裁判傍聴芸人として名高い阿曽山大噴火による連載『裁判妙ちきりん』第27回!
法廷でしか味わう事のできない裁判のリアルをお届けします!
罪名 窃盗
被告人 犯行時無職の男(29)
無職の男(38)
建築作業員の男(38)
会社役員の男(38)
内装工の男(30)
事件は2017年11月13日。
東京都台東区の路上で、被告人5人が共謀し、被害男性を呼び止めて現金1億8,995万円が入ったキャリーバッグを奪ったという内容。
事件当時、高額強奪事件として大々的にニュースになったんです。と言うのも、被害男性は40キロの金を売却した直後に襲われたというタイミング、白昼堂々の犯行、犯人は逃走中ということでトピックが多い事件だったんですよね。
犯行から8ヶ月後に5人が逮捕され、2019年に初公判ということで、忘れてしまってる人も多いかもしれませんね。
この連載初の複数の被告人なので、検察官の冒頭陳述のなかでは被告人はABCDEで記載します。
法廷は被告人5人と刑務官9人でギュウギュウ詰め。ガラガラの傍聴席に座ってるのが優雅な気分です。
検察官の冒頭陳述によると、A被告人はイマイと名乗る男から、「密輸した金塊をお金に換えてるヤツがいるので、その金を取ってきて欲しい」と依頼されたという。報酬は500万円で、3人でやってくれと。イマイの方からは、絶対に被害届は出ないと説明され、連絡用の携帯電話を渡されたという。
A被告人は知人であるB被告人とC被告人に話を持ちかけ、C被告人だけ渋々ではあったものの、3人で犯行を行うと決意。
イマイからの指示通り、2017年1月26日、今回の犯行現場に3人で向かったという。
しかし、金の買い取りをする会社の前に不自然に3人の男が立っているということで、警察官に職務質問を受け、犯行断念。
3人は話し合いの結果、あと2人いないと犯行がうまく遂行できないと話がまとまったという。
そこでA被告人がイマイの承諾を得て、A被告人の友達の先輩であるE被告人に声をかけ、E被告人が知り合いのD被告人に声をかけ、今回の5人が集まったという。
イマイから指示があった日時に5人で犯行現場に行くも、2度も職務質問を受け、犯行は度々失敗。
約半年間、イマイから連絡はなかったが、10月に入ってから再び指示があったという。
しかし、ターゲットが現れなかったし、ターゲットが繁華街のほうへ行くなどして、失敗続き。
そして、2017年11月13日。現場近くに車を停め、車内でA・C・D・E被告人が待機。
見張り役のB被告人が、指示されていた『キャリーバッグを持ってる中国人男性』を発見し、A被告人に連絡。
40キロの金を換金して店を出てきた被害男性が人気のないところを歩いているのを確認して、C・D・E被告人が「パスポート」と警察を装って声をかける。
被害男性がリュックからパスポートを出してC被告人に渡すと、C被告人は中身を確認。
その隙にE被告人がキャリーバッグを奪い、A被告人が待つ車まで走って運搬したという。C・D被告人は走ってその場から逃走。
犯行時、5人はLINEで連絡を取り合って、高田馬場にあるC被告人のマンションに集合。
キャリーバッグを開け、1人500万円ずつ報酬を受け取り、皆バラバラにその部屋から立ち去ったという。
残った1億7500万円はA被告人が家に持ち帰り、イマイにすべて渡したとのこと。ちなみに、連絡用の携帯電話もこのときに返却したのでイマイとは連絡がつかないという。
イマイという黒幕がいて、連絡役であるA被告人が中心となって行われた事件ってことですね。
A被告人が一番年上なのにねぇ。こういうときは年齢とか関係ないんですかね。
被害男性は取調べに対し、
「金を換金する仕事があると聞いて、事件の3ヶ月前に中国から日本に来た。連絡を受けて金塊を受け取り、換金した後にそのお金を返却というのを何度かやった。預かった金塊は密輸した物だろうとは思っていた」
と供述しているので、なかなか被害側も怪しげな感じですね。
そして、中心人物であるA被告人への被告人質問です。まずは弁護人から。
弁護人
「あなたの役割は?」
A被告人
「連絡を受けて、車を手配する役です」
弁護人
「誰から連絡受けてたの?」
A被告人
「イマイって名乗ってました」
弁護人
「いつ、どこで知り合ったの?」
A被告人
「(犯行の)1年前、六本木のクラブで知り合いました」
弁護人
「何て誘われたの?」
A被告人
「密輸した金をお金に換えてるヤツがいて、そのタイミング知ってるから盗ってきてと」
弁護人
「分け前とかは?」
A被告人
「3人でやってくれと。それで1人500万円ずつと言われました」
弁護人
「捕まるとは思わなかった?」
A被告人
「不正に持ってきてるものだから、警察には言わないって」
弁護人
「でも犯罪でしょ。どう思った?」
A被告人
「お金欲しかったんでやろうと」
ヤル気まんまんですよ。
このイマイって人も、知り合って1ヶ月くらい経ってから計画を口にしたらしいんだけど、ここで警察に告げ口されちゃ困るわけだから、A被告人なら話に乗りそうだと見極めてたのかもしれませんね。
弁護人
「何度も現場付近に行ってたみたいだけど、何回くらいですか?」
A被告人
「10回とか……」
弁護人
「イマイからどれくらい前に連絡来るの?」
A被告人
「4日前~1週間前です」
弁護人
「今回は11月13日の何日前でした?」
A被告人
「4日前です。キャリーバッグを持った韓国か中国系の男が来るから、と」
弁護人
「被害男性は、店に対して換金の予約を3日前って言ってるけど、その前日?」
A被告人
「はい」
イマイは、密輸グループがまとまった金を換金する少し前から情報を握ってるようですね。
弁護人
「犯行後、C被告人のマンションに集合したと。集まって何をしました?」
A被告人
「各自に500万円渡しました」
弁護人
「残りのお金は?」
A被告人
「ボクが家に持ち帰って、イマイさんが来て渡しました」
弁護人
「どこで渡したの?」
A被告人
「家の隣の公園で渡しました」
1億7500万円を公園で渡すのか……。そんな大金持ったことないけど、やましいお金だし、部屋の中で渡しそうなもんだよなぁ。
この後、「被害男性と連絡ついたら500万円を返済したい」と謝罪の言葉を並べ質問終了。
こういう人って、連絡つくのかね……。
次は検察官からの質問。
検察官
「イマイは誰から情報を入手したと言ってたんですか?」
A被告人
「聞いてません」
検察官
「何故訊かないの?」
A被告人
「あまり深いことは……」
検察官
「車って毎回レンタカーですよね。そのお金は?」
A被告人
「最後にイマイから10万円貰いました」
レンタカー代は成功報酬だったって話なのかね。連絡してたのはA被告人だけだから謎が多い。
検察官
「5人の役割の分担は?」
A被告人
「話し合いで決めました」
検察官
「何故あなたが運転なの?」
A被告人
「運転できたので」
検察官
「他にいないの? 運転できる人」
A被告人
「あ、Bが免許持ってないですね」
路上に防犯カメラがたくさん設置されているご時世。車から降りず、何かあったら車で逃走可能なのは何か怪しいと疑っている感じです。
一番リスクが低い役を中心人物が担当してると。
検察官
「C被告人のマンションに集合して、お金は数えました?」
A被告人
「数えてません」
検察官
「イマイから一人500万円以上取っただろって言われたらどうするの?」
A被告人
「考えてなかったです」
検察官
「そうですかー。最初の取調べでは言ってなかったのに、法廷で急にイマイの話をするようになったのは何故ですか?」
A被告人
「子供がいるので正直に話して早く家族の元に戻りたいと思って」
事件の真相・黒幕について、正直に喋ろうと心変わりがあったようです。
検察官
「被害届は出ないって言われてたのに、結局逮捕起訴されて、今裁判受けてますよね。イマイに対して言いたいことないですか?」
A被告人
「んーーー、言う手段もないので……」
と、はぐらかすような返答。すると、
検察官
「そもそも、イマイって存在しますか?」
A被告人
「します」
ん? そういうことなのか。
消えた1億7,500万円って、A被告人が受け取ってるってこと?
イマイからの情報なんてなくて、A被告人が換金を終えた外国人に狙いを定めてテキトーに襲ったってことなのか?
だから、空振りの失敗が多いって話?
確かに、キャリーバッグ内のお金を数えずに皆に500万円ずつ渡してたり、レンタカー代を出してたり、リスクの低い運転手役をやってたり、黒幕っぽさはあるけど。そんな「ユージュアル・サスペクツ」のカイザー・ソゼみたいなことあるのかね。
この後、C被告人への質問。イマイとは会ったことない等々証言して、質問終了。
他の被告人と情状証人は後日行うということで、初公判はここで閉廷。
興味ある方はご自分で。イマイが存在するかどうかはさておき、5人だけでできる犯罪とも思えないし、なんとも不可思議な事件だ。
──もしこの裁判がフィクションだったとして。私は被告人の言葉に対して───
職務質問した警察官なら、「やっぱりアイツらだったのか」と思うだろうなぁ。
ま、1月30日に実際に行われた裁判なのだが。
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