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首相夫妻へ忖度はあったか?肝心な事が抜けた財務省の森友報告書

先日6月4日、財務省が発表した、森友学園に関する決裁文書改ざんの「調査報告書」。しかし、その内容はとても真相解明に取り組んだと言えるとは思えないシロモノで、肝心な部分がごっそり抜け落ちたものでした。元全国紙社会部記者の新 恭(あらた・きょう)さんは自身のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』で、交渉記録を「破棄した」などと隠し続けた理由に、安倍昭恵夫人の名前が多く記載されていたからだと指摘し、改ざんを指示した「本当の犯人」を示唆しています。

官邸隠しの財務省調査報告

官邸から指示はなかったのか。首相夫妻への忖度はあったのか。肝心なところが抜け落ちている。

財務省によって6月4日発表された「森友学園案件に係る決裁文書の改ざん等に関する調査報告書」。真相解明に本気で取り組んだといえるシロモノではない。

読んで釈然としないのはなぜか。真面目なエリート官僚だった佐川宣寿氏らがどういうわけで、国会、国民にウソをつき、そのために歴史的汚点ともいえる決裁文書改ざん不当な記録廃棄をしなければならなかったのかが、いまだにはっきりしないからであろう。

この報告書からは、知性を疑うほど短絡的に情報の隠ぺいを進める官僚たちの姿が浮かび上がってくる。気になる部分を取り出してみよう。

平成29年2月17日の衆議院予算委員会における内閣総理大臣の答弁以降、本省理財局の総務課長から国有財産審理室長および近畿財務局の管財部長に対し、総理夫人の名前が入った書類の存否について確認がなされた。

安倍首相の答弁とは、言うまでもない。「私や妻がこの認可あるいは国有地払い下げにかかわっていたのであれば、総理大臣をやめるということであります」という今や誰もが知るセリフである。

それ以降総理夫人の名前が記された文書が残っていないかどうか、本省理財局が気にし始めたというのだ。ここまでは納得のいく話である。

当時の理財局長、佐川氏が森友案件を知ったのは就任から約半年後の昨年2月初旬だった。

そのころ、森友学園への国有地売却について豊中市議の情報公開請求や報道機関からの問合せが相次いでいた。報道される可能性を懸念した国有財産審理室長が佐川理財局長に経緯を説明したのだ。

その後、実際にスクープ報道があり、安倍首相の答弁へと続いた。

佐川局長が、総理夫人にかかわる森友文書のないよう、祈るような気持ちで総務課長に確認を命じたであろうことは容易に想像できる。

首相答弁から間もない2月21日。野党議員が国有財産審理室長や近畿財務局の担当者に面会を求めた。そのおり、昭恵夫人の関与を厳しく追及され、すでに決裁文書から見つかっていた下記の文面が国有財産審理室長らに重くのしかかったと思われる。

平成26年4月28日 (森友学園との)打ち合わせの際、「本年4月25日、安倍昭恵総理夫人を現地に案内し、夫人からは『いい土地ですから前に進めてください。』とのお言葉をいただいた。」との発言あり。

まさに、首相夫人の関与があったと思われても仕方のない内容だ。国有財産審理室長は総務課長に相談したうえで佐川理財局長に報告した。佐川氏の驚愕が次の記述から伝わってくる。

理財局長はそうした記載のある文書を外に出すべきではなく、最低限の記載とすべきであると反応した。具体的な指示はなかったものの、総務課長と国有財産審理室長は決裁文書の公表を求められる場合に備えて記載を直す必要があると認識した。

記載を直す」。すなわち決裁文書の改変は国民への背信である。コトの重大さを最も知っている財務官僚が、理財局長から明確な指示を受けたわけでもないのに、違反行為に走るとは、とうてい考えられない。理財局長の腹をさぐって安易な解釈をするのではなく、入念な打ち合わせをするのが常識的だ。

またそれは、理財局だけの判断でできることでもない。首相夫人の関与をうかがわせる内容が決裁文書に残っている以上、官邸に相談するのが自然だ。首相夫人のことは、事実上、今井尚哉総理秘書官の担当範囲だ。夫人付きの女性職員は今井氏の指示を仰いで動いている。

佐川理財局長は昭恵夫人について記載のある決裁文書の存在を知った翌日の2月22日、太田充大臣官房総括審議官(現理財局長)や中村総務課長とともに菅官房長官の執務室を訪ねた

調査報告書には、菅官房長官に対する説明内容が以下のように記されている。

平成29年2月22日には、本省理財局と国土交通省航空局から内閣官房長官への説明が行われた。説明者側からは、森友学園案件の経緯のほか、取引価格の算定は適正に行われていることや、総理夫人付きや政治家関係者からの照会に対して回答をしたことはあるが特段問題となるものではないこと等について説明した。

これについて、今年6月5日の参議院財政金融委員会で、辰巳孝太郎議員が次のように財務省の見解をただした。

本当に説明したのはこれだけか。昭恵氏の名前が記載された決裁文書の存在が報告されたのではないか。その報告の後に改ざんが行われている。22日の時点で官邸は昭恵氏の名の記載された文書の存在を知っていたのではないか

財務省は否定したが、ここは重要なポイントである。首相執務室のある官邸5階は特殊な構造だ。首相執務室、官房長官室、官房副長官室は外から見えない内廊下でつながっている。つまり、外からは官房長官室に入ったように見えても、内側で誰と会っているかはわからない。官房長官への説明のさい、今井秘書官が同席していたことは十分、考えられる。

この会合で、決裁文書に昭恵夫人に関する記述があることを官邸に報告し、どう対処すべきかを話し合ったとすれば、その後に起こった数々の隠ぺい工作についても、話の筋道が通ってくる

森友学園側とのいわゆる「交渉記録」を廃棄したと言い張って隠し続けたのも、随所に昭恵夫人の名が登場するからに違いない。

今回の財務省報告には、次のように「廃棄」の経緯が書かれている。

▽平成29年2月24日の衆議院予算委員会で、本省理財局長は「昨年6月の売買契約にいたるまでの交渉記録につき確認したところ、交渉記録はありませんでした」「平成28年6月の売買契約締結をもちまして事案が終了しており、記録が残っておりません」と答弁した。

▽理財局の総務課長と国有財産審理室長は応接録が実際には残っていることを認識していた。

▽理財局長から総務課長に対して、「財務省行政文書管理規則」どおりに対応している旨を答弁したことを踏まえ、文書管理の徹底について念押しがあり、総務課長は、残っている応接録を廃棄するよう指示されたと受け止めた。紙媒体のほか電子ファイルの廃棄も進められたが、個々の職員の判断で、手控えとして残された応接録もあった。

財務省の言い分では、交渉記録の保管期間は1年未満で、事案終了または年度末には廃棄されることになっている。佐川理財局長がこの「財務省行政文書管理規則」を徹底するよう念押ししたことで、総務課長は廃棄を指示されたと受け止めたというのである。

報告書には、「一連の問題行為の目的等」として次のように書かれている。

応接録の廃棄や決裁文書の改ざんは、国会審議において森友学園案件が大きく取り上げられる中で、更なる質問につながりうる材料を極力少なくすることが主たる目的だったと認められる。…連日の国会審議への対応のほか、説明要求や資料要求への対応に職員が疲弊しており、それ以上、議論の対象を増やしたくなかった

たしかに、国会が紛糾したさいの担当部局の忙しさは殺人的かもしれない。多忙とストレスの地獄から逃れたい気持ちはわかる。だが、そのために、犯罪的行為に及ぶとはとうてい考えられない。

問題は、官邸の顔色によって右往左往するほど弱体化した財務省の惨状である。残念ながら、それを生み出したのは悪しき官邸主導といわざるを得ない。

予算編成力をフル活用し、自民党族議員と組んで、政権さえ動かしたかつての財務省の姿に戻れということではない。国民の側に立つ政治家が主導し、官僚の能力を生かして政治を進めるのが理想である。その意味での政治主導はいい。

だが、安倍政権のように、私的に権力を用い、極端な思想と組み、財界の利益を偏重する政治主導は、国民をないがしろにする独裁制に近い。財務省は内閣人事局を窓口とする官邸の官僚統制におさえられてしまっている。

森友問題における財務省の愚行は、処分された佐川氏ら20人の問題に矮小化されるべきものではない

財務省を再生しようと本気で考えるのなら、省を国民の公僕から首相の下僕のようにしてしまった官邸の改革を先に進めるべきである。

 

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