来週最終回を迎える北川景子主演のドラマ『探偵の探偵』。実はこのドラマの監修を務めているのはまぐまぐメルマガでもお馴染み「ギリギリ探偵白書」の阿部 泰尚(T.I.U.総合探偵社代表)さんなんです。本物の探偵が実際に体験した事を綴るこの人気メルマガ、今回描かれるのは、ある日突然息子を連れて疾走した親子の調査。「DVでっちあげ離婚」の事実と、それを11歳の息子に報告しなければならないという、探偵としての辛い責務について書かれています。
DV事件の解決も探偵の仕事
阿部は2つのデスクをL字につなぎ、3つのパソコンを使って作業を行う。1つはメールや調査資料、内部の精算書やクライアントへの請求書、幹部のみが使うハードディスクにつながっている。もう2つあるアップル製のパソコンは、画像の処理や細分化されたそれぞれの事業で使い分けている。
デスクの脇にあるヘッドルーペは、機械をいじるために使用され、愛用の半田ごてや精密機器用のドライバー、ピンセットなどがペン立てに整理されて並んでいる。
“会社のものだと思って、乱暴に使いやがる”
調査員が修理に持ち込む調査機材は、ケースの破損が最も多く、それによって中の電子部品が剥がれたりしている。
それを阿部は器用に修理し、修理不能なものは部品を外して、リユース品として再生させるなどする。
こうした調査機材は、市販された特殊カメラなどの比にはならないほど、様々なものに化け、決定的な証拠を撮ることになったり、調査の重要な情報を収集するために、利用される。
照明器具を持ってきたのは、調査主任の下山であった。
下山「30分で半永久タイプのカメラを埋め込んでください」
阿部は下山が撮影してきた照明器具の写真を見ながら、目の前に置かれた金属製のカバーに蛍光ペンでチェックを入れ、徐にドリルで2ミリほどの穴をあけた。市販のWi-Fi接続カメラの基盤を取り出し、カメラモジュールを超小型カメラに変更し、電圧を変更するアダプターを取りつけた。レンズ手前には、ネジの十字山を穴あけ処理したカバーが取り付けられ、蛍光カバー同様に白く色をつけた。
作業にして20分程度でカメラ取り付けは完成した。下山はそれを受け取ると、クッション材で包み、持ち出し用のノートパソコンを取り出して、バイクで再びクライアント(依頼者)の家に戻った。
蛍光灯から電源を取り、カメラが作動するのを確認してから、下山は慎重に蛍光灯カバーを取り付け、モジュールから外していた元の丸型蛍光灯を取り付けた。
蛍光灯の光量に変化がないことを確認するため、照明器具から伸びている紐を数回引っ張り、一灯、二灯、豆球と切り替えた。
そして、モデムに直接、持参したノートパソコンをつなぎ、インターネットエクスプローラーからルーター内に入り、インターネット回線を通じて、設置したカメラを遠隔監視できるように設定を行った。
下山「設置完了です」
クライアントの女性は複雑な表情で頷き、蛍光灯を見上げていた。
翌朝、下山は事案の説明をしていた。もちろん、前日カメラを取り付けたクライアントの件であった。
下山「昨晩は、頭を叩く行為が4回、テーブルを激しく手で打ち、小声で、◯×さんが謝罪するまで、殺すを連呼していました」
サザビー「おいおい、証拠取ってる場面じゃないだろ」
下山「それでも避難先が見つからなくて、夫の抵抗もすごいと思いますし」
サザビー「阿部ちゃんに相談しろよ、こんなの普通じゃないぞ」
避難先などの手配の他、様々な手続きの準備が出来たのは、それから1週間ほど経過してからであった。
下山はカメラを回収し、設定跡を消して、車に乗り込んだ。
運び出す荷物は最低限にしたが、子どもがお気に入りのおもちゃなどはかさ張る量であったため、大きめの段ボールに詰め込んで、車のトランクに入れておいた。
ベテラン調査員のゲンさんは、手配したワゴン車に乗り込み、母子をしばらく安全な場所へ移動する手伝いをしていた。母子が座る座席にビニールシートを貼り、タオルを敷いた。稀に安堵感などから漏らしてしまったり、吐いてしまうケースがあるから、そのための対策であった。
安全を完全に確保するために、夫には監視チームがつき、駅近くでパチンコに興じている様子が、下山には逐一報告されていた。
常にある緊迫感は移動完了後も続いていた。下山とインターン調査員の秋川は、対策完了後、事務所に戻り、社内で必要な報告書や経費の精算表を作成すると、勝手に名付けた”大人バー”に足を運んだ。
無事成功した対策とクライアントからの直接の感謝の言葉は、軽い高揚感を、若い二人にもたせていたに違いない。自然と話し声も大きくなり、マスターから数回咳払いで注意を受けた。
翌日からは、別件の調査が控えていた。
失踪した妻の不貞
今度のクライアント(依頼者)は、男性であった。男性の奥さんが子どもを連れ、居なくなったという事案で、奥さんの所在がわからないというものであった。
自宅の荷物はほとんど運ばれてしまい、残ったのは業務用の冷蔵庫と、ワイヤーキーで施錠されたパソコン一式、男性の衣類程度であった。
信頼できる筋からの紹介ではあったが、調査を行う場合は独自に審査をして、暴力夫などではないことが絶対条件となる調査であった。
下山と秋川は、パソコンに残っているデータの解析から、浮かび上がる住所を1つ1つ調べていくという機動調査員として動くことになった。
阿部は、情報分析を調査員に任せながらも、このクライアントの勤める会社そばまで行き、夕方、喫茶店で彼の話を聞いていた。
阿部「そうなると、家出前日も当日の朝も普通に会話していたんですね」
男性「そうです。いつもと変わらないというか、そういう」
阿部「よく話題に出ていた人物って、息子さんのサッカーのコーチ?」
男性「ええ、一緒に食事したこともあります」
阿部「そのコーチ、息子さんは何か言ってましたか?」
男性「いや、普通ですよ。サッカーのことだけで」
阿部「そうですか」
男性「そういえば、息子は、妻の行動に不満をこぼしてました。いつもスマホばかり見ていて、スマホも頻繁に鳴るって。」
阿部「そのコーチの住所ってわかりますか?」
男性「いや、住所までは…練習の日とか場所はわかりますが」
阿部はすぐに事務所に連絡し、コーチの氏名の特定を中心に情報を集めるように指示した。事務所に戻る頃には、所在を確認する調査を実施できるだけの情報が完了済みとなっていた。
阿部「下山に連絡して、明日、この公園グランドから、尾行するように伝えてくれ」
コーチはグランドに大きなワゴン車で来ていた。このワゴン車に児童らを乗せ、保護者も乗せて、送り迎えもしているようあった。
コマさん「安全運転だし、尾行は難しくないな」(業界屈指の実力を持つ調査員、元下山の上司)
下山「帰宅しないようですね」
コマさん「ん? そうだね、ナンバーの域から外れているもんな」
車のナンバーには地域名が表示されるが、この管轄から外れた方向に車は移動していた。リアウィンドウに貼られた駐車場保管のシールの管轄からも外れていた。
ワゴン車は、郊外型のファミリーレストランの駐車場に滑り込んだ。しばらく後から、下山とコマさんが乗る車もその駐車場に入った。
ファミレス内は外からもよく見えるから、駐車場に入ったところで、下山もコマさんも、そこに調査対象者になっている母子がいるのが、確認できた。
“ビンゴ!後は追うだけ!!”
そう思い、駐車場で待機しようとしていると、阿部からファミレス内での様子の撮影と、会話を聞いてこいという指令が入った。
男がステーキ系のセットを注文したを確認して、下山とコマさんは、カレーライスを頼んだ。カレーは作り置きがほとんどであり、レトルトも数分で出来上がる。
肉を焼くステーキより、注文から食べるまでの所要時間は早いはずだ。
奥さん「ちょっと、◯◯、ジュース取ってきなさいよ。ママは紅茶ね、ちゃんとティバックは捨ててきて」
息子さん「・・・・」
息子が席を立つと、奥さんはコーチに慣れた口調で話しかけた。
奥さん「ちゃんと責任とってよね」
コーチ「でも、出て来ちゃうと不味くないの? 浮気がバレたら離婚できないって言うし」
奥さん「それはバレないから。暴力うけてたって言えば、ほとんど通るって教えてもらったから」
コーチ「・・・」
食事が終わるとコーチは母子を車に乗せて、築浅のアパートへ送り届けた。
下山「コーポ・ヤ◯イって、コーチの名前と同じですね」
コマさん「明日所有関係をしらべようか、親の持ち物かもしれないな」
下山「それにしてもオッカナイですね」
コマさん「あの奥さんの話なら、DV被害は痴漢冤罪みたいなもんもあるってことだよな」
下山「計画的でしたもんね。夫の暴力を受けていて、見かねたコーチが色々お世話を焼いてくれた。ってシナリオまであって」
コマさん「でも、あの息子、全部知ってるぜ。睨んでたもん」
母子がいる築浅のアパートは、コーチの父親の持ち物で、この父親は付近の土地を数多く持ち、不動産オーナーで生計を立てている資産家であることが判明した。
女性調査員きく子の調べによれば、ママ友間でもすでにコーチとできているんじゃないかという噂は知られており、ママ友の中で裁判所を騙して上手に離婚した人物が、入れ知恵をしていることも判明した。
下山「あのコーチは、清掃のボランティアとサッカーコーチだけしかやってませんよ。収入は親からのお手当ですね」
コマさん「奥さんの方は、息子が学校行っている間、コーチの家に通ってますね」
サザビー「依頼者には、弁護士から通知書が来たようだ。そこには、日々の度重なる暴力と暴言、ドメスティックバイオレンスが離婚の原因だから、慰謝料として家を寄越せって、残ったローンと息子の養育費は支払えってことだ」
ゲンさん「息子さんは浮かない顔してるよ。イライラしているようだし」
阿部「もう11歳か?◯◯太くんは?」
サザビー「息子はそうだな、11歳だ」
阿部「それなら、親権どうのっていうのは、息子の希望も聞くわけだ」
阿部「俺からは、パソコンな。あれは夫婦共用だったんだが、奥さんが実はほとんど使ってた。主に写真の取り込みとか年賀状なんかに。で、中を見たら、データ削除のソフトで消していたんだ。それを、復活させた」
会議室のモニターには、まず、夫婦が仲睦まじくして、息子が笑顔の写真が何枚も写し出されていた。
阿部「近所の証言もあるから、DVは偽証ということになるな」
次に、モニターに映し出されたのは、前年の夏にあったサッカー合宿の写真であった。
阿部「衝撃的な動画だよな」
そこには、合宿所になったホテルの近くにあった縁結びの神社で、奥さんとコーチが書いた絵馬を結んでいるシーンであった。
サザビー「おいおい、ずいぶん追い込んだな」
阿部「まだ、ある」
次に映し出されたのは、奥さんのネイルと指輪とコーチのFacebookに投稿された写真に出てくる女性の手の比較表であった。
阿部「日中にホテルでランチして、デイユースしてやがったよ」
下山「チェックインメイトですね」
サザビー「チェックメイトだよ」
阿部「不貞(浮気)は立証できたと言えるだろうが、それと親としての権利は関係ないっていうのが、この世界の常識だろ」
サザビー「現に息子は母親と暮らしている。不利だな」
阿部「息子には酷かもしれないけどな、事実を知ることは大事だ」
地元の小学校に通う◯◯太くんは、母親に促されるようにして家を出た。帰宅した時間には、自分の学習机や荷物はすでに引越しのトラックに積み込まれていた。
離婚については、母から数日前に相談はされていたが、”正直なところ、嫌だ”と言ったはずだった。母は、父との冷却期間だと言っていた。
◯◯太くんは、父親が頼りなく感じていた。スポーツはできないし、出世もしていないように思える。しかし、離れてみると心に穴が空いたような、何かが足りない心境になった。
母の機嫌は良くなったが、なぜか夕飯が外食の時は、サッカーのコーチが目の前の席に座っていることに違和感を感じていた。
“きっとママは、コーチのことが好きなんだ”
そう思ったのは、母が、コーチが父になるとしたら、どう思う? と訊かれてからであった。
父と離れて暮らし、10日ほど経った頃、家に帰ると母は居なかった。この日は、学校行事の前で特別に午前中に終わる日だった。
着替えてサッカーボールを持って、近くの公園に向かうと、見たことない大人が話しかけてきた。
大人「◯◯太くん、大きくなったな、覚えてるか?」
◯◯太くん「?」
大人「お父さんの同僚だよ。会社の、小さい時はよく遊んだんだぞ」
◯◯太くん「すみません」
大人「そうだ、お母さんな、ここにいるよ、今」
◯◯太くん「え?」
大人「さっき、見かけたんだよ、◯△コーチの家でさ」
◯◯太くんは、走ってコーチの家に向かった。走れば、10分程度で着く距離であった。玄関に母が使っている自転車が停めあり、母がいるというのは嘘ではないと思った。
一度呼び鈴を鳴らそうとしたが、躊躇いの気持ちがもたげた。家はテラスハウスのようになっていて、そのまま中庭に抜けることができた。
彼は中庭に抜け、レースカーテンの中を覗き込んだ。そこには、裸で抱き合うコーチと母の姿があった。
母と目があった。
◯◯太くんの中にあった疑問がすべて溶けたように思えたのと同時に、なんとも言えない怒りがこみ上げてきた。
彼は、その窓に思いっきりサッカーボールを投げつけた。
そして、走って父のいる家に向かった。
涙がボロボロ落ちた。
父(依頼者)は、依頼中の探偵から報告を受け、慌てて早退して帰宅した。玄関前にはコーチの車が停まっていて、追ってきた妻(奥さん)が、息子と口論しているところであった。
激昂している妻(奥さん)に、父(依頼者)は、静かに”今日は帰ってください”と告げた。言葉にならない声を妻(奥さん)は発し、外玄関にあったバケツを蹴り破りコーチの車に乗り込んで消えた。
息子はその日、何を見たか話さなかった。
放っては置けないと思い、上司に有休をもらえないかと頼み込み、翌日は、息子のそばにいた。
夕方頃、ピザの宅配を受け取ると、息子は業務用の冷蔵庫からコーラを2本だし、こう言った。
◯◯太くん「4年(生)の時から変だと思ってたんだよ。コーチの家は、知っていたけど、ママがそこに行ってることも知ってたけど、言えなかったし、行けなかったんだ」
父(依頼者)は息子を抱き締め、謝りながら泣いた。
その翌日、息子は父と暮らす決断をした。
父の電話を借りて、母にその意を話すと、しばらくして玄関の前に自分の荷物が置かれていた。きっと、コーチの車で運んできたんだろうと思った。
阿部は神妙そうな顔で、呼び鈴の前に立っていた。玄関から顔を出したのは、クライアントの息子である◯◯太くんであった。
続けて、クライアントが顔を出し、中に招き入れてくれた。リビングにある座布団に座り、出された缶コーヒーを勧められるままに一口飲んでから、阿部は頭を下げた。
阿部が頭を下げるのを見たのは、下山は2度目のことだった。
阿部は滅多に頭を下げないし、謝りもしない。上司としては、面倒は見てくれるが、おっかない存在である。
その阿部が報告に訪ねたクライアントの家で、クライアント相手に深々と頭を下げ、謝罪をした。
阿部「◯◯太くん、同僚と言ったのは嘘です。嘘ついて、申し訳ない。辛い思いをさせて、本当にゴメン」
クライアントは困った表情で、頭を上げてくれと阿部に頼んでいた。◯◯太くんも、同じような動きで、阿部の肩を持ち上げようとしていた。
下山は阿部が報告している間、◯◯太くんとキャッチボールをしていた。もうサッカーはこりごりだと◯◯太くんは言っていた。
◯◯太くん「すごいね、あの人」
下山「代表のこと?」
◯◯太くん「うん、社長さんなんでしょ、エライのに、僕なんか子どもに謝るとかさ」
下山「あの人は、よくわかないんだよ。変なところあってね。◯◯太くんは、寂しくないの?」
◯◯太くん「お父さんさ、料理とか上手くないし、全然ダメだからさ、僕がいないと、たぶん、病気になっちゃうと思うんだ」
下山「へ〜、頼りにされてんだ」
◯◯太くん「だって、今日だってトースト焼いたの僕だし、戸締りだって・・・」
帰りに手土産をもらい、またキャッチボールの相手をすると約束した。
阿部「まあ、こんなもんだ」
下山「何がですか!」
阿部「ある意味、トラウマになるからな。俺がやったのは、ダメな方法だ」
下山「でも、◯◯太くんは褒めてましたよ」
阿部「そうか、それなら肩の荷が下りたな」
下山「それにしても、DVも本物と偽物があるとは、怖いですね」
阿部「そうだな。人間不信になっちゃうな」
下山「・・・その言葉、心こもってないですね」
阿部「偽物もそれを見抜けない奴も、両方よくない。本当の被害が、そのうち偽物なんじゃないかと疑われる」
阿部は”青臭いが”と付け加え、下山にこう言った。
阿部「真実を追求する者として、どんなに過酷なことでも報告する責務が探偵にはある。それによって、十字架を背負う覚悟は、常にもってなければならない」
下山「いいっすね。それ、次の合コンで使うんで、メモらせてください」
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※当事者の許可を得てメルマガで紹介したものを引用しています。
著者:阿部 泰尚(T.I.U.総合探偵社代表)
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