MAG2 NEWS MENU

スパイ暗殺未遂事件が引き金?漂い始めた欧米 vs ロシア冷戦の気配

イギリスのショッピングセンターで、同国とロシアのダブルスパイだった人物とその娘が意識不明の重体で発見された事件が、世界中で話題となっています。無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者でロシア在住の北野幸伯さんは、全く異なる欧米諸国とロシアの見解を紹介した上で、今後「欧米 vs ロシア」の戦いが始まる可能性を示唆しています。

世界を揺るがす、ロシア人ダブルスパイ暗殺未遂事件

イギリスでは、「冷戦2が始まった!と大騒ぎになっています。何が起こったのでしょうか?

順番にお話ししていきましょう。事件は、3月4日に起こりました。

「元英国のスパイ」 ロシア人男性ら重体 「未確認物質に暴露」

3/6(火)9:47配信

 

【AFP=時事】英国警察は5日、イングランド南部のソールズベリー(Salisbury)で60代のロシア人男性と30代の女性が「未確認の物質に暴露」され意識不明の重体になる「重大事象」が発生したと発表した。現地の報道はこの男性はかつて英国のスパイだったと伝えている。

ロシア人男性と女性が意識不明の重体。で、男性はイギリスのスパイだった。これは、なんでしょうか?

スクリパリ氏はロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)の元大佐。英国のスパイとして活動していたとして2006年にロシアで禁錮13年の判決を受け、2010年に米国・ロシア間でスパイ交換が行われた後、英国に亡命していた。
(同上)

狙われたスクリパリさんは、もともとロシアの諜報員だった。ところが、イギリスに情報を提供していた、いわゆる「ダブルスパイ」だったのです。ロシアでは、「裏切り者」として有名です。

さて、誰が暗殺を企てたのでしょうか? そう、皆さんの脳裏にプーチンの顔が浮かびましたね? イギリス側の発表もそうでした。

元スパイ襲撃、ロシアによる犯行の「可能性大」 英首相

CNN.co.jp 3/13(火)12:03配信

 

ロンドン(CNN)英南部ソールズベリーで4日、元スパイのロシア人男性らが神経剤で襲撃された事件について、英国のメイ首相は12日、ロシアによる犯行の可能性が「非常に高い」との見方を示した。

ロシアによる犯行の可能性が非常に高い』」そうです。

メイ氏は下院で、犯行に使われた毒物が旧ソ連で1970年代に開発された「軍用級」の神経剤「ノビチョク」と特定されたことを明らかにした。英外務省がロシア大使を呼び、国家による直接の犯行か、あるいは政府が神経剤を管理できなくなっているということかという点について説明を求めたという。
(同上)

メイさんは、二つの可能性をあげました。

  1. 国家による直接の犯行
    要は、ロシアの諜報機関の指示、最悪プーチン自身の指示で犯行が行われた?
  2. 政府が神経剤を管理できなくなっている
    つまり、ロシアから盗まれて、犯行に使われた?

どっちなんでしょうか? こう言われた時点で、「他の選択肢」が考えられなくなってしまいますね。

犯行に使われたとされる「ノビチョク」とは何でしょうか? BBC3月13日付が解説しています。

化学兵器」なんですね。そんなものが、イギリスの普通の町で使われるとは、恐ろしい…。

米独仏は、イギリスの見解を支持

この件、イギリス、ロシア以外の国は、どう反応しているのでしょうか? まず、アメリカ。先日解任されたティラーソンさん

レックス・ティラーソン米国務長官は英国の見解を支持し、ロシアが関与している可能性が高いとコメントした。「われわれは、この犯罪の首謀者と実行者が適切な厳罰に向き合うべきだということで一致した」、「米国は英国と共にあり、引き続き緊密に対策を練っていく」と国務長官は話した。
(同上)

「プーチンの親友」といわれるティラーソンさんですが、さすがにロシアの肩をもつことはできなかったのでしょう。「親プーチン」として知られるトランプさんも、「ロシアがやったのだろう」と語っています。

トランプ大統領:英国の元スパイ襲撃事件、ロシアが背後にいる公算大

ブルームバーグ 3/13(火)23:17配信

 

トランプ米大統領はロシア人元スパイが英国で襲撃された事件について、ロシア政府が背後にいる公算が大きいとの見方を示した。事件はプーチン政権と西側諸国との関係をいっそう緊張させる可能性がある。トランプ氏は13日朝にホワイトハウスから移動する際、これまでに明らかになった証拠に基づくと事件の責任は「ロシアにあるように思われる」と発言した。 

フランスは?

メイ首相の報道官によると、首相は12日にエマニュエル・マクロン仏大統領と会談し、「ロシアの広範囲にわたる攻撃的な態度について協議し、引き続き同盟国が一丸となりこれを追及していくこのが重要との見解で一致した」という。
(BBC 3月13日)

反ロシア、「英仏同盟」ですね。

イギリス、対ロシア制裁を発動

そして、メイ首相は、対ロシア制裁を発表しました。

英国、ロシア外交官23人を追放へ 元スパイ襲撃で

3/15(木)5:16配信

 

【AFP=時事】英国で発生したロシア人の元二重スパイに対する毒殺未遂事件に関し、テリーザ・メイ(Theresa May)英首相は14日、英政府はロシア政府に事件の「責任がある」と判断したと述べ、同国外交官23人を国外退去処分とすると表明した。また、サッカー・ワールドカップ(W杯)ロシア大会への王族や閣僚の出席を含め、高官級でのロシア側との接触を停止する意向も示した。

ロシア外交官23人を国外退去に。政府高官のロシア側との接触停止。ロシアは反発し、「対抗措置を取る!」と宣言しています。おそらく、ロシアからイギリス人外交官が追放されるのでしょう。ちなみに、アメリカも翌日、「別件」で対ロ制裁を発動したことに触れておく必要があるでしょう。

<米国>大統領選直前の発動、ロシアけん制か 制裁措置発表

毎日新聞 3/16(金)10:24配信

 

【ワシントン高本耕太】米財務省は15日、2016年米大統領選介入に関与したとして、ロシアの24団体・個人を対象にした制裁措置を発表した。ロシア大統領選(18日)直前に発動することで、ロシアを強くけん制する狙いもあるとみられる。トランプ政権の大統領選介入疑惑に絡んだ制裁措置を発動するのは初めて。

そして、なんとイギリスアメリカフランスドイツがロシアを非難する共同声明」を出しました。

英米仏独がロシア非難 元スパイ襲撃で異例の共同声明

3/16(金)4:20配信

 

【AFP=時事】英国、米国、フランス、ドイツの4か国首脳は15日、英国で発生したロシア人元二重スパイ毒殺未遂事件を受けて異例の共同声明を出し、ロシア政府を名指しで非難した。

ホント、異例ですね。

ちなみにこの件、ロシア国内ではどう受け取られているのでしょうか?「プーチンが指示してやらせたと信じている人はほとんどいません。なぜ? ロシアでは3月18日に大統領選挙があった。大統領選前に、「裏切り者を消せ!」と指示して、「わざわざ支持率を下げることをするのか?」というのです。ロシア人の大半は、「(イギリスの諜報Mi6あたりがやってプーチンに罪をなすりつけた」と信じているようです。どうなんでしょう??

ま、いずれにしてもわかるのは、イギリスとロシアの関係は、「メチャクチャ悪化している」ということ。そればかりでなく、イギリスアメリカドイツフランスEUNATOとロシアの関係がメチャクチャ悪化している。

何が起こっているのか?

ここ数年の流れを見ると、もっとわかりやすくなります。2011年、シリアで内戦が勃発しました。アサドは「反欧米」なので、欧米は、「反アサド派」を支持した。アサドは「反欧米」で「親ロシア」なので、ロシアはアサドを支援している。この内戦は、欧米 対 ロシアの代理戦争」と化したのです。そして、アサドは、いまだに政権にいる。つまり、この代理戦争で、プーチンは欧米に勝っている

2014年2月、ロシアの西の隣国ウクライナで革命が起こった。そして、親ロシアのヤヌコビッチ政権が倒れ、親欧米新政権が誕生した。プーチンは激怒し翌月クリミアを併合しました。続いて、ウクライナ内戦が勃発。欧米は、ウクライナ新政権を支援。ロシアは、ウクライナ東部「親ロシア派」を支援しました。つまり、ここでも欧米 対 ロシアの代理戦争」が起こった。

で、現状は? クリミアは、実質ロシア領になった。ウクライナ東部のルガンスク、ドネツクは、事実上の独立状態にある。つまり、ここでも、ロシアが勝っている。ちなみに、プーチンは、北朝鮮問題で常に「対話派」でした。日米韓は、「圧力派」だった。しかし、韓国が寝返って対話派になり、アメリカも続いて対話派になった。ここでも、プーチンが勝っています

ただ、一つ言えることは、シリア、ウクライナ、北朝鮮におけるプーチンの勝利は、どれも「戦術レベル」である。欧米は、「大戦略レベル」で対抗しています。何でしょうか? 柱は二つ。

それで、プーチン・ロシアは勝利を重ねるほど苦しくなっていく。日本もかつて、こんな感じでやられたのですね。

欧米 対 ロシアの戦い

どうなっていくか、注目していましょう。

 

北野幸伯この著者の記事一覧

日本のエリートがこっそり読んでいる秘伝のメルマガ。驚愕の予測的中率に、問合わせが殺到中。わけのわからない世界情勢を、世界一わかりやすく解説しています。まぐまぐ殿堂入り!まぐまぐ大賞2015年・総合大賞一位の実力!

無料メルマガ好評配信中

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 ロシア政治経済ジャーナル 』

【著者】 北野幸伯 【発行周期】 不定期

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け