MAG2 NEWS MENU

水戸黄門と下町ロケットがウケるほど濃く現れる日本社会の闇

なぜいじめは解決されにくいのか。そんな疑問に日本人社会や学校組織という観点で切り込んだ今回の無料メルマガ『いじめから子どもを守ろう!ネットワーク』。スクールカウンセラーとして活躍してきた経験を持つ村崎京子さんが語る、学校内部のあまりにもストレスフルな状況とそれを打開するための4つの問題点を紹介しています。

学校組織のマインドセットを変えよう

「いじめは解決されにくい」ということを、日本人社会や学校組織という観点から考えてみたいと思います。

かつてテレビの『水戸黄門』は国民的時代劇と言われ、日本人の間で長く親しまれてきました。農民や町人たちに対して、旅のご隠居様一行という第三者的立場でお話をじっくり聞き、その悲しみや苦しみに寄り添い、共感する。その後、黄門様チームが密かにリサーチし真実を明らかにします。そして、最後には、正義の鉄槌がふりおろされます。悪代官や悪徳商人たちを、天下の副将軍水戸黄門さまの権威のもとでこらしめ、時には改心させるのです。毎週この勧善懲悪のテレビを見て、日常生活のストレスを解消していた人は多かったことでしょう。

最近の人気ドラマ『下町ロケット』でも、一部似ているように思います。もちろん主題はモノづくりへの情熱、夢への挑戦なのですが、視聴率と満足度が高いことから察するに、大企業と下請け、上司と部下、競合他社や銀行との兼ね合い、上から受けるストレスフルな人間関係模様に「ある、ある、わかる」と共感すると共に、あざやかな逆転劇に胸のつかえがおりるような感じを味わっているのだと思います。

日本人社会では、上司と部下との間で軋轢が生じた場合、部下が救済されることは少ないのです。うつ病で倒れるのは大方が部下の方です。最近でこそパワハラ、セクハラという言葉が周知されるようになりましたが、それまでは、民間企業では“相性”という美名にくるまれ、配置転換されるまで、忍耐という美徳の名の元に放置されるのが実情でした。大手の上場企業以外では、いったん「長」という立場を得た上の人たちに対して、浄化作用が働くことは考えられませんでしたし、部下を大切な人的資源として考えて活かしていこうとする人材マネジメント機能はほとんどみられませんでした。日本的ピラミッド型組織がまねく弊害です(最近はIT産業等でチーム型提案型組織も生まれている)。

では、学校という、古くからあるピラミッド組織ではどうでしょうか。私は学校現場に足場を置いて、さまざまな人間関係を見てきました。誤解を恐れずに言えば、教育、教職員という職域は、感情のふり幅を伴うストレス空間なのです。

もともとは不登校やひきこもり、いじめの相談など心のケアのために採用されたのがスクールカウンセラーでした。しかし、スクールカウンセラーの相手は生徒だけではなく教師からの相談も後をたちません。悩む教員たちが、わらをもすがる思いで「ここだけの秘密」と上司との軋轢や教師間の人間関係を相談してくるのです。実は相談している教員も「解決する」とは思っていません。ただ、愚痴や不満を聞いてもらいたいだけなのです。その都度「心が救われた」と感謝を述べて、また教育現場に戻っていかれます。

このような悩み相談に対してカウンセラーは「リフレーミング」を提案します。つまり、物事の見方の枠組みを少し変えてみましょう、と提言するのです。例えば、「たしかにパワハラ校長ですね。他の教員などがいる人前で繰り返し、繰り返し、怒鳴る、叱責する、真っ赤な顔で怒る、その時々で言うことが異なる。その校長先生は、きっと体育会系で熱くて、仕事に真面目で少しでも厳格な仕事をしたいからではないかしら。相手の立場にたって見方を変えるといいかも」と。

しかし、カウンセラーさん方の努力もむなしく、統計の数字が物語っているように「うつ病」など精神疾患で休職する教員は後をたちません。やはり、最悪のことが起きない限り、「長」がつく人の行動変容を促すことは困難です。パワハラ裁判に訴えるなどの事例も生じています。先のパワハラ校長の事例は、人事権がある教育委員会の部署では解決できず、地方自治体への申請を経由して、横からのアプローチの結果、改善されました。パワハラ校長の多くは、手腕のある校長と教委からは認識されていることが多い為です。このような校長の指揮下では、実際のところ、教員のトラブルも、いじめ問題も解決されません。部下からの信望が無いうえ、調整能力なき校長のもとでは何も解決されないのです。先生たちは叱られないよう萎縮してミスが無いよう、何もしないだけでした。

ここで一般論として、まとめてみましょう。第一の問題は、日本のカウンセラーは、欧米と異なり、主に医療系、病院等のニーズで求められ育ってきました。ですから、弱った人へのケアはとても得意ですが、攻撃的な人への対処のスキルはつたなく、ほとんど効果を有していません。しかも非常勤という不安定な立場が多く、学校組織内では全く権限がありません。不安や苦痛には寄りそってくれるけれども、「いじめの解決をしてくれる人ではない」のです。このことを、相談する側の保護者の皆さんには知っておいていただきたいと思います。

心のケアで「リフレーミング」を教えるのは、まだ傷の浅い場合や予防段階こそ効果があります。既に起こった深刻ないじめ問題では、「泣き寝入りしろ」と被害者に言っているのと変わらないことになります。それは、小中学生の子どもには、とても耐えられないことです。

第二の問題は、校長への、管理職教育が不足していることです。組織経営理論、リーダシップ論からアンガーマネジメントなどのスキル教育が必要なのですが、現存のシステムでは全く足りていません。尊い年月を経て「経験知」を経た、人格も優れた校長先生がいる一方で、パワハラ校長も野放しにされています。これは日本社会に、組織マネジメントいう合理的精神が欠けているからです。管理職への再教育プログラムが不可欠であろうと思います。

第三の問題は、水戸黄門様は、日常生活の中でこそ必要であって、村人たちや町人たちが自殺してしまった後では手遅れだということです。水戸黄門様チームはどうあるべきなのか再考する必要があります。教育界における水戸黄門チーム、つまりいじめ対策委員会などは、将軍様の直属として、権威と実行力に担保された組織にするべきだと思います。

第四の問題は、マスコミの従来前としたワンパターンの報道です。マスコミでは第三者委員会の発表をしばしば取り上げます。真実を知りたいという被害者遺族の心情に寄り添う姿はとても大切ですが、いじめに苦しむ子どもを死なせないためにはどうしたら良いか、という根源的な問題に関しても、切り込んでほしいと思います。

改めて、大人の時間と子どもの時間が、大きく異なることを理解していただきたいと思います。公害裁判や冤罪裁判のように20年も30年も待つことなどできません。いま苦しんでいる子どもがいます。すぐに判断し行動し、解決すること、これを周囲の大人たちが心と力を合わせて行うことです。

私の周囲には、パワハラ校長に反して、いじめを解決に導き、子どもを助けたのち、配置転換を余儀なくされた教諭、そして勇気ある行動の後、次年度、契約更新されなかった親友のスクールカウンセラーがいます。たしかに日本型組織では、許されないことでしょう。しかし、彼らは、自分の立場よりも、子どもの人権や生命を大切に思ったからこそ行動したのです。そこに自己犠牲の精神があります。人を人として存在せしめている尊い精神です。

組織論として、いじめを解決した人を評価する学校組織にチェンジさせていくこと、少なくとも学校組織のマインドセットを変えていくことを心から願ってやみません。子供達は教師の背中を見て育っていくのです。

前:名古屋市教育委員会 子ども応援委員 スクールソーシャルワーカー
現:福祉系大学講師 堀田利恵(ペンネーム 村崎京子)

image by: Shutterstock,com

いじめから子供を守ろう!ネットワークこの著者の記事一覧

「いじめ」と学校の「いじめ隠ぺい」から、子供たちを救うための、父母によるネットワークです。いじめの実態やいじめ発見法、いじめ撃退法、学校との交渉法、いじめ相談などを掲載します。

無料メルマガ好評配信中

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 いじめから子供を守ろう!ネットワーク 』

【著者】 いじめから子供を守ろう!ネットワーク 【発行周期】 週刊

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け