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米中はもはや新冷戦。国連総会で見えた、大国間パワーバランスの変化

米中・米ロ関係や難民問題など、さまざまな観点から注目された今回の国連総会。国際関係アナリストの北野幸伯さんは無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』で、総会で見えた日米中ロの力関係の変化と今後日本が進むべき道を詳述しています。

国連総会で見えた、日米中ロ、力関係の変化

ここ数日、日本最大のニュースは、福山さんと吹石さんの結婚でしょう。まことにめでたいことです。

一方、世界最大のニュースは、「国連総会」でした。もっといえば、「国連総会にむけて大国の首脳がアメリカに集結したこと」。

それで、日本、アメリカ、中国、ロシアの力関係の変化がはっきり見えました。

米中関係は、長期対立へ

まず米中関係から。

敬われ、歓迎されることに慣れている皇帝・習近平は、アメリカでまったく歓迎されませんでした。メディアも、「ローマ法王」訪米ばかりを取り上げ、習は「脇役」扱い。

一方、目立ったのは、米国内の習氏への冷ややかな反応だ。

 

米テレビは、22日から米国を訪問しているローマ法王フランシスコの話題で持ちきりとなっており、習氏のニュースはかすんでいる。

 

中国事情に詳しい評論家の宮崎正弘氏は「習氏にとって一番の期待外れは、全く歓迎されなかったことだろう」といい、続けた。

 

「ローマ法王はもちろん、米国を訪問中のインドのモディ首相に対する熱烈歓迎はすごい。習主席は23日にIT企業と会談したが、モディ首相もシリコンバレーを訪れ、7万人規模の集会を行う。米国に冷たくあしらわれた習氏の失望感は強いだろう。中国の国際社会での四面楚歌(そか)ぶりが顕著になった」

(夕刊フジ 9月28日)

オバマと習の首脳会談。「サイバー攻撃をやめることで合意」「米中両国軍が不測の事態に陥ることを回避するために新しい窓口をつくることで合意」だそうです。

「どんだけ米中関係悪化してんの?」ということですね。新しい窓口をつくらなければ「偶発的に戦争になるリスクがある」ということでしょう。

米中関係、1年前とは全く違う現実があります。いったい両国の間で何が起こったのでしょうか?

昔からの読者さんはご存知ですね。そう、今年3月の「AIIB事件」。イギリス、ドイツ、フランス、イタリア、オーストラリア、イスラエル、韓国など、親米国家群が、アメリカの制止を無視して、中国主導のAIIB参加を決めた。

「同盟国、親米国が、アメリカのいうことより、中国に従うようになっている!」

このことはアメリカの支配層に衝撃を与えました。それで、アメリカは、中国を「仮想敵ナンバー1」と定め、戦いを開始したのです。

5月、米中関係は、「南シナ海埋め立て問題」でヒートアップ。「軍事衝突になるのではないか?」と心配する声も出てきました。

さらに、アメリカメディアは、「中国の経済的繁栄は終わった!」と連日報道しています。これは、「事実」だから報道されている面と、「プロパガンダ」の両面あります。

どういうことか?

メディアが、「あの会社やばいよ!」といえば、その会社の株はさがるでしょう。

つまりこういうことです。

「中国経済がヤバいことはわかっていた。しかし、それが強調されることはなかった。AIIB事件後、アメリカは覇権を維持するために、中国経済の真実を語り始めた

それに、前と何も変わっていない「人権問題」「サイバー攻撃」なども、突然取り上げられるようになった。これはつまり、「中国の覇権とりを阻止するために、負の面にフォーカスしはじめた」ということです。

●結論1 米中関係は、長期の敵対関係に入っている

ちなみに、「アメリカ、AIIB後の対中戦略」については、ダイヤモンドオンラインの記事で詳述しています。おおむね予想どおりに動いてますので、参考になさってください。

リベンジ~AIIBで中国に追いつめられた米国の逆襲

米ロ関係は、改善しつつある

クリミア併合で「世界の孤児」になったはずのプーチン。国連総会で演説し、その後オバマと90分会談を行いました。ウクライナ問題では、今年2月の「停戦合意」を維持することで一致。シリア問題では、「イスラム国を退治しなければならない」ことで一致。

しかし、プーチンは、「アサド政権を支援、強化することでイスラム国と戦うべきだ」と主張したのに対し、オバマは、「アサド政権なんて支援できない」という立場。

とはいえ、米ロ関係はゆっくりと改善しつつあります。これも理由は、「AIIB事件」。アメリカは、最大の脅威となった中国と戦いやすくするために、ロシアと和解することにした。

中国と「埋め立て問題」でもめていた5月、ケリー国務長官がモスクワを訪問。「ウクライナの停戦合意がつづけば、対ロシア制裁解除もありえる」と語り、ロシア国民を仰天させました。

7月、アメリカとロシア(と英独仏中)は、長くつづいてきた「イラン核問題」を解決します。現在、両国共通の課題は、「イスラム国」です。ケリーさんとラブロフさんは、この問題を解決するために頻繁に協議をつづけています。

●結論2 アメリカとロシアは、和解にむかっている。

「世界の孤児」プーチンが、そこから脱却していくプロセス。近々ダイヤモンドオンラインに詳細な記事を書く予定です。楽しみにしていてください。

悪化する日ロ関係、その理由は?

米ロ関係は、好転している。その一方で、悪化しているのが日ロ関係です。

皆さんもお気づきでしょう?

メドベージェフや他の閣僚が、続々と北方領土を訪問している。ラブロフさんは、「北方領土問題は話し合わない」と断言している。

ちなみにニューヨークで、安倍総理とプーチンが会談しました。私は、ロシアでどう報道されるか、注意していました。ところが、国営放送RTRのニュースで、「ゼロ」です。これには驚きました。

一体日ロの間で何が起こっているのでしょうか?

まず、ある理由で、日本にとってロシアの重要性が薄れました

1.アメリカに制裁を強要される

これで、「日本国政府として」、両国間の経済協力を進めることが難しくなりました。民間はがんばってますが、「政府として」それを公にプッシュすることが難しい

2.原油価格の暴落

福島の事故で、日本の全原発が止まった。それで、原油、天然ガスの輸入が激増しました。原油、天然ガスの値段は、去年まで大変高かった(例:北海ブレントは昨年夏時点でバレル115ドルだった)。

そのため、日本では「貿易赤字」が大問題になっていたのです。日本政府は、「遠いカタールではなく、近いロシアからもっと安い天然ガスをいれたい」と願っていました。

ところが、原油価格が暴落した。115ドルだったのが50ドルまで下がり、半分以下になった。ロシアにとっては大打撃ですが、日本にとっては「神風」になりました。

しかも、「原油安」の理由は、「シェール革命による供給過多」である。つまり、「原油安は長期トレンドである」と思える。さらに、原油・ガス大国イランが、市場に復帰してくれば、さらに下がる可能性もある。これで、日本の「原油、ガスの供給元を多角化する意欲」が消え失せた。

ロシアの重要度は下がりました。

というわけで、日本政府高官とロシア政府高官が会うと、唯一のテーマが、「北方領土問題」になってしまった。当たり前ですが、ロシアにとって、「北方領土返還」は「損」です。それでも返すとすれば、「それなりの見返りがある場合」に限られるでしょう。

それは、「東シベリア開発への大規模投資」かもしれません。「極東への投資」かもしれません。いずれにしても、ロシアにとって、「北方領土返還」は「損」なので、話がそれだけだと、日本政府の人とあっても、うれしくないのです。

これ、日本人にとっては、「自分勝手な!」ということですね。「奪ったものは損得勘定抜きで返すのが当然だ!」と。しかし、事実として、ロシア側は「そう考えている」ということなのです。

では、どうすればいいのでしょうか?

米ロ関係の「うまいやり方」が参考になります。米ロは、まず「イラン問題」に共同で取り組むことにしました。その後は、「イスラム国問題」を協議しています。そうやって「同じ課題に一緒にとりくむ」ことで、関係が徐々によくなっていく。

要するに、北方領土を返して欲しければ、まずできることから「信頼関係」を醸成していくことが必要なのです。

こう書くと、必ず産経新聞が、「だまされる!」「利用される!」と批判します。それも、その通り。だから、慎重に、「日本も得、ロシアも得」になる案件でやっていかなければならない。WIN-LOSEではなく、つきあえばつきあうほど両国が得をする関係をつくっていく。

とはいえ、「別にそんなの必要ない」となるかもしれません。それもそうですね。

しかし、一点、「中国、ロシア2国と戦うのは難しい。中国とロシアを分裂させ、中国を孤立させれば、楽勝だ」というのはあります。経済的にはそれほど必要がなくても、安保面でロシアと仲良くしておいた方がいいです。

●結論3 日本とロシアの関係は悪化している。

日本はどう動くべきか

さて、大国間のパワーバランスの変化を念頭に、「日本はどう動くべきか?」と考えてみましょう。

まず中国

アメリカが中国と「冷戦時代」に突入しそうな勢いです。これは、中国からの侵略におびえる日本にとっては、まことに好都合。

日本は、アメリカを見習い、中国と距離を保つことが重要です。

アメリカに不信されるような行動(たとえば5月の3,000人訪中団)はくれぐれも控えましょう。

もちろん挑発するのは論外ですが、「静かで冷たい関係」を保つのがよいでしょう。安倍さんは、訪中しないほうがいいです。「希望の同盟国」アメリカに、不信感を抱かせます。

対ロ関係

「北方領土返しやがれこの野郎!」なんて直球勝負では一歩も前に進みません。「お互いに儲かることを考えましょう」という態度でちょうどいいと思います。

総理は、プーチンの年内訪問を願っておられるようです。わざわざ他国の首脳を呼んで、「島返せよこら!」という。記者会見では、「北方領土いつ返してくれますか?」と集中攻撃される。

こういう状況になれば、4島は返ってきますか? それともますます返還が遠のきますか?

安倍総理と閣僚の皆さんは、親日プーチンに会うと、「島返せ!」といいます。ところが、世界有数の反日国家韓国の政府高官には、「竹島返せ!」とまったくいいません。

これは、おかしいのではないでしょうか?

いずれにしても、世界は「米中対立」を軸にまわりはじめました。日本にとっては、とてもいい状況になっています。

image by: Frederic Legrand – COMEO/Shutterstock

 

ロシア政治経済ジャーナル
著者/北野幸伯
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