご迷惑をおかけしたことになりその点では申し訳ない。しかしあったことをなかったことにすることはできないし、公平公正であるべき行政が政治の力で歪められることは看過してはならないと思った。今は官邸にモノ申す雰囲気が役所全体にない」と役人があるべき「吏道」を考え直したくて申し立てたと訴えている。

菅官房長官も異様な個人攻撃

それにしても、政治の側が寄ってたかってたたきに回っている姿には唖然とする。特に普段は冷静にみえる菅官房長官らが「前川氏は何度も出会い系バーに行っていた」などと個人をおとしめるようなことまで発言したことには驚きを禁じ得ない。かつて毎日新聞の西山記者が政府の秘密文書を官庁の女性から情を通じて入手したとあえて言及し、西山氏個人を攻撃するとともに情報価値を低くみせようと小細工したことを思い出す。

政権側がこうまでムキになって前川前次官を攻撃するのはやましいことがあるのか今後へのみせしめとしてたたいているのかと勘ぐりたくなる。

前川氏は証人喚問に応じてしゃべってよいとも言っているが、政権側は「辞職した人に聞いても仕方ない。文書の存在についても再調査しない」とすげない。だとしたら10年以上も拒否してきた認可をなぜ今回は認可に変えたのか。せめてその理由と事情を明かすべきだろう。

政府が潔白を言い張るなら堂々と国民の前で証人喚問を行ない両者の言い分を知らせるべきだろう。最近の「安倍一強政治は国民の感覚とはどんどん離れているのではないか。自民・公明の中から注文をつける人物がほとんどいないことも困ったものだ。「政治の一寸先は闇」という。驕りが過ぎると政権も高転びする危険があることを肝に銘じた方が良い。

「オレ様第一」から「公」の政治へ(Japan In-depth)

image by: 360b / Shutterstock.com

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ジャーナリスト。1942年生。慶応大学経済学部卒業後、毎日新聞社入社。大蔵省、日銀、財界、ワシントン特派員等を経て1987年からフリー。TBSテレビ「ブロードキャスター」「NEWS23」「朝ズバッ!」等のコメンテーター、BS-TBS「グローバル・ナビフロント」のキャスターを約15年務め、TBSラジオ「森本毅郎・スタンバイ!」に27年間出演。現在は、TBSラジオ「嶌信彦 人生百景『志の人たち』」出演。近著にウズベキスタン抑留者のナボイ劇場建設秘話を描いたノンフィクション「伝説となった日本兵捕虜-ソ連四大劇場を建てた男たち-」を角川書店より発売。著書多数。NPO「日本ニュース時事能力検定協会」理事、NPO「日本ウズベキスタン協会」 会長。先進国サミットの取材は約30回に及ぶ。

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【著者】 嶌信彦 【発行周期】 ほぼ 平日刊

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