3つ目としては、「そうかもしれないが、セリーナ選手は試合内容で押されていたので、感情的になったのでは?」という見方もあるかもしれませんが、それは「偉大なスーパースターに対しての敬意」ということで「言わないこと」になっています。この点については、オーストラリアの新聞「ヘラルド・サン」がセリーナに関する人種差別的な漫画で、事件を揶揄していますが、アメリカでは激しい怒りを買っています。
この辺の感覚ですが、アメリカでは人種問題があるので、セリーナに気を遣っているというよりも、やはり彼女の「偉大さ」への敬意という理解が正確でしょう。もう一つ加えるのであれば、この不世出のスーパースターは、ある種の強いエモーションを踏み台にして戦って、道を切り開いてきたわけで、今回の大会も「産休が公欠にならず、世界ランキングを圏外まで落とされた」ことへの怒りを推進力に勝ち進んできたような感じもあるわけです。
ファンは、そのことを知っており、またテニスという競技の格式を守るために、あえて、そうした「身もふたもない」言い方はしていないということだと思います。
つまり、アメリカの世論やテニス界として、セリーナ選手に一定の理解を示す部分はあるわけですが、では、それで大坂選手の勝利にケチがつくかというと、その点は、ゼロと言っていいでしょう。
4番目ですが、この大騒動に揺さぶられる中での大坂選手は、ほぼ完璧な対応で一貫しており、「一夜にしてシンデレラ」となる中で、猛烈な勢いでファンを増やしているということが言えると思います。
日本では間違って伝わっているようですが、表彰台での「アイム・ソーリー」というのは「自分が悪い」というのではなく「こんな事態になって自分も残念だ」というニュアンスが強いのですが、それでも、勝利を誇るだけのシンプルなコメントとは違って、素晴らしく繊細で丁寧な気遣いをしていることは、アメリカの報道でも十分に伝わっていました。
驚いたのは、10日(月)朝のNBCに生出演した際のことで、大坂選手も、ジョコビッチ選手も呼ばれていたのですが、大坂選手のインタビューが先だったのです。この生インタビューは、「私、トークショーは初めてで…」となどという「なおみ節」も相変わらずではありましたが、非常に落ち着いた素晴らしいものでした。
特に、歴代大統領との単独インタビューなどを続けてきた、百戦錬磨のキャスターであるサベナ・ガスリーから「セリーナの抗議に関しては、当事者として意見を求められると思うがどうか?」と突っ込まれた際には、「確かに自分の身に起きたことでもあるので、しっかり考えたいです。そのために、細かなことまで何が起きたのか、よく理解して行きたい」と完璧な対応を見せていました。