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ダボス会議から聞こえてきた「米中貿易戦争」開始の合図

先日、ダボス会議で行った米トランプ大統領の演説が、一部メディアで「中国への貿易戦争宣戦布告」等と報じられるなど大きく注目されています。今回のメルマガ『国際戦略コラム有料版』では著者の津田慶治さんが「米中の全面対決の状況は整えられた」と見て、「米国の思惑」「中国の反撃」などさまざまな側面からこの二大国の貿易戦争の行方と世界が被る影響について分析・解説しています。

米中貿易戦争の勃発か?

米トランプ大統領は、太陽光パネルや大型洗濯機にセーフガードを発効したが、それでは済まずに、ダボス会議で中国による知財侵害に対する取締りやスーパー301などで適正な貿易環境を整えると述べた。これは大変である。それを検討しよう。

リスクの列挙

2018年は、新聞等で言われているように世界同時好景気で始まっているが、リスクも多い年でもある。1つに米国の北朝鮮攻撃の可能性がある。2つにはトルコのシリア侵攻で、クルド勢力をサポートしている米軍を攻撃する可能性である。クルド勢力はアサド大統領とロシアに助けを求め、米国はトルコにクルド勢力への武器供給停止を宣言し、米軍がいるマンビシへの攻撃を思いとどまるように説得。3つに、インドと中国のナトゥ・ラ峠やアルナーチャル・プラデーシュ州などの国境紛争である。この3つが地政学リスクだ。

経済的なリスクは、1つに、米中貿易戦争である。ダボス会議でトランプ大統領は知財侵害を許さないと中国を名指しはしなかったが、中国との貿易戦争に発展することになる。

2つには、米の株バブル崩壊により世界経済が恐慌になる可能性、3つには中国の投資経済が大減速して、世界経済が大幅減速することで、各地のバブルが崩壊することだ。

世界経済の一体化が拡大して、経済リスクが1つ起こると、他のことも起こる可能性が高いので非常に心配な状況である。バブルがいろいろな国で起こっているので世界同時恐慌となる可能性もある。

今回は、この内、米中貿易戦争を見よう

米国の思惑

米国は中間選挙が2018年11月に始まる。この中間選挙で共和党が引き続き上院下院で多数になるために、トランプ大統領は、支持層に好まれる政策を畳みかけていくようである。

法人税や所得税の減税により、株価は上昇しているし、富裕層の支持は確かになっている。その上に、株価を一層上げるために、道路や橋などの公共事業に1.7兆ドルの計画を立てた。多くの公共事業で、より株価は上がり、支持率も上がることになる。民主党とは移民政策の譲歩で議会を通そうとしている。

次に、世界経済で多国籍企業の工場がシフトしたことで、先進国労働者から新興国労働者に労働がシフトして先進国労働者の不満が高まっている。特に米国では白人労働者層の不満が高く、これに向けた政策を推進する必要がある。

労働シフトした先である中国からの輸入で大幅な貿易赤字の原因である太陽光パネルや鉄鋼材、アルミ材、家電などの個別商品だけではなく、知財侵害などの法律・制度に絡むことも問題とするようである。スーパー301条を中国に適用するという。

日本で成功した301条で対応した制度・法律改革を中国にも適用する。特にIT・AI系の技術で米国は、中国に迫られているので、ここを潰そうしているように見える。この部分の技術を中国にとられると、世界に対して米国の優位な部分がなくなる。

IT・AI系では海外からの技術者を排除することで、白人技術者の雇用が生まれることになる。黒人や南米移民は教育がないので雇用されないからだ。

ということは、米中貿易戦争の開始であるが単純な貿易戦争ではない。相当こじれることになる。

ここで、米トランプ大統領は、中国企業や日本企業が工場を米国に持って来ることで非知識階層の白人労働者の職を確保することで中国との貿易赤字を縮小するとともに、知財侵害で中国のIT技術を潰すことを狙うようである。このために、物価が上昇することをいとわないようだ。

そうすると、米国への工場進出を促進する法人税の減税を行っているので日本企業にも大きなチャンスが出てくる。環境が同じであり、コスト的には同じになるからだ。トランプ大統領がダボス会議で言ったように米国への投資が有利であるという演説は正しいことになる。

米国の国防戦略策定

同時に、米国の国防戦略は、中国を米国の覇権に挑戦する最大の脅威とみなし、「対テロ」から中国とロシアとの長期的な「戦略的競争」に備える体制に転換するとした。経済的・軍事的に中国が最大の脅威としたのである。

中国は一帯一路の範囲を拡大して、北極圏を中国の範囲として、中南米にも一帯一路のルートを拡大して、米国に対して包囲戦略の方向である。中国の経済軍事力が米国を包囲することができるようになったことを表す。

とうとう米中の全面対決の状況が整えられたようである。

中国の反撃

現在、中国の経済面での世界的な影響力は、米国より数段大きいので日本とは違うことになる。世界の多くの国で米国への輸出より、中国への輸出が多くなっている。このような経済大国になった中国は米国企業の排除を行い米国債の売却などを行うと脅しを米国に掛けている

ムニューシン財務長官は、ドル安容認の発言をしたが、中国が米国債を売却したら、米国債の金利が上昇し、ドル安になることは確実である。ムニューシン財務長官のドル安容認発言は、中国の国債売却に対する発言である。

国債の金利上昇(暴落)を止める方法は、FRBが量的緩和政策として米国債を買うしかない。中国の米国債は膨大であり、それを買える購入先はないので、最後の砦であるFRBが買うしかないのだ。

FRBは、公定歩合の金利を上げていくが、国債売却での急な金利の上昇を止めることになる。しかし、金利上昇ではあるが、ドル通貨量が増えるので当然ドル安にはなる

それより、米国債の信用力がなくなり、ドル基軸通貨体制も崩壊する可能性がある。米国債の暴落が起こり、他国や企業も米国債を売る可能性がある。ドル安で高いインフレにもなるはず。それとは反対に、円やユーロが高くなる。ドルの独歩安であり、ドルの信頼がなくなる。中国の米国債売却はドル基軸通貨制度をつぶすことになる。

もう1つが、米企業の多くが中国関連で儲けているから、その企業の利益が大幅に減ることになる。アップルやGM、GE、キャタピラー、キヤリアなどの米企業の利益は減ることになる。一方、IT企業は中国に進出できていないので影響がない。米国経済はIT企業が強いので、それを維持することで経済や株価を維持できるとみている。

株価はIT企業以外では下落することになる。しかし、米中貿易戦争になると、2大経済大国の貿易が止まり、その影響は世界的に影響する。中国の米国への製品の部品を日本企業が補給しているので、それがなくなるなどで波及してくることになる。

世界貿易量は、一時的に大幅に減ることになる。景気も一時的に下がることになる。米国への工場進出などで一時的ではあるが、バブル経済である現在の世界は、震える可能性はある。

米国の指導者は、中国の経済力を過小評価しているように感じる。米国経済に大きな影響なく、スーパー301条を中国に適用できるとみているが危険な方向だと思う。

テスラの問題か?

米中貿易戦争と同時に、米国の株価が急騰している。米国政府やFRBは、あまりにも早い市場の沸騰を抑えることが必要であるはずが、急騰を促進するような政策をトランプ政権は出している。

FRBも米国債を大量に買うことになり、量的緩和となる。金融相場を継続させることになる。業績相場の上に金融相場を継続させることは、バブルを一層膨らませることになる。

現時点、株屋の踏み上げの段階にあるともいえる。儲かると庶民に株を持たせて、株屋は空売りして短期に大もうけをする仕組みである。1989年年末の日本の株価操作を米国証券会社は告白している。これと同じようなことをしているように感じる。

その株が下げる切っ掛けは何かと考えるとテスラの可能性がある。破綻を避けるために、テスラの身売りが近いような気がする。しかし、買う企業があるかどうか?

もし、米国の株バブル崩壊になったら、世界に波及するので、その面でも大変である。二重の意味で米中貿易戦争は見ていく必要がある。

さあ、どうなりますか?

 

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【著者】 津田慶治 【月額】 初月無料!月額660円(税込) 【発行周期】 毎月 第1〜4月曜日 発行予定

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