不登校で悩む子供の「ココロ」を立ち直らせた、奇跡の通信制高校

 

「校長先生、山がきれいですね」

不登校の原因が「心の居場所」をなくしている事だとすれば、いかに彼らにそういう居場所を持たせるか、ということになる。

黒木太一が勇気を出して、スクーリングにやってきた時、野田校長は暴れん坊で退学処分になって勇志高校に移ってきた今田良一と同じ部屋とした。今田が面談で、「俺、いっぱい悪いことをしてきたけど、弱い者いじめだけは絶対していないよ」と言ったことを覚えていたからだ。

同室となった今田は黒木のことを何かと気をかけて、面倒を見てやった。それが黒木には嬉しくてたまらなかった。

また家に引きこもっていたのとは正反対で、スクーリングでは朝7時に起床させられ、8時半から夜8時まで授業の連続。孤独に苦しむ日々が仲間たちと一緒の充実感ある日々に変わった

スクーリングの最中、黒木がぽつんと一人で立っていた。野田校長は後ろから肩を叩いて「太一、どうした」と声をかけた。彼は振り向いて「校長先生山がきれいですね」と言った。その顔が輝いていた。目はしっかり校長の目を見ている。黒木の心境に大きな変化があったな、と野田校長は感じた。

スクーリングから帰った黒木は、冒頭で述べたように、急速な立ち直りを見せたのである。

「勇志高校の先生になりたい」

その黒木は友達となった今田良一がまた警察沙汰を起こさないかと心配でならなかった。その心配は、彼らが3年生になった時に、現実となった。

弟分のガールフレンドが他校の高校生にレイプされるという事件が起こり、今田はそのレイプ犯を呼び出し、問い詰めた。相手が「それがどうした」と開き直ったので、今田はそいつの横っ面を思いっきり平手でひっぱたいた。

ひっぱたかれたレイプ犯の少年は、家に帰って、自分のやったことは棚に上げて母親に訴えたので、母親は「また、あの札付きの良一め」と警察に訴え出た。

野田校長は今田を呼び出して、事情を聞いた。彼の話を聞くと、校長は感動して思わず今田を抱きしめ、「お前は男の中の男だ俺が見込んだだけのことはあるお前のことは俺が守ってやるから心配するな」と言って、腕に力を込めた。

「先生、苦しいから離してくれ」と言った時の今田の顔の輝きを野田校長は忘れることができない。

翌朝、今田はそれまでの金髪を黒髪に戻して、「校長先生、俺大学に行こうと思います。今から間に合いますか」と聞く。「大丈夫、間に合うぞ。ところで大学に行って何になるんだ」と聞くと、「勇志高校の先生になりたい」と言う。野田校長はまた感動した。

それから今田は人が変わったように勉強を始めた。今は23歳となり、結婚してもうすぐ長女が誕生する。勇志高校の先生になるという夢は果たせなかったが、物腰や話しぶりが穏やかになり、明るさと落ち着きも備わった。そして言う。「校長先生、僕は勇志に行かなかったら100%やくざになっていました

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