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中国は、30年遅れて日本と同じ道を歩んでいる。次は暗黒の20年

先日掲載の記事「中国共産党が最も恐れた男・劉暁波氏はどんな人物だったのか?」を、「劉さんの夢は、早晩実現することでしょう」という一文で結んだ無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者・北野幸伯さん。早速読者から、その根拠を尋ねるメッセージが届きました。北野さんは何を基準にそのように判断したのでしょうか。最新号にはその論拠が記されています。

中国の体制崩壊はあるか?

前号では、中国の人権活動家・ノーベル平和賞受賞者、劉暁波さんの生涯について書きました(まだの方はこちら。「中国共産党が最も恐れた男・劉暁波氏はどんな人物だったのか?」)。

この記事の最後に、こんなことを書きました。

劉さんの夢は、早晩実現することでしょう。

この一文を読んだ読者さんから、質問が届きました。

北野様、いつも本当にインテリジェンスの高い貴重な情報をありがとうございます。読者の鳥人と申します。愛国と現実路線のバランスの取れた見事な提言は、毎回心から賛同するものばかりです。

 

さて、今回のメルマガですが、最後に、「劉さんの夢は、早晩実現することでしょう」という、かなり重大なメッセージがさり気なく入っていましたが、これに関してもう少し具体的に書いていただけないでしょうか。共産党が考えを改め、劉氏のイデオロギーを採用することはありえないと思うので、これは劉氏のイデオロギーを元にした革命が起きるということを言っているのでしょうか?

 

特に「早晩」と、他の誰でもなく北野さんが書いている点が気になります。こう書くからには、何らかの根拠というか判断基準があったと思うので、可能であればぜひそれを教えていただけないでしょうか? もし、その具体的な内容を書くことが「早晩の実現」にとって妨げとなるならば、せめて「その具体的な根拠は今は言えない」とでも伝えていただくだけでも結構ですので。引き続きよろしくお願いいたします。

お答えいたします。

中国の見通しは、12年前から変わらず

私は、34歳のとき、『ボロボロになった覇権国家』という本を書きました。一言でいえば、「アメリカの没落は不可避」という内容です。当時は、「そんなバカな~~~」という反応でしたが、いまは、「よくわかりましたね!」といわれます。そう、今では、一般人も「アメリカの衰退が著しいこと」を知っているのです。

この本では、中国の見通しも書いています。

というものでした。当時は、「北京オリンピック、上海万博の反動でバブルが崩壊。そして、体制崩壊に進む」という、「中国崩壊論」が流行っていました。しかし、私は、「08~10年の危機を短期間で乗り越える」と見ていた。実際そうなりました。

08年9月、リーマン・ショック直前に、『隷属国家日本の岐路~今度は中国の天領になるのか』という本を出しました。この本では、

と書いています。この本の1年後、「私は人民解放軍の野戦軍司令官である!」と宣言した小沢一郎さん、鳩山さんの「親中政権」が誕生しました。10年には、「尖閣中国漁船衝突事件」が起こり、日中対立が激化していきます。

このように、私の中国見通しは、12年前から変わっていません。何が根拠なのでしょうか?

国家ライフサイクルと中国

私の根拠は、「国家ライフサイクル」です。新しい読者さんは、ご存知ないかもしれません。国家にも人間同様、「生老病死のプロセスがある」という考えです。

とわかれます。日本は戦後、1950年の朝鮮戦争で「成長期」に入りました。中国は、1949年に建国された。しかし、「成長期」に入ったのは、1978年12月、鄧小平が「資本主義導入」を決めてからです。ざっくりいうと「1980年から成長期に入った」と言える。そう、中国は30年遅れて日本と同じ道を歩んでいるのです。

「ホントですか~~~???」

見てみましょう。

このままでいくと、次はどうなるか? 皆さんわかりますね?

中国は、「まさに」国家ライフサイクルどおりに動いている

もう少し「ライフサイクルの中身」を見てみましょう。移行期・混乱期にある国が成長期に入る条件は、二つ。

これで、急成長を始める。主な武器は、「安い労働力」です。成長期前期は、まず「安かろう、悪かろう」で成長。そのうち、「安いのに、質もいい」で成長。ところが、経済が順調に成長すると、賃金水準が上がっていきます。それで企業は、この国で生産するメリットが薄れていく。成長期の後期に入ると徐々に生産拠点を移し始めていきます

中国はどうでしょうか? ご存知の方も多いと思いますが、日本企業もその他の外国企業もこの国から逃げ出しています。産経新聞2013年8月9日付をごらんください。

日本企業の上期直接投資 脱中国くっきり ASEANに軸足

 

日本貿易振興機構(ジェトロ)が8日発表した「世界貿易投資報告」によると、今年上期(1~6月)の日本企業の対外直接投資額は、東南アジア諸国連合(ASEAN)向けが前年同期比55.4%増の102億ドル(約9,800億円)で過去最高を記録、対中国向けの2倍超に膨らんだ。

昨秋以降の日中関係の悪化や人件費の高騰を背景に、中国向け直接投資は31.1%減の49億ドルまで落ち込み、生産拠点の「脱中国」が鮮明になった。

これを見ると、「尖閣国有化」で「日中関係が悪化したのが原因」と考えがち。確かに、それも大きな要因です。しかし、主因は「人件費の高騰」です。日中関係悪化は、「決断を後押しするファクター」だった。日本企業、主な投資先はインドネシア、ベトナムだそうです。これからは、やはりインドでしょう。3年前『クレムリン・メソッド』で書いたように、インドの時代がやってきます

というわけで、中国は賃金上昇によって企業が逃げ出す」段階に入っている。これは、どの国でも起こることで、変えることはとても難しい。共産党の政策の良し悪しに関わらず、中国は「成熟期」に向かっていきます。

成長期から成熟期の移行期は、政治が不安定になる

では、2020年代の中国はどうなるのでしょうか? 2020年代の30年前にあたる1990年代、日本では何が起こったか?

1990年、バブルが崩壊しました。その後、日本では、政治がとても不安定になります。1993年、細川内閣誕生。細川さんは、自民党ではなく、「日本新党」の代表でした。1994年、羽田内閣誕生。波田さんも、自民党ではなく、「新生党」の党首でした。同年誕生した村山内閣。村山さんは、なんと「社会党」の委員長でした。

というわけで、「バブル崩壊」は、自民党の「事実上の一党独裁体制」を壊しました。しかし、日本は「民主国家」。政権交代は、選挙によって実現し、混乱はなかった。

中国は??? この国には、選挙がないのです。中国共産党は、「選挙によって国民に選ばれた」わけではありません。毛沢東が国民党との戦いに勝利し、中華人民共和国を建国した。まず、そういう「正統性」があった。その次は、「共産党の一党独裁のおかげで、中国は世界一の経済成長を成し遂げた」という「正統性」ができた。

しかし、その「正統性は失われつつあります。「ライフサイクル」によって、もはや「二ケタ成長」などありえない。年々減速し、下手すると日本のような危機に突入する。そうなると、中国共産党、一党独裁の「正統性」は何もなくなってしまいます。というわけで、2020年以降中国の政治は不安定になっていくことでしょう。

一党独裁は崩壊し、劉さんの夢は実現するのでしょうか? 私は、そう思います。世界には、「いろいろな政治体制がある」といわれます。しかし、ざっくりいうと、三つしかありません。一つは、民主主義。二つ目は、独裁国家(いろいろ形態はあるが)。三つ目は、民主主義と独裁の間。中国共産党が正統性を失えば、「改革の方向」は「民主化」しかありません。

日本に必要な、「戦略的忍耐」

オバマさんの北朝鮮政策は、「戦略的忍耐」というのだそうです。要するに「何もしない」ということなのですが。

中国経済は今後、「国家ライフサイクルに従って悪化していきます。すると、習近平は、「新たな正統性確保」に動くかもしれない。それは何でしょうか? 「外敵」です。経済的苦境に立たされた独裁者が、「外敵をつくって国内を引き締める」というのは、「とてもよくあること」。というわけで、中国経済が悪化すると、戦争の危機が高まります

こういう動きを見通して、日本はどうすべきなのでしょうか? いつも言っていることと変わりません。まず、日米同盟をますます強固にしていく。しかし、アメリカは衰退する方向。それで、未来の同盟国インドとの関係をどんどん深めていく。次に、ロシアとの関係をもっと深めることで、結果として「中ロ分裂」をうながす。

日本は、アメリカ、インド、ロシア、東南アジア諸国、オーストラリアなどとの関係を良好に保ち、中国が動くに動けない状態を作っておくことが必要なのです。もちろん、中国を挑発してはいけないし、関係を悪化させない努力も必要です(しかし、アメリカ、インド、ロシア以上に親しくなってはいけない)。これを10年20年続けていけば中国は自壊することでしょう。

オバマさんの「戦略的忍耐」はダメでしたが、日本が必要なのは、まさに「正しい戦略的忍耐」。忘れないでおきましょう。時は、日本の味方です。

 

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【著者】 北野幸伯 【発行周期】 不定期

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