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【書評】ピンピンコロリは遠い夢。死なせてもらえぬ老人たち

医学の進歩により、私たちは多くの恩恵を受けてきました。しかしそれはすべての人にとってありがたいものと手放しで喜べるものではないようです。今回の無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』で編集長の柴田忠男さんが紹介しているのは、現役医師による現代の高齢者の「死ねない」苦しみを描いた1冊。「ピンピンコロリ」はもう理想でしかないようです。

死ねない老人
杉浦敏之・著 幻冬舎

杉浦敏之『死ねない老人』を読んだ。「高齢者医療に携わって25年の医師が明かす『死にたくても死ねない高齢者』の悲惨な実態」と帯にある。准高齢者として読まずに死ねない、じゃなかった、おちおち生きていられない、でもないか、とにかくいちおう読んどいたほうがいいかなと思う。

またもや幻冬舎。タイトルがうまい幻冬舎。ページを増やすしかけが露骨な幻冬舎。でも今回は、ごく普通の体裁である。著者は救命医療から心臓血管外科、消化器がんなどの診療を経験し、いまは外来と訪問診療を軸に地域医療を担っている。そこで実感するのは、高齢者を支える側の問題ばかりが論議されるが、肝心の高齢者自身の気持ちが置き去りになっているということだった。

ピンピンコロリ」が高齢者の理想だった時代はずいぶん前だ。いまは医療の進歩でコロリと逝けない時代になっている。病気やその後遺症の苦痛・不安を抱えながら過ごす時間や、介護を受けながら生きる時間が長くなった。当事者にとってはじつに不本意である。いっそ死んだ方がよかったという声が上がる。

迷惑をかけている、お荷物になっている、という感覚は高齢者を苦しめる。それを見守る家族にとってもつらいことである。生きる希望がないのに生かされる「死ねない老人」。そしてもうひとつのパターンが、本人は治療や延命を望まないのに、周囲の意向で「長生きさせられてしまう高齢者がいる。

希望や生きがいを失った「死ねない老人」対策は、本人が「誰かの役に立つことと、「好奇心を持って学ぶ」ことだ。これらは本人次第でクリアできるもので、いくつもの選択肢があり、その具体例をいくつも示す。問題は「もう治療をやめて安らかに逝きたい」と思っても、それが叶わない日本の現状だ。

延命治療を施している医師や看護師でも、自分が終末期に至ったとき、自分が行っているような治療を受けたいと思う人は皆無であろう。にもかわらず、超高齢の患者にも濃厚な医療が続けられている。患者が終末期に直面したとき、本人の意思よりも家族の意向が強く働く傾向が、日本人には根強くある。

「延命を望まない」という親の意思を尊重したいと考える子と、「まだ医療によって生きられる可能性がある」と考える子がいる。後者の立場や主張が強いときは本人の意思に反して、本人の望まない延命治療を施され寝たきり老人になり、家族間にも大きな亀裂が残る。こんな人生の終わり方はつらすぎる。

本人の意思を尊重するのが「尊厳死」である。人の不治かつ末期に際して、自己決定をして自分の死に方、延命措置の不開始または中止を求めた自然死のことをいう(安楽死とは違う)。けっこうなことだと思うが、尊厳死法案の成立を妨げるのは障害者団体の反対である。また日本医師会も現時点では法制化は不要という見解だという。法制化は難しいが、自分で意思表示すればよい

終末期にどういう治療を受けたいか(受けたくないか)という意思・希望を記したものがリビング・ウィルである。ネットにはサンプルがいくつもある。それを参考に、自分で作成すればいいだけだ。その存在と内容を近親者にきちんと伝える必要がある。とっくに知っていた。「死ねない老人」のタイトルはイカスが(笑)とくに新しい知見を得られたわけではない。いつもの幻冬舎だった。

編集長 柴田忠男

image by: Shutterstock.com

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