更に言えば、この「観光立国」というのは、アベノミクス全体のストーリーが「マズい方向に」行っているということも示しています。
アベノミクスについては、まず「通貨政策による円安誘導」で株高が現出しました。それは良いのです。2000年代までのように「円安になると輸出産業が潤う」ということよりも、「円安だと海外で稼いだ利益や、海外市場で形成された株価が膨張して見える」ということの方が大きかったわけですが、それも別に悪いことではありません。
ですが、当初の計画では、「そのように国内で株高を実現しておいて」その間に、「第三の矢」である構造改革を行って、国内の生産性を高め、産業構造を先進国型に戻していくということが(言葉は多少違いますが)想定されていたのだと思います。
ですが、この「第三の矢」つまり構造改革は、ほとんど手がついていません。その結果として、産業界では「先端部分をドンドン外に出す」ということが加速しています。トヨタがAIの研究をシリコンバレーでやっているとか、日産のデザイン部門はカリフォルニアというように、市場に合わせた生産機能ではなく、基幹の最先端部分をドンドン空洞化させているのです。
市場ということでも、収縮する国内は見捨てて海外比率が高まっています。その結果として、収益は海外で発生し、それを連結で(合算して)決算すると「史上空前の利益」になるが、その利益は国内還流しないという構造でグルグル回っているのげ日本経済の現状です。
貧困の問題も、地方衰退の問題も、非正規の問題も、全てはそこに原因があります。正しい構造改革を行って、先端産業を呼び返さなくては、日本経済は先進国経済にはならないのです。
それでも、ホワイトカラー労働は残っています。それこそ「本社機能」だけは日本に残している会社は数多くあります。ですが、そこには「生産性の低い日本語による事務仕事」が残っているだけで、こんなことをやっていては、やがて、その「日本語で事務をする本社」というのは淘汰されて行ってしまうでしょう。
その結果、日本国内のGDPを支える主要産業としては、観光ぐらいしか残らないということになります。それは、21世紀の世界で最も重要な産業である、金融とソフトウェアが壊滅的であるということと見事に裏返しになっています。
その意味で、「アベノミクス+観光立国」というのは、亡国の政策としか言いようがないのですが、それでも多くの野党が「これ以上の経済成長はいらない」などという引退世代の身勝手な寝言につき合っている中では、安倍政権以外のチョイスはないという現実もあります。これは悲劇を通り越して、喜劇としか言いようがありません。