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中国共産党は、体制を正当化するために「外部の敵」を捏造している

以前掲載の記事「中国は、30年遅れて日本と同じ道を歩んでいる。次は暗黒の20年」で、中国は国家ライフサイクルにより、2020年代から「暗黒の時代」に突入するとした無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』。今回、著者で国際関係研究者の北野幸伯さんは、習近平率いる中国の未来を考察しつつ、彼の国が暗黒時代に入り国民に中国共産党の正統性を主張し続けるのが難しくなったとき、政権が主張し始めるであろう「安全国家」という考え方についても紹介しています。

中国共産党、次の「正統性」は、「○○国家」

日本人は、概して習近平さんが嫌いです。わかります。なんといっても、「日本に沖縄の領有権はない!」と宣言している国のトップですから。

そうなのですが、それと、「彼が有能かどうか?」という話は別です。2015、2016年、習さんは、かなり追いつめられていました。「AIIIB事件」でオバマが、中国の影響力の強さを知った。それで、中国バッシングを始めたからです。中国経済もボロボロになってしまった。

しかし、2017年、習近平は反撃に出ました。1月、ダボス会議で、「グローバリズム絶対支持宣言」をした。さらに、「核兵器のない世界をつくる!」宣言。「パリ協定絶対支持!」宣言。彼は、グローバリストたちと和解し中国経済も少し良くなってきた

最近、世界が心配しているのは、「朝鮮戦争」です。習近平は12日、トランプと電話会談した。そして、「自制を呼びかけた」というのです。

世界的に見ると、「アグレッシブなトランプと金正恩」。「自制を呼びかけ平和を愛する習近平」という構図。もちろん裏の事情を知っている人は、笑います。というのも、北朝鮮貿易の90%は、対中国である。つまり、金体制を存続させ核兵器開発を継続させているのは、事実上中国なのですから。

とはいえ世界の大衆は、そんなこと知りません。表面で起こっていることだけみて、「トランプ、落ちつけ!」「習近平、大人!」などと思っている。しかし…。

避けられない国家ライフサイクル

習近平がいくら狡猾でうまく立ち回っていても、決して避けることのできない問題があります。なんでしょうか? 「国家ライフサイクルで中国は成熟期に向かっている」という問題。

復習しましょう。ある国は、混乱期・移行期にある。二つの条件が整うと、成長期に入ります。

  1. 政治が安定する
  2. 指導者が正しい経済政策を行う

この国は、「安い労働力」を武器に、「安い製品」をつくることで、急成長していく(成長期前期)。しかし、経済が成長すると、必然的に人件費が上がっていきます。そして、成長期の後期に入ると、この国で生産するメリットが徐々に薄れ、企業が外国に出ていってしまう。それで、成長は、必然的に鈍化していきます。

中国は、ざっくり1980年から成長期に入りました。1990年代、「安かろう悪かろう」で急成長した。2000年代、「世界の工場」になった。2010年代、「中国は世界一になる」といわれている。この国は、すでに成長期後期の終わりに近づいている。2020年代は日本の1990年代に匹敵する。つまり、これから中国を待ち受けているのは、「暗黒の10年20年」ということになる。

私がこの話をしたのは、2005年発売の『ボロボロになった覇権国家』の中でした。以後、12年間同じことを書き続けてきましたが、予測を変える必要は感じません。まさにそのごとく動いています。

揺らぐ「正統性」

日本では、いま「自民党」が政権にあります。しかし、その前は、民主党政権でした。その前を見ると、たとえば日本新党の細川さん、新生党の羽田さん、社会党の村山さんなどが総理だったこともある。そう、日本では、時々政権がかわります

しかし、中国は、オフィシャルに「共産党の一党独裁国家」である。だから政権はかわりません。ただ、共産党のトップがかわるだけです。世界的には「異常」な体制ですが、それでもこれまであまり問題はなかった。

まず第1に、共産党の毛沢東が「中華人民共和国を創った」という正統性があった。トウ小平の時代からは、「共産党のおかげで、中国経済は世界一急成長している」という正統性ができた。しかし、中国経済は、「国家ライフサイクルに従って成長が鈍化しています。そして、これからますます成長が難しくなっていくのは確実。

つまり、「共産党のおかげで経済成長神話が崩壊していく。「正統性」が揺らいでいく。こんな流れの中、習近平は、どうやって「正統性」を確保するのでしょうか?

習近平は、「安全国家」をつくる

先日、水野和夫先生のベストセラー『閉じてゆく帝国と逆説の21世紀経済』を読んでいました。

といった話をされています。この本の中に、「安全国家」という話が出てくるのです。「安全国家」いい響きですね~~。「安全な国なのかな?」と。しかし、水野先生は、「ネガティブな意味」でこの用語を使っておられます。

「安全国家」とは何でしょうか。そこには国家と恐怖の驚くべき逆転があります。
(『閉じてゆく帝国と逆説の21世紀経済』)

トマス・ホッブズ(1588~1679年)の「リヴァイアサン」では、万人の万人に対する闘争がもたらす恐怖を終わらせるために国家が登場しました。
(同上)

人間は、無法状態で自然にさせておいたら、ケンカをするようになる。その「恐怖を終わらせるために国家が登場したと。

ところが「安全国家」ではその図式が逆転し、恐怖を維持することが目的化します。なぜなら、「国家は恐怖からその本質的機能と正統性を引き出しているから」です。
(同上)

そうか、「国家は恐怖から正統性を引き出せる」のですね。水野先生は、最近の日本やフランスの例をあげて、「安全国家に向かっている」という話をされています。

しかし、読みながら、習近平さんの笑顔が私の脳に浮かびました。毛沢東は、「建国」で「正統性」を得た。トウ小平、江沢民、胡錦涛は、「世界一の経済成長」という「正統性」を得た。しかし、「世界一の経済成長」が不可能になった今、習近平は、「安全国家をつくることで、「正統性を維持しようとするのでしょう。そのとき「ダシ」に使われるのは、アメリカであり、日本であることでしょう。

そう、習近平の正統性は、「安全国家」です。「安全国家維持に必要なのは、「恐怖」です。「恐怖」を維持するためには、「が必要。中国の「敵」は、「中国の体制崩壊を狙うアメリカ」「再び軍国主義に向かう日本」などでしょう(中国から見たらです。念のため)。

 

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【著者】 北野幸伯 【発行周期】 不定期

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