シャンプー、おむつ…花王のヒットを支える「本質研究」の神髄
今、中高年を中心に売れている花王のシャンプー「セグレタ」。シャンプーとして使うだけで、張りがなくなった髪のボリュームがふっくらと仕上がるという。中高年の悩みに応えたシャンプーだ。
その開発を支えたのは、髪研究のエキスパートとして知られる長瀬忍。長瀬は長年の研究で、髪のしなやかさは表面だけでなく、その内部構造が関係していることを世界で初めて突き止めた。しなやかで美しく見える髪は、外側が軟らかく内部が硬いという独自のバランスで成り立っているという。
花王はそんな「本質研究」の成果をヒットにつなげてきた。トップの澤田も1981年の入社以来、研究畑を歩んできた。澤田自身、逆境を「本質研究」に救われた経験を持つ。
それは47歳の時。オムツの「メリーズ」を扱うサニタリー研究所の所長時代のことだった。当時の「メリーズ」は、競合各社のおむつに太刀打ちできず、事業の打ち切りさえ囁かれる苦境にあった。澤田は、巻き返しを図るため、おむつを使う家庭への訪問調査を徹底的に行ない、「やはり肌への優しさがお母さんの一番欲するものだった。じゃあ世界一肌に優しいおむつを作ろう」(澤田)という結論にたどり着く。
澤田は、紙おむつを作る原材料を扱う研究者たちに指示を出した。上席主任研究員・奥田泰之によれば、それは「眠っている技術にはいいものがたくさんあるはずだろう。まずはそれを徹底的に土俵に上げてみよう」というものだった。
そして澤田は、そんな研究者たちの成果を元に画期的な肌触りの商品開発に成功する。それがおむつの表面に細かい凹凸をつけた新しい「メリーズ」。「肌との接触面積を減らす。くっついていない隙間を通って、蒸れた空気を追い出す機能を持っています」(奥田)という肌触り抜群の新型「メリーズ」は、母親たちの心をつかみ大ヒット。おむつ市場のトップシェアを奪い取った。
「それを具現化できる技術があったということ。そのためにはやはり本質的な研究、本質的な技術を準備していたからできたんです」(澤田)
花王で月に一度は開かれるイベント。それは様々な「本質研究」の成果を、研究者たちが商品開発の現場へ伝える研究発表会だ。参加していた入浴剤「バブ」のマーケティング担当者は、「今後の商品開発に今回紹介された知見を少しでも取り入れて、より良い商品をお客様に届けたいと思っています」と言う。
精鋭の研究者と顧客目線の商品のプロががっぷり組んだ共同戦線が、花王の商品の強さを支えている。
世界の難問を解決~東南アジアの女性を救う商品
世界第4位の人口を誇るインドネシアの首都ジャカルタ。この国の女性たちには、大きな悩みがあった。それが日々の洗濯。インドネシアではいまだに家庭の8割が粉洗剤で手洗い。だがインドネシアの水はいわゆる硬水で、汚れを落ちにくくするカルシウムを多く含んでいる。洗濯機を持っていても、ひどい汚れは手洗いで落とすのが一般的だという。それでも落ちにくいため、クリーム状の洗剤も使ってひたすらごしごし。そのため、インドネシアの女性たちの手は荒れ放題だ。
そんなインドネシアの女性たちに救世主が現れた。飛ぶように売れていくのは「ジャズワン」なる洗濯洗剤。花王の商品だ。
ジャズワンを作ったのが、和歌山にあるハウスホールド研究所の洗濯水のスペシャリストたち。花王はそれまで蓄積した洗浄技術を駆使し、2014年、硬水でも汚れを落とせる「アタックジャズワン」を開発した。
「インドネシアのお客様のために開発した商品になります」(杉山陽一室長)
インドネシアの女性たちの長年の悩みを解決し、「ジャズワン」は急速に普及し始めている。花王が生み出した技術が、世界で感動的な便利さを広げていた。
~村上龍の編集後記~
前回の収録で、わたしは「花王」を評して「面白くないくらい立派」だと言った。
今回、「さらに進化している」と驚き、さらなる敬意を抱いた。
「花王は技術が軸だ」メーカーなのだから当然と言えば当然だが、技術を生む基盤である研究、それも、必ずしも応用を前提としない基礎研究の蓄積は、おそらく他に類を見ない。
しかも各研究部門、開発、営業、販売など、すべてが見事に連携している。
「花王」は、「全力士の中でもっとも稽古量の多い横綱」のような、そんな企業だ。
「面白さを通り越して立派」なのだと見識を改めた。
<出演者略歴>
澤田道隆(さわだ・みちたか)1955年、大阪府生まれ。1981年、大阪大学卒業後、花王入社。2003年、サニタリー研究所長就任。2012年、社長就任。
source:テレビ東京「カンブリア宮殿」