【書評】有名アパレルの社長らが明かす、業界を追い込んだ真犯人

 

さっそく、赤ペンチェック行きましょう。

国内アパレルの市場規模は1991年に約15.3兆円あったが、2013年には約10.5兆円に縮小した。ここ数年は訪日外国人による「爆買い」特需が底上げしていると見られ、これを除けば既に10兆円割れしている可能性がある。一方、供給されるアパレルの数量は1991年時点で約20億点だったが、2014年には約39億点に増えている

ユニクロや欧米ファストファッションは、アパレル産業の川上から川下までの情報を正確に把握し、サプライチェーン全体を合理的に管理している。消費の変化に応じていち早く工場や売り場に指示を出すのが大きな強みだ。中国での大量生産や積極的な出店攻勢で注目を集めていたが、強さの本質はサプライチェーンのすべてを把握している点にある。だがそれに気付かなかった既存の大手アパレル企業は、製造拠点を中国に移すだけで、ユニクロや欧米ファストファッションと同じように人件費を安く抑えられ、大量生産によるスケールメリットによって製造コストを下げられると考えた

一言で言えば、OEMの弊害だ。OEM自体は昔から一般的だったが、アパレル企業が「売れ筋を、安く、速く」作ろうとするあまり、いつしか商品企画やコンセプトまで外部に丸投げするようになった。もちろん、商社やOEMメーカーが悪いわけではない。アパレル企業が手間を惜しみ、何も考えないまま発注することが問題なのだ

SCが増え、競争が激しくなるほど、近隣SCとの差別化が必要となり、アパレル企業に対して「ほかにはないブランドを出してほしい」という要望が強まる。これを受け、アパレル企業は次第に「わずかに商品構成や名前が違う」だけのブランドを乱発していった

三陽商会が2018年12月期の黒字化を目指して打ち出した施策を要約すると、「SCやファッションビルに販路を広げ、ネット通販にも注力。流行を敏感に反映するため、商品企画のサイクルを短くする」というもので、これまで指摘してきたアパレル業界の不振の原因と奇妙に符合する

「店舗はサロンのような役割。ネット通販の購買履歴を活用し、顧客の嗜好を理解した上で接客する方が、我々にとってもお客さんにとっても効率的。一等地に店を持つ必要はない」(エムエムラフルールのサラ・ラフルールCEO)

通常、アパレル企業は翌シーズンのサンプル品を、その前シーズンにお披露目する。展示会で注文を取るためだ。この展示会に出席できるのは業界関係者やメディア関係者に限られていた。だがナノ・ユニバースは、サンプル品が出来上がった段階でゾゾタウンに掲載。関係者ばかりではなく、一般の利用者からも商品の予約を受け付けるようにした

あまりに構造が出版業界と似ていて見ていて苦しい本です(苦笑)。

既存企業不振の分析も面白かったですが、何と言っても、新興企業台頭の部分が面白かったです。「アジアのLVMH」を狙うトウキョウベース、桃太郎ジーンズを手掛けるジャパンブルーなど、新興企業のさまざまな取り組みが見られて、良い勉強になりました。

一読の価値アリです。ぜひ、読んでみてください。

image by: Shutterstock.com

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Amazon.co.j立ち上げに参画した元バイヤー、元読売新聞コラムニスト、元B11「ベストセラーBookV」レギュラーコメンテーター、元ラジオNIKKEIレギュラー。現在は、ビジネス書評家、著者、講演家、コンサルタントとして活動中の土井英司が、旬のビジネス書の儲かる「読みどころ」をピンポイント紹介。毎日発行、開始から既に4000号を超える殿堂入りメルマガです。テーマ:「出版/自分ブランド/独立・起業」

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【著者】 土井英司 【発行周期】 日刊

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