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「終身国家主席」を目指す習近平は、国際金融資本に潰されるのか

以前掲載の記事で、習近平氏が事実上の「終身国家主席」になる可能性を伝えた国際関係アナリストの北野幸伯さん。今回は自身の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』で、読者の方から寄せられた「欧米や国際金融資本がその気になれば、中国を潰すことができるのか?」という質問に、国際金融資本の中でも有名なジョージ・ソロスの発言を紹介しつつ持論を展開しています。

国際金融資本は、中国をつぶせるか???

前々号「習近平、事実上の「皇帝」に。憲法改正で国家主席の任期撤廃」で、こんな記事を紹介しました。

中国主席、任期撤廃案…習氏の長期政権に道

読売新聞 2/25(日)18:44配信

 

【北京=竹内誠一郎】中国国営新華社通信は25日、中国共産党中央委員会が、「2期10年」と憲法が定める国家主席と国家副主席の任期について、この規定を削除する憲法改正案を、3月5日開幕の全国人民代表大会(全人代=国会)に提案すると伝えた。

これで、習近平は、「終身国家主席になる可能性がある」と。この件で、いろいろ質問をいただいております。前々号の最後に、こんなことを書きました。

全般的には、「私が死ぬまで国家主席をやる」という決意は、中国国家によい結果を残さないでしょう。問題は、欧米や国際金融資本が、「習近平の権力欲は危険だ」といつ確信するかですね。彼らが、はっきりそのことを自覚すれば、中国の体制崩壊は速いと思います。

この部分。「欧米や国際金融資本がその気になれば中国を潰すことができるのでしょうか?」という質問をいただきました。お答えします。

欧米と国際金融資本は別に動く

まず第1に「欧州米国国際金融資本は意見が異なることがある」ことを、はっきり知っておきましょう。私たちは、「欧州と米国は、価値観を共有している似た者同士」ということで、「欧米」という言葉を使います。しかし、欧州とアメリカはいつも一体化しているわけではありません

たとえば、アメリカ、イギリスは、イラク戦争支持。フランスとドイツは、イラク戦争反対でした。2013年、アメリカは、シリア、アサド政権を攻撃しようとした。イギリス、フランスは、当初戦争を支持していた。しかし、まずイギリスが裏切り、フランスが続き、結局アメリカも戦争を断念せざるを得なくなった。

今も欧米は一体化しているとは言い難い状況です。たとえば、「パリ協定」。アメリカは、離脱を宣言し、欧州は、トランプの決定を激しく非難しました。たとえば、トランプの「エルサレムはイスラエルの首都宣言」。これも、欧州は支持していません。欧米の意見が概して一体化しているのは、「シリア問題」と「ウクライナ問題」でしょう。

国際金融資本家ソロスは、イラク戦争反対

国際金融資本といっても、いろいろいますね。今回は、特に有名なジョージ・ソロスのアメリカ観」「中国観」を紹介します。

まず、イラク戦争。彼は、イラク戦争が始まった翌04年、『ブッシュへの宣戦布告』という本を出版しています。この本の中で、ソロスは、「アメリカの没落を明確に予測していました。

先制軍事行動を唱えるブッシュ・ドクトリンを私は有害だと思っている。

アメリカの単独覇権というブッシュの夢は、達成不可能であるばかりか、アメリカがその伝統として唱えてきた理念と矛盾するものである。

アメリカは今日の世界で、他のどの国家も、またどの国家連合も、当分は対抗できそうもない支配的な地位を占めている。アメリカがその地位を失うとすれば、それは唯一、自らの誤りによってだろう。ところが、アメリカは今まさに、そうした誤りを犯しているのである。

どうですか、これ? 「アメリカがその地位を失うとすれば、それは唯一、自らの誤りによってだろう」「アメリカは今まさに、そうした誤りを犯している」。つまりソロスは、「イラク戦争は誤りでそれによってアメリカは自らの地位(=覇権国家の地位を失う」と言っている。ソロスは、「予言者」と言っていいほど、その後のことを言いあてていました。

ソロス、「アメリカは悪!」「中国は善!!!!」

そんなソロス、12年前に驚くべき発言をしています。彼は、06年に出版された本『世界秩序の崩壊~「自分さえよければ社会」への警鐘』の中で、アメリカと中国についての考えを明らかにしていました。

ところが、ここに、皮肉にも愚かな事態が起きた。近隣の大国・中国が基本的に多極主義を受け入れ始めた矢先、アメリカ合衆国が正反対な方向へと動き、国際的な諸制度への疑念を強め、最近の国家安全保障面での難題に対して大幅に一極主義的な治療策を遂行したのである。日本は、この両国の板挟みになった。かたや最大のパトロンかつ保護国ながら、昨今益々世界の多くの国々との折り合いが悪くなってきたアメリカ。かたやその経済的繁栄を持続させ確保すべく国際的システムにおいて安定と現状維持を志向しつつある中国。

ソロスによると06年当時のアメリカは、「昨今益々世界の多くの国々との折り合いが悪くなってきた」国である。一方、中国については、「経済的繁栄を持続させ確保すべく国際的システムにおいて安定と現状維持を志向しつつある」国。06年時点のソロスの、「米中観」は明確です。つまり、彼は、「アメリカ」「中国」と考えていた。この評価は、2010年時点でも変わっていません。彼は2010年11月16日の「フォーリン・ポリシー」で、

アメリカから中国への、パワーと影響力の本当に驚くべき、急速な遷移があり、それはちょうど第二次世界大戦後の英国の衰退とアメリカへの覇権の移行に喩えられる

今日、中国は活発な経済のみならず、実際に、アメリカよりもより機能的な政府を持っている」という議論を呼ぶであろう

と語りました。つまり、彼は当時、「イギリスからアメリカに覇権が移ったように、今は、アメリカから中国に覇権が移動している」と考えていた。

さらに、中国はアメリカよりも機能的な政府を持っている」と。これも、本当に驚きです。というのは、ソロスは、「オープン・ソサイエティ」、つまり「開かれた社会」を作りたいのでしょう? だから、彼の財団は、世界各地で独裁国の民主化勢力を支援している。ところが、共産党の一党独裁国家、基本的人権の存在しない、「開かれていない社会」である中国だけは完全に例外扱い。それどころか、大絶賛している。

皆さん、「国際金融資本が中国を育てた」という類の「陰謀論」を聞いたことがありますか? ソロスの発言を時系列的に追っていくと、「頭から否定できないよな」と感じます。

ソロスは一度中国を見捨てた

しかし、そんなソロス、実は1度中国を見捨てたことがあります。いつ??? 2015~2016年にかけてです。何が起こったのでしょうか? 2015年3月に「AIIB事件」が起こった。中国が、「自分の国際金融機関」を作ったのです。このことは、一部の国際金融資本から、「中国は俺たちの支配する世界をぶち壊すつもりだ!」と認識されました。なぜ? 今の世界秩序は、国際金融資本が作ったものです。思い出してください。ソロスは06年に言いました。

経済的繁栄を持続させ確保すべく国際的システムにおいて安定と現状維持を志向しつつある中国。

「国際的システム」について、「安定」と「現状維持」につとめることが、ソロスたちにとって大事なのですね。中国は、12年前そうだった。ところが、「AIIB」をつくることで、中国は「現状を壊し」、状況を「不安定」にしたのです。

問題はこの後です。国際金融資本は中国を見放しこの国の経済は2015~2016年ひどい状況になりました。公式発表では、2015年6.9%、2016年6.7%成長となっています。しかしこの年の貿易統計を見ると、悲惨さがはっきりわかる。

2015年、

これで、GDPは6.9%成長とかありえないですね。高橋洋一先生は、「GDPはマイナス3%ぐらいだろう」とおっしゃていました。

ちなみに2016年は、

ちなみに「国際金融資本が見捨てたから中国経済が悪くなった」というのは、私の推測で、証拠はありません。しかし、「国際金融資本が2015年に中国と見捨てた証拠」はあります。夕刊フジ2015年11月25日付。

かつては高い成長率を背景に、欧米の金融機関や投資家が積極的な投資を行っていた中国だが、経済の失速もあって、いまやマネーは逆流している。米紙ウォールストリート・ジャーナルは、米シティグループが、広東省の地方銀行、広発銀行の株式20%の売却に向けて協議していると報じた。シティは2006年に企業連合に加わり広発銀行を買収、当時の取得額は約6億2,000万ドル(約760億円)だったが、シティが目指す売却額は明らかになっていない。

シティが中国地銀の株を売却するそうです。シティだけではありません。

米経済メディアのブルームバーグによると、ドイツ銀行も北京にある商業銀行、華夏銀行の持ち分35億ドル(約4,300億円)を売却する可能性を示唆しており、欧米の主要金融機関で、中国の大手銀行に大きな持ち分を持つのは、交通銀行に出資する英HSBCホールディングスだけになる。
(同上)

ドイツ銀行も売却するそうです。

シティやバンク・オブ・アメリカ、ゴールドマン・サックス・グループなどが2012年の初め以降、中国の銀行株を少なくとも140億ドル(約1兆7,000億円)相当を売却したという。投資先としての中国の落日ぶりを象徴するのが、ブラジル、ロシア、インドを含む4カ国に投資する「BRICs(ブリックス)ファンド」をゴールドマンが閉鎖したことだ。

ゴールドマンはBRICsの「名付け親」として新興国投資ブームを作ったが、中国が人民元を突如切り下げた時期にあたる8月12、13日の会合で閉鎖を決め、10月に別の新興国向けファンドと統合した。「予見できる将来に資産の急増が見込めない」と閉鎖理由を説明している。
(同上)

ゴールドマンは、「ブリックスファンドを閉鎖した。このように、商売に直結するために、「マクロ経済動向」をどこよりも真剣に研究している国際金融資本は、はっきりと中国を見捨てていたのです。そして、2016年1月、これまで「親中」だったソロスから、衝撃発言が飛び出します。

ソロス氏:中国のハードランディングは不可避、株投資は時期尚早(2)

Bloomberg 1月22日(金)9時54分配信

(ブルームバーグ):著名投資家ジョージ・ソロス氏は21日、中国経済がハードランディングに直面しており、こうした状況は世界的なデフレ圧力の一因になるだろうと述べた。同氏はまた、中国情勢を考慮して、自分は米株の下落を見込んだ取引をしていると説明した。ソロス氏はスイス・ダボスでのブルームバーグテレビジョンとのインタビューで、「ハードランディングは事実上不可避だ」と指摘。「私は予想しているのではなく、実際に目にしている」と語った。

親中ソロスも、2016年1月には、中国を見捨てたのですね。しかし…。

国際金融資本は、なにを目指す???

いったい国際金融資本というのは何を目指しているのでしょうか? 「国際金融資本の代表的人物」といえば、故デビッド・ロックフェラーさんでしょう。彼は、回顧録でこう語ったといいます。

なかには、わたしたちがアメリカの国益に反する秘密結社に属していると信じる者さえいる。そういう手合いの説明によると、一族とわたしは“国際主義者”であり、世界中の仲間たちとともに、より統合的でグローバルな政治経済構造を、言うなれば、ひとつの世界を構築しようとたくらんでいるという。もし、それが罪であるならば、わたしは有罪であり、それを誇りに思う。
(『ロックフェラー回顧録 下』)

国際金融資本家は、「ひとつの世界をつくりたい。なぜ?

私が理解しているのは、「金儲けがしやすくなるから」です。ビジネスしている人は、わかるでしょう? 国によって法律が違う、ルールが違うとか、本当に面倒くさい。「全世界が共通のルールで、国境がなくなればどれだけいいことか…」と。

しかしそれをやると日本に貧しい国から人が殺到する。日本人労働者の賃金は今の半分の水準に下がり、日本人の失業者は激増することでしょう。国際金融資本は、「国境のない世界」を目指しますが、一般人には「国境の守りも必要なのです。

トランプに救われた習近平

さて、ソロスは2015年~16年、中国を見捨てていました。ところが、また状況が変わります。そう、トランプさんがアメリカ大統領選で勝利した。国際金融資本は、ブッシュ(子)とかトランプのような「民族主義者」が大嫌いなのです。ソロスはブッシュ(子)を嫌っていましたが、トランプも超嫌っています

一方、習近平は2017年、「私は自由貿易絶対支持だ!」「核兵器のない世界を目指したい!」「パリ協定絶対支持!」などと、「国際金融資本に喜ばれる言葉」を並べて許された。「トランプが大統領になったので許された」と言えるでしょう。そして2017年中国経済は安定を取り戻しました。

そうそう、「国際金融資本」には、中国を潰す力があるのでしょうか? 私は、「ある」と考えます。2015年16年の異常な景気悪化が、そのことを示している。

習近平が、憲法をかえ、「終身国家主席」への道を歩きはじめます。これは、常識的に考えれば、国際金融資本に嫌われる言動。しかし、まだ表立った反応は出てきていません。

もっといいのは、欧米政府と国際金融資本が一体化して中国に対処すること。しかし、現実はどうでしょうか? トランプは、「私は習近平が大好きだ!」と公言している。欧州諸国は、中国と良好な関係を保っている(ほとんどの国が、アメリカの制止を無視してAIIBに入った)。国際金融資本の一部は、「トランプ憎し」で中国を許した。

とはいえ、これらはすべて、国家主席「1期5年」「2期まで」という憲法を「改める!」と宣言する前の話。今後どう変わるか、注意していましょう。

 

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【著者】 北野幸伯 【発行周期】 不定期

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