MAG2 NEWS MENU

どうした新幹線。「のぞみ34号」の重大インシデントに残るナゾ

12月11日に発生した、新幹線「のぞみ34号」のトラブル。台車に亀裂が見つかるという、一歩間違えれば「高速での脱線」という大惨事となりかねない深刻なこの事態は、なぜ起きてしまったのでしょうか。アメリカ在住の作家で世界の鉄道事情にも精通する冷泉彰彦さんが、自身のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』で「現時点での疑問」を記すとともにその分析を試みています。

新幹線N700a系故障、現時点での疑問

12月11日に博多発東京行き「のぞみ34号」でモーター継手とギアボックス周辺での潤滑油漏れに加えて、台車枠に亀裂が入っていることが判明しました。この故障事例は、運輸安全委員会によって、新幹線としては初めてとなる「重大インシデント」に認定されています。特に台車のヒビ割れというのは、一歩間違えば脱線という最悪の事態を引き起こしかねないわけで、「重大インシデント」認定は当然の判断と言えます。

事態を受けて、国交省は「全ての新幹線の台車に関する緊急点検」を指示しましたが、これは即座に実施されて「異常なしと報告されています。少なくとも、これから年末年始へ向けての繁忙期において、故障した西日本保有のK5編成以外にも車両が「寝る」ことになれば大変でしたが、そうした事態は回避されそうです。

そうではあるのですが、今回の「台車のヒビ」というのは大変な問題です。詳細については調査結果を待たねばなりません。大きなストーリーとしては、東洋経済さんの「鉄道最前線 新幹線『重大インシデント』はなぜ起きたのか」にも書いたように、

  1. 金属疲労などで台車に亀裂、オイル漏れはその結果
  2. 発端は前科のあるギアボックス故障、その結果で台車に異常な力
  3. 何か異物(車両の他の部品など)が衝突して台車とギアボックスが破損

という3種類の可能性が考えられます。

ですが、仮にそうだとしてももう一つ大きな疑問が残ります。今回故障したK5編成というのは、落成して就役した際には「N700系」ですが、2013年に改造工事を施されて「N700a」になっています。その改造に当たって、「台車振動検知システム」が装備されているのです。

この検知システムですが、通常の振動と異常な振動を見分けるために、一種のビッグデータ解析のようなことをやってアルゴリズムを決めているそうなのですが、その検知のターゲットはズバリ「モーターの継手軸箱の異常なのです。

詳しく言うと、今回のような油漏れが起きた場合に、潤滑油が異常な高温になると温度センサーが感知するのですが、「温度センサーには引っかからないけれども、振動に異常が出た」場合に、その振動の波形を見て台車についている加速度センサーが警告を出すようになっているわけです。

と言うことは、仮に上記の3つのシナリオの場合、どのパターンであっても「台車振動検知システム」あるいは「車軸の温度センサー」からの警告は出ていた可能性が極めて高いと考えられます。

では、どうして異常を感知してから3時間も運転が継続されたのか、西日本から東海への受け渡しも行われたのかというのは改めて非常な疑問として出てくるわけです。そこで考えられるのは、JRご自慢の「台車振動検知装置」(東芝製と思われます)が故障していた可能性、そして警告は出ていたがそれが無視された可能性です。

N700が「N700a」に進化した、そして既存のN700も全て「A」に改造されたということは大々的にPRされたわけで、その「A」というのは「アドバンスのA」だということになっています。下手をすると、その先進性というのが役に立たなかった可能性があるわけで、とにかくこの点も含めて徹底的な解明が望まれます。

【訂正と追記】
文中で、今回故障を起こした車両には「台車振動検知装置」が搭載されているとしていましたが、その後、2013年前後のJR西日本、JR東海によるプレスリリースなどを確認したところ、「N700」として就役した車両を「A」に改造した際には、「台車振動検知装置」の搭載は見送られていたことが判明しました。

この点を訂正させていただくとともに、今回のインシデントを契機として是非この「Aへの改造」がされた車両にも、「台車振動検知装置」を装備することを強く提言したいと思います。この技術ですが、最も難しい「振動の中から異常を判別する」ためのビッグデータ解析とアルゴリズム作成は「N700A」への装備までに固定投資が完了しているはずで、追加の実装には大きなコストはかからないと思います。是非、実現していただきたいと考えます。

冷泉彰彦この著者の記事一覧

東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料で読んでみる  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 冷泉彰彦のプリンストン通信 』

【著者】 冷泉彰彦 【月額】 初月無料!月額880円(税込) 【発行周期】 第1~第4火曜日発行予定

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け