年金の受給資格が最低25年から10年に大幅短縮されたということは先日掲載の記事「年金が「最低10年加入」に短縮へ。専門家が分析した衝撃の受給額」でも詳しくお伝えしました。しかし、無料メルマガ『年金アドバイザーが教える!楽しく学ぶ公的年金講座』の著者で年金アドバイザーのhirokiさんは、「これに安心して未納を続けていると、大変な不利益を被る可能性がある」と注意を促しています。
年金受給資格が10年に短縮されたからって安心してると思わぬ不利益を招きかねない!
8月1日から年金を貰うための受給資格期間が25年から10年に短縮されました。10年に短縮する事で受給資格を満たしている人には今年3月から事前に黄色い年金請求書が送られてきましたが、該当してるのに請求してない人がいましたら今一度確認ください。
● 新たに年金を受けとれる方が増えます(厚生労働省HP)
無年金者だった人も9月分から年金が発生して初回振込は10月13日となっています(請求が遅れた人は11月振込以降にズレる事もある)。受給権が発生する月というのは年金が発生しないので、翌月分からになります。だから10月13日はまず9月分の1ヶ月分のみ。後は、偶数月に前2ヶ月分支払い。
さて、もう年金受給資格期間が10年になったから年金は貰いやすくなったし、もう年金保険料は支払わなくて安心だ~とか言ってたら、大変困った事態を招きかねません。あくまで今回の改正は無年金者救済がメインと捉え、若い世代にとっては安心できる改正ではありません。
ちなみに20歳から60歳までは年金に強制加入で保険料支払い義務があるのは従来通り。そもそも、サラリーマンや公務員が加入してる厚生年金は強制的に給与天引きだからこちらの方々は未納は出来ないんですけどね(^^;;。会社が従業員から天引きしといて、年金機構や共済組合に保険料や掛金納めなかったとかいう不正でもない限り。
年金というのは支払った保険料に見合う分しか受け取れないわけで、今まで納めた保険料が少なかった人は少ない年金になり、多く納めた人は年金も多くなるというものです。つまり自分の将来は自分で備えるという自己責任や自助努力の考え方に立ち、納めた保険料に見合う給付を受けるっていう給付(年金)と負担(保険料)の関係が明確であるという社会保険方式を取ってる。だから本当に10年程度じゃあまりに少ない年金になってしまう。そして今回の記事のような結末になってしまう事もあるのでよーく頭に入れておいてくださいね!
今回は年金の未納は多かったものの、10年以上は満たしていた人が亡くなった場合の遺族年金を見てみましょう。
1.昭和49年8月25日生まれの男性(今月43歳)
平成30年5月に亡くなるとします。その死亡当時42歳の妻と15歳の子有り。
この男性の年金記録。高校卒業の翌月である平成5年4月から平成13年8月までの101ヶ月は厚生年金。この間の給与(標準報酬月額)の平均は300,000円とします。平成13年9月から平成18年5月まで57ヶ月は国民年金保険料未納。平成18年6月から平成29年12月までの139ヶ月はまた再度厚生年金。
この間の給与(標準報酬月額)と賞与(標準賞与額)の総額の平均(平均標準報酬額)は400,000円とします。
● 年金額計算に用いる超重要な標準報酬月額や標準賞与額とは一体何?(参考メルマガ記事)
平成30年1月から平成30年4月までの4ヶ月国民年金保険料全額免除。国民年金保険料全額免除中の平成30年5月に亡くなる。だから、期間を数える時は平成30年4月まで。
全体の年金記録としては301ヶ月(25年と1ヶ月)ですが、未納期間が57ヶ月あるので有効な年金記録は244ヶ月。ただ、年金を貰う為に10年(120ヶ月)に短縮されてるからこの人は一応、老齢厚生年金や老齢基礎年金の受給資格を満たしている人。
ちなみに遺族厚生年金を貰うための条件に「老齢厚生年金の受給資格期間を満たした人」も含まれていて、確かにこの死亡した男性は老齢厚生年金の受給資格期間を満たした人なんですが、この男性の死亡では遺族には遺族厚生年金は出ない。まず遺族厚生年金を貰う条件として以下のいずれかを満たさなければいけません。
ア. 厚生年金に加入中の死亡。
イ. 厚生年金加入中の初診日の傷病が原因で、初診日から5年経過する日前までの死亡。
ウ. 障害厚生年金1,2級受給権者の死亡(3級でも障害年金の原因となった傷病での死亡なら可能)
エ. 老齢厚生年金受給権者または受給資格期間を満たした者の死亡
まず、ア.とイ.は厚生年金加入中の死亡ではないため除外。ウ.も無しとすると、後はエ.しかありません。このエ.なんですが、確かにこの男性は10年以上を満たしている「老齢厚生年金の受給資格期間を満たした者の死亡」ではあるんですが、実はここは従来通り原則25年以上を満たしてないと遺族年金はダメなんですね。よって、年金保険料を納めた期間+保険料免除期間+カラ期間合わせた期間が25年以上無いから遺族厚生年金は不可。
● 諦めるなかれ。年金を25年納めなくても貰える「カラ期間」とは(まぐまぐニュース参考記事)
じゃあ何の給付も出ないかというと、この男性は国民年金保険料全額免除の間に死亡してますよね。つまり、国民年金保険料を自ら支払わなければならない自営業やフリーターとか無職、学生などが被保険者である国民年金第1号被保険者期間の時に死亡しています。ちなみに、厚生年金や共済組合に加入してる人は国民年金第2号被保険者という。国民年金第2号被保険者の扶養に入ってる人を国民年金第3号被保険者という。だから国民年金からの支給なら可能。国民年金からの遺族給付としては、遺族基礎年金という年金が支給されます。
なお、遺族基礎年金は死亡当時に生計維持している「子供がいる配偶者」または「子供」にしか支給されない。もし、遺族厚生年金であれば配偶者、子、父母、孫、祖父母というふうに範囲が広く、遺族基礎年金の範囲の狭さがわかりますね。
● 年金でよく言われる生計維持とか何なのか?(参考記事)
妻には15歳の子供がいるから、遺族基礎年金の支給対象になる。妻が遺族基礎年金貰ってる間は子の遺族基礎年金は停止する。ちなみにここで言う子供というのは18歳年度末までの子をいいます(子に一定の障害がある場合は20歳まで延長される場合もある)。
で、この妻は「子供がいる配偶者」に当てはまりますが、まだ遺族基礎年金が貰えると確定したわけではありません。死亡した夫の、死亡日の前々月までの年金保険料の納付状況(保険料納付要件という)を見ます。
※参考
なぜ、死亡日の前々月をまでを見るかというと、当月の保険料の納付期限は翌月末までなので、死亡日までにおいて納付状況が確定するのが前々月分までだから。
年金保険料を納めなければいけない期間(この男性なら平成30年3月までに300ヶ月あります)の間に3分の2以上(66.6%以上)の年金保険料を納めたか、免除期間でなければなりません。全体の300ヶ月に対して243ヶ月が未納ではないので、243ヶ月÷300ヶ月=81%だからセーフ。
もし、上の3分の2以上を満たしてなかったら死亡日の前々月までの1年間(平成29年4月から平成30年3月)に未納がなければ条件はクリアです。直近1年は免除期間だから問題無し。まあ、普通は手っ取り早くこの直近1年間に未納が無いかを先に見ます。
というわけで、遺族基礎年金を貰う条件を満たしました。見ての通り、こういう過去の年金保険料の納付状況を見て年金を出すか出さないかが決まるので、安易な未納は怖いんですね(^^;。年金はれっきとした保険なのであります。
さて、いくら支給されるのか。遺族基礎年金の支給額は定額になっていて、妻と子供1人ならば遺族基礎年金779,300円+子の加算金224,300円=1,003,600円(月額83,633円)。そして、子供が18歳年度末を迎えた後は遺族基礎年金は消滅します。つまり0円になる。
遺族厚生年金なら基本的には終身年金なので、もしこの男性の57ヶ月の未納期間がせめて国民年金保険料免除期間やカラ期間だったら全体で300ヶ月以上(25年以上)だったから遺族厚生年金が支給されていたんですけどね…。
じゃあ、もしこの男性の未納期間57ヶ月がせめて国民年金保険料免除期間やカラ期間だったらどうなるのか。この場合は全体で25年以上(300ヶ月以上)ある人の死亡になるから遺族厚生年金も支給される事になります。で、再婚等しない限り基本的には終身で支払われる。
遺族厚生年金額→(300,000円÷1000×7.125×101ヶ月+400,000円÷1000×5.481×139ヶ月)÷4×3=(215,888円+304,744円)÷4×3=520,632円÷4×3=390,474円。
● 厚生年金額を計算する際にいつも使ってる7.125とか5.481っていう数字は何?(参考記事)
さっきの遺族基礎年金1,003,600円と合わせると1,394,074円(月額116,172円)になる。そして、子供が18歳年度末を迎えた後は1,003,600円は無くなり、遺族厚生年金390,474円(月額32,539円)のみになりますが、この死亡した夫にギリギリ240ヶ月(20年)の厚生年金期間があったので、遺族基礎年金が子供が18歳年度末を迎えた時点で妻が40歳以上(子供が居ない場合は夫死亡時点で妻が40歳以上である事)という条件を満たしている為に、遺族厚生年金にオマケで584,500円の加算が付く。この584,500円は定額で、中高齢寡婦加算という。夫に20年以上の厚生年金期間が無かったらこの加算は付かなかった。
よって、遺族基礎年金1,003,600円が消滅した後は、この妻には遺族厚生年金390,474円+中高齢寡婦加算584,500円=974,974円(月額81,247円)となる。中高齢寡婦加算の支給は妻が65歳になるまで。65歳以降は中高齢寡婦加算は消滅しますが、妻自身の老齢基礎年金が支給され始めるからそれまでの加算と考えてもらえれば。
なお、65歳以降の老齢基礎年金と遺族厚生年金は一緒に貰う事が可能ですが、妻に老齢厚生年金が支給される場合は遺族厚生年金から老齢厚生年金分が停止されてしまう。例えば妻に100,000円の老齢厚生年金が支給されるなら遺族厚生年金390,474円から100,000円を引いた差額の290,474円が遺族厚生年金として支給されるという形になります。
というわけで、今月から年金受給資格期間10年に短縮で安心してたら老後の年金が物凄く低額になるだけでなく、思わぬ不利益が生じかねない場合もあるので安易な未納は避けてくださいね~。
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