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米国の犠牲に。ホルムズ海峡封鎖で第2の経済敗戦を迎える日本

イラン核合意を破棄し各国にイラン産原油の輸入停止を求める米国に対し、各国がそれに応じるならばホルムズ海峡を封鎖するとの警告を発したイラン革命防衛隊。そのような事態に陥れば中東戦争は避けられない、とするのは、メルマガ『国際戦略コラム有料版』の著者・津田慶治さん。津田さんは海峡封鎖が日本にもたらす経済的打撃を記すとともに、中東戦争そのものにも米国の要請で参加することになると断言。日本は第2の経済敗戦を迎えるとの悲劇的な見立てを示しています。

米中通商協議の行方

米中通商協議が8月下旬から始まる。イランがホルムズ海峡を封鎖したら、米国は中東での戦争に巻き込まれる。この中東での戦争との関係で検討しよう。

米中通商協議

中国の王受文商務次官が8月22日から2日間訪米して協議することになった。王岐山副主席と旧知のロス商務長官などとの裏交渉ができて米トランプ大統領の許可を取り訪米した可能性がある。とうとう、王岐山の裏工作が実を結んだ格好である。

米国の対中貿易戦争で、2つの大きなマイナスがあり、1つにトランプ支持層の大豆農家、豚畜産業者、中国への輸出が大きい企業などからの不満が出ていた。大豆は市況価格が大幅に下落しているし、中国にしか売れない豚枝肉(頭、尻尾など)の価格が付かなくなっている。

その上に、2,000億ドルへの輸入関税UPをすると、LNGや米企業の商品が中国で販売ができなくなり、米企業は大きな損失になることが確実だ。中間選挙の勝利のために、これを回避する必要になり、しかしトランプ大統領が、中国からの譲歩なしに、2,000億ドルの撤回はできない。8月23日の160億ドル分の撤回もできない。8月22日からというのは、この160億ドル分も当分棚上げと見る。

中国も上海株式市場が2,668まで暴落になり、このままにすると金融不安が起こりかねない。その上に、米国は国防権限法で中国と戦争前夜であると脅した。このような状態で、北戴河会議で習近平の戦略アドバイザーで対米強硬派の王滬寧常務委員を失脚させ、対米政策の柔軟化を行うことになったようだ。その方向に向けたのが親米の王岐山だ。

このため、中国は前回6月の輸入促進策に、大幅な経済自由化で海外企業の進出を許すことなどの制度改革を付けた譲歩案を持っていくようである。しかし、一帯一路などの中国の基本戦略は変えない。

そして、11月に首脳会談を行うとしたのは、協議を継続する間は貿易戦争を棚上げするということになる。11月は中間選挙の月であり、そこまでは保留で貿易戦争の休止のようだ。

中東戦争か?

大きなマイナスの2つには、中国の反発に備える軍備配備で中東戦争への備えができないことだ。イランへの経済制裁で、イランは米国が無条件での交渉を提案しても、交渉を拒否して、ホルムズ海峡を封鎖すると宣言し、もし本当に封鎖なら中東戦争が始まる。米国も2正面戦争はできないので、当面は中国との関係は平穏にするしかない

また、福音派のブランソン牧師を解放しないトルコとも米国は関係を悪化させている。こちらの方がトランプ大統領としては、有力な支持層であるキリスト教福音派の要請で優先レベルが高い。もし、トルコが牧師を解放しないなら、軍事的な対応も辞さないとも見える。

その上に、トルコは、クルバンバイラム(犠牲祭)で市場は8月18日からお休みになり8月27日しか再開しない。その間に追加制裁や米国の軍事対応が起こると、再開時のトルコリラは、どこまで下がっているのか不安だ。

そして、どうも米国は、景気後退になったら、戦争経済に移行する準備をしている。中東への軍事介入を正当化する次のセプレンバー・イレブンを起こす匂いもする。嫌な感じになってきた。株価が上昇する戦争経済でも中国とでは核戦争になり、米国本土も危なくなるが、中東諸国との戦争では、米国本土には影響がない

というように、中国から中東へトランプ大統領の目が移った。猫の目のような思い付き外交で、どんどん視点が変化する。それに世界もこのコラムも振り回されている。

米国の一人勝ち

米国経済は引き続き絶好調である。失業率は過去50年間で最低レベルにある。移民を排斥したことで失業者が減っている。トランプ大統領の移民排斥などのナショナリズム政策は、米一般国民によっては大成功である。

この成功で、FRBは利上げを行い、10年米国債の資産売却を行い通貨量を下げているので、ドルの巻き戻しが行っている。FRBは、景気後退時の糊代を確保するために資産縮小もしている。

このため、ドル金利上昇で新興国の景気は悪くなっている。そして、コモディティや銅価格は大きく下落して、今銅は5,200まで下がっている。銅価格は世界景気の先行指標であり、世界的な今後の景気は下落して行くようである。

次のFOMCは9月28日であるが、新興国の経済状況を見ると、果たして利上げができるのであろうかと疑問に持つ。8月23日のカンザスシティ連銀シンポジウム・ジャクソンホールでパウエルFRB議長が、何を話すかが焦点になっている。

どうも、トランプ大統領はトルコへの制裁で経済危機を起こして、9月のFRBの利上げを阻止し、11月まではリセッションを起こさせないという説もある。このためNYのダウ平均株価は最高値付近まで戻している。

欧州の景気

そして、中国の景気が悪化したことで、中国経済との結びつきが高いドイツ経済も下がり欧州経済も軟調でユーロも安くなってきている。このため、ユーロ安ドル高円高になっている。

欧州の銀行は、欧州危機の損失を先送りにしているので景気が悪化すると、収益が悪化してくる。また、トランプ大統領がドイツに強烈な要求をしているのも、中国との関係が深いからである。

新興国と欧州の景気が悪い。相対的に日本の景気は良いことになっている。そして、米国は絶好調だ。

ホルムズ海峡封鎖で日本経済は?

もし、イランがホルムズ海峡を封鎖すると、原油価格が1バーレル100ドル以上になる。日本の貿易収支は赤字になり、中東戦争時には外国人旅行者も少なくなりインバウンドの収入もなく、経常収支も大幅な赤字になる。

その上に、日本も米国の要請で中東戦争に参加することになり、戦費調達のために国債発行量も増えることになる。そのすべてを日銀が買うことで、財政ファイナンスとなり円の信頼性を棄損して、超円安となる。

超円安で原油価格が1リットル300円以上に猛烈に上がり、諸物価もそれに釣られて上がり、とんでもないコストアップインフレになる。ここまでなら、物価インフレは行っても3倍程度で済む。

しかし、日銀当座預金が市中に出ると大変なことになる。だが、インフレになると、銀行から1%金利で借りた方が得になる。このため、企業や資産家は、大挙して銀行から資金を借りることになる。

市中銀行の資金が日銀当座預金にあれば、市中円通貨量はあまり上がらないが、それがどんどん出ていくと、4倍から10倍以上のハイインフレになる。

これを阻止するためには、日銀当座預金を封鎖して、当座預金をマイナスやゼロ金利から5%程度に金利を上げて、かつ預金準備率を大幅に上げて、市中の円通貨量のコントロールが必要になる。これを迅速に行わないと、5倍以上のハイインフレや10倍以上のハイパーインフレになってしまう。日銀が金利を上げると、超円安も止まる。

同時に、物価引き下げのために、戦時中の統制経済なども考えるか、卸売市場を介さない流通ルートを確立して、値段を下げることも考える必要になる。

そして、国民は確実に貧困化して、今までに蓄積した個人の金融資産は10分の1になるが、累積国債の借金は10分の1に棒引きになっている。国民はこの事態を招いた自民党に批判的になるはずだ。

どちらにして、国内での食料、エネルギー自給を重視して政府は、この事態を想定して準備しておくことだ。上手くいけば、3倍程度のインフレで済む可能性もある。しかし、対処を失敗すると10倍以上のハイパーインフレになってしまう。

ということで、もし、中東戦争が起きてホルムズ海峡が封鎖されると、日銀の5年以上にわたる黒田総裁の大胆な金融量的緩和政策で、日本は第2の経済敗戦を迎えるが、敗戦処理が重要になっているようだ。

さあ、どうなりますか?

image by: shutterstock

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