「平幕・貴ノ岩 関への暴行問題」で、横綱・日馬富士 関は本日記者会見を開き、正式に引退を表明しました。米国育ちで元ANA国際線CA、さらに元ニュースステーションお天気キャスターだった健康社会学者の河合薫さんは、自身のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』で、相撲界としての処分は仕方ないが、その問題を「モンゴル人いじめ」に発展させるのはおかしいと、母国語以外の言語で細かいニュアンスを伝えることの難しさについても記しています。
日馬富士問題ーだって“母国語じゃないもん!”
「日馬富士が引退を固めた」との報道が朝一番に入ってきました。
記者会見などもあるみたいですが、以下は、昨夜書いた内容です。
どうかご了承ください。
テレビでもラジオでも「日馬富士問題」だらけで、食傷気味の方も多いかもしれませんね。
だいたい毎日毎日、「おぉ!ここにもいたのかっ!」って驚くくらいあっちこっちから“外野”が出てきてコメントし。
被害者側の貴乃花親方を追いかけ、「真相を語るべきだ!説明すべきだ!」と騒ぐのは、申し訳ないけど私にはち~っとも理解できません。
だって、フツーに考えれば加害者側の日馬富士と伊勢ヶ濱親方が記者会見でも開いて、「暴行してしまいました。ごめんなさい。次の場所は休場して謹慎します」と謝ればいいと思うのです。
だって、被害届は出ているので警察の裁きは受けるわけです。
その一方で、大相撲という社会的関心も高い国技といわれる世界でおきたことなので、社会的責任のひとつとしてきちんと説明すればいい。
なので今回の“事件”に関する私の意見は以上です。
ここからは今回の“一件”について、とても残念に思っていることを書きます。
報道を見ていて、以前、日本に暮す外国人の方が「日本には目に見えない鎖国がある」と言っていたことを思い出しました。
みなさん、忘れているんじゃないでしょうか?
日馬富士も、白鵬も、貴ノ岩も、そして元旭鷲山も、モンゴル人だってことを。
日本とは文化も違えば言葉も違う、モンゴルという国で生まれ育った方たちです。
どんなに日本語を流暢に話せても、彼らの母国語はモンゴル語。
日本語は母国語ではないのです。
「母国語じゃない」という事実は、想像以上に大きい。
とりわけ世界的にも難しいとされる日本語は、ちょっとしたニュアンスで「言いたいこと」の齟齬が出ます。
その「違い」を「言ってることが違う」だの「ケシカラン!」だのと批判してる。
千秋楽の白鵬関に対するバッシングがまさしくソレでした。
確かに土俵という場所では、極めて異例な“言動”だったかもしれません。
白鵬は優勝した感想より先に、“事件”の謝罪と「日馬富士と貴ノ岩を土俵に再び上げたい」と親方たちがいる前で、観客に気持ちを吐露しました。
そして、最後は万歳三唱です。
今までにはない勝者のパフォーマンスは、品格を重んじる相撲界には異例中の異例だったのかもしれません。
でも、それは親方たちや理事の人たちがそっと楽屋で「あれは日本では勘違いされる」と窘め、日本の文化を教えてあげれば、それでジ・エンドです。
なのに翌朝からテレビやラジオ、新聞や雑誌では「白鵬はいつからあんなに偉そうになったんだ」とか、「横綱として許し難い言動」とか、あれやこれやのバッシング。
「理事長をさしおいてあれはない」「万歳三唱はありえない」と糾弾しました。
でもね、あのときの観客の方たちの表情をみましたか?
みんなうれしそうに万歳してる。
「横綱、がんばったな!前人未到の40回の優勝おめでとう”」ーーー。
観客の方たちは心から「バンザ~イ!」と声を上げて、手を挙げて無事に九州場所が終わったことを喜びたかったんじゃないでしょうか?
場外は「負」の感情だらけですが、場内は「安堵」と「喜び」の感情に溢れていた。
だから自然と万歳三唱した。それでいいじゃないですか。
「膿をだしきる」という言葉も批判されましたが、彼らの母国語は日本語ではないんです。
言葉の土台は生後10ヶ月までに出来上がります。
例えば、日本人ができないとされる「R」の発音も、生後10ヶ月までの赤ちゃんに「LとR」の違いを教えたり、オモチャのスピーカーから「ルルルルル~」と「R」の音を流し、時折「L」の「ルルルルル~」を聞かせると、聞き分けも発音もできるようになることがわかっています。
私は小4のときに米国に引っ越し、中1までいましたので、現地では何不自由なく英語を話していました。でも、国語の授業の課題だった読書感想文が書けなくて、ワンワン泣いた記憶があります。会話英語は理解できても、書き言葉が理解できない。ちょっとしたニュアンスが理解できなかったのです。
ところが兄の娘、つまり私の姪っ子は米国で生まれ、家では日本語で育ち6歳のときに日本に戻ってきました。
アメリカンスクールに通っていますが、完全にバイリンガルです。
兄とも「ああこれがバリンガルなんだね。我々の偽バイリンガルとは違う~(笑)」と感心しています。
というわけで、今回の“事件”は警察のもと裁きを受ければいいし、相撲界としても処分をすればいい。
でも、モンゴル人イジメのような風潮は即刻辞めるべし。
日本人でさえやりたがらない厳しい世界で、踏ん張って努力してきた異国の文化の彼らを、受け入れる度量の広さを持ってほしいと心から願います。