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100円ショップの限界。なぜ業界2位セリアの成長は止まったのか?

ここ数年、女性を中心に多くの支持を集めている100円ショップ「セリア」。SNSなどを通じて新商品が出るたびに情報が拡散され、品切れの人気商品も多いと聞きます。しかし、そんなセリアの成長にも陰りが見え始めているようです。一体、この人気店で何が起きているのでしょうか。フリー・エディター&ライターでビジネス分野のジャーナリストとして活躍中の長浜淳之介さんが、現場に直接足を運んで取材を重ね、「100円均一縛り」で苦戦するセリアの厳しい現状と、100円ショップという業態の未来について詳しく分析しています。

プロフィール:長浜淳之介(ながはま・じゅんのすけ)
兵庫県出身。同志社大学法学部卒業。業界紙記者、ビジネス雑誌編集者を経て、角川春樹事務所編集者より1997年にフリーとなる。ビジネス、IT、飲食、流通、歴史、街歩き、サブカルなど多彩な方面で、執筆、編集を行っている。共著に『図解ICタグビジネスのすべて』(日本能率協会マネジメントセンター)、『バカ売れ法則大全』(SBクリエイティブ、行列研究所名儀)など。

「100円均一ショップ」崩壊への序章か。業界2位セリアを襲う人件費高騰の波

100円ショップ業界の優等生で、100円の価格ではあり得ないほどの高感度な商品、売場を連発し、業界2位にまで躍進した、セリアの成長性にブレーキがかかっている。

2019年3月期第3四半期決算の売上高1285億900万円(前年同期比6.8%増)は順調だが、営業利益は130億200万円(同0.7%増)とわずかしか増えていない。経常利益も1.0%増、四半期純利益も1.6%増と微増にとどまっている。

前年は、売上高10.7%増、営業利益12.6%増、経常利益12.3%増、四半期純利益11.8%増と、2桁の増収増益になっていたのに対して、いかにも物足りない感がある。

第2四半期決算では、売上高7.0%増に対して、営業利益2.0%減、経常利益1.8%減、四半期純利益1.2%減と、増収減益だったので、盛り返したとの見方もできる。しかし、今期に入って昨年4月から今年1月までの既存店売上高は、10ヶ月のうち6つの月で前年を下回っている。既存店客数と既存店客単価も7つの月で前年を下回っているのである。

ここに来ての既存店の伸び悩みが想像以上に、セリアの業績の足を引っ張っている。

第3四半期決算短信によれば、利益が伸びない要因として「人件費率が上昇したことなどにより、売上高に対する比率が0.7ポイント上昇したため」とあり、人件費の上昇が響いている。

株価は、2010年2月26日に120円だったのが、同社の成長に伴いうなぎ登りに上がって、18年1月5日には最高値7210円を付けた。ところがその後急下降し、今年3月1日現在3785円と半値近くとなってしまっている。

セリアの課題である既存店の伸び悩みと、人件費の上昇に関して、考察してみたい。

売り切れの品が続出。熱心な女性ファンがセリアに殺到する理由

セリアは2004年に100円ショップ業界初の「POSシステム」を導入し、06年にはそれを活用した「発注支援システム」を構築。同社ホームページの河合英治社長のあいさつによれば「お客様支持に基づく最適な品揃えとオペレーションの簡素化を実現」した。

そのビジネスモデルの象徴として、「Color the days 日常を彩る。」というブランドプロミスを掲げている。

店舗数は、今年1月末現在で、1570店(直営:1521店、FC:49店)となった。

女性をターゲットとして、デザイン性を追求した商品が並び、インテリア、食器、台所用品、ガーデニング用品、収納用品、手芸用品などに強い。半面、食品を扱っていない店舗が多い。

セリア店内の様子

商品の傾向としては、100円ショップの実用型商品の域を超越した、見た目のかわいらしい愛すべき商品が多い。子供と一緒に家族で楽しめるキャラクター商品やパーティーグッズも揃い、近年はショッピングセンターや大型スーパーの集客の鍵を握るテナントとして、重宝されるようになっている。

DIY向きの商品が充実していることからも、女性向けホームセンターのカテゴリーキラーのような独特の立ち位置にある。

セリアのファンの中には毎日のように店に行っては、発見したお気に入りの商品をSNSにアップする、“セリア・パトロール”と呼ばれる購買行動を行う、熱心な常連客のインフルエンサーが多数存在している。セリア・パトロールによってSNSで拡散された商品は、インスタ映えすることもあり、その情報を見た人が店舗に殺到して売り切れることもしばしばで、欠品となっている商品が増えている。

セリアを悩ませる、人気商品にのみ客が集中する「負の一面」の顕在化

欠品を出さないことに関しては、セリアが最も注力していることの1つで、取り扱いアイテムを約2万点としている。その中で月間400~600の商品を入れ替えて、常に売場の新鮮さを保っている。

2万点もの商品があるのだが、「ダイソー」のアイテムは約7万点であり、100円ショップにしては絞り込まれている。「ダイソー」の3割程度の商品数で成長してきた、製造コスト面の優位性があるのだ。

ところが、セリア・パトロールで何が人気になるかは、出してみなければわからない。同じアイテムで、ある色、黄色なら黄色ばかりが売れる場合もあり、データベースをメーカーと共有して、なくなりそうになったらつくる体制を構築しても、即座の補充が難しいケースも出てくる。

もちろん、SNSで購買意欲をかき立てられ、お店に買物に訪れた顧客は、お目当ての商品が売り切れていたならば、がっかりするだろう。
そうしたことが何回も続けば、別にセリアでなくてもという人が出てきてしまう。

競合のダイソー、キャンドゥ、ワッツなどでも、特に300円など、100円以上の高価格の商品でデザイン性を高めており、わざわざセリアの他店まで行ってあるのか、ないのかもわからない商品を探し回って交通費、ガソリン代を使うより、300円ショップでいいという人も増えている。

セリアを悩ます、既存店顧客の減少、1人当たりの購買商品点数の減少は、皮肉にもセリアの商品の優秀性によって生み出された、セリア・パトロールと、SNSに投稿されたインスタ映えする商品に人気が集中する現象の負の一面が顕在化したものである。

セリアは顧客などの情報の分析に長け、それを商品に具現化する発想の秀逸さで成長してきたが、突発的に起こるSNS起点の怒涛の如き集中的購買行動は、いくら分析してもどうなるものでもない。

売れて商品がなくなった時のメーカーと連携した補充力ばかりでなく、補充されるまでにいかに顧客をつなぎ止めるか、説得性ある弁明力が問われている。

売場を見る限り、欠品がいつになったら補充されるのか、何の情報も弁明もない。

たとえば、食品スーパーの「OKストア」ならば、店員が手書きで代替商品の案内などをするが、そういう機転がない。特に人気の商品の欠品情報くらいは、店頭掲示板で告知できないものか。

商品は魅力的で素晴らしいが、社風が親切でないように顧客から感じられてしまっている点が顧客離れの原因である。

セリアの知られざる一面。「非正規社員比率」95%超の衝撃

セリアのファンがしばしば口にする不満は、欠品の多さと共に接客が良くないことだ。

人件費を削るため究極まで人員を減らしているため、店員がレジ打ちと品出しに追われ、どうしても顧客への対応が疎かになってしまう。

商品知識が乏しい店員が多く、「店員にセリア愛が感じられない」といった意見も結構耳にする。同じようにパトロールする人が多い「カルディ」の場合、接客の評判がよく、「店員にカルディ愛が感じられる」といった一般の評価になっているのと、大きく差が付いている。

セリアは実は、日本の上場企業の中でも、際立って非正規社員の比率が高い会社だ。

東洋経済オンラインの2018年3月27日付「「非正社員の多い」トップ500ランキング」によれば、セリアの非正規社員数は8192人で122位にランクインしている。

注目すべきは、非正規社員比率の95.38%である。正社員は5%に満たない。これは堂々の500 社中1位だ。

つまり、日本の名だたる上場企業は数あれど、セリアほど極度に非正規社員ばかり働かせている企業は、他に存在していない。日本一、非正規社員率の高い会社という、戦慄の事実が明らかになっている。

ちなみに、5年前比非正社員率に対して、40.13%も非正規率が高まっており、現場から顕著に正社員比率が低下している。

セリアに限らず、100円ショップの非正規社員比率は高く、ワッツは85.71%、キャンドゥが84.90%となっている。 

「ダイソー」の大創産業は非上場のため非公表であるが、セリアよりもっと非正規社員率が高い可能性がある。同社ホームページによれば従業員数21185人。「マイナビ2019」の新卒採用・会社概要によれば、従業員(正社員)は350人程度となっており、350人以外が非正規とすれば20835人である。それで正しければなんと98%が非正規、ということになるからだ。

単価が低いので、人件費に回していたら儲けが出ないのは理解できるが、それにしても100円ショップ業界の人件費を極限まで削ろうとする執念はすさまじい。

ところでいかにもアルバイトが多そうな外食の非正規社員比率は、日本マクドナルドホールディングスが84.21%、「すき家」などのゼンショー・ホールディングスで84.42%、「ガスト」などのすかいらーくで87.25%、吉野家ホールディングスは78.72%、松屋フーズ85.41%である。

このデータからも、いかにセリアの非正規社員率の高さが異常なのかは、理解できるだろう。高感度のおしゃれな商品を販売していながら、牛丼の「すき家」や「吉野家」、「松屋」よりもはるかに非正規の社員が多く、典型的な格差社会の貧困ビジネスと化している。

「100円均一」の限界。いまや回転寿司でさえ「200円皿」が当たり前の時代に

このような状況で接客がおざなりになるのは当然で、現場のパート、アルバイト店員の責任にはできないのではないか。

セリアは、中国の工場の人件費が上がり、日本の店舗のパート、アルバイト代、物流や協力工場のコストも人件費を中心に上がって、苦しい状況となっている。

セルフレジの実験も始めて、なんとかさらに店頭の人員を削る合理化を進めようと真剣に取り組んでいるが、もう全てを100円均一で提供するビジネスモデル自体が限界だ。

現に、競合の100円ショップは、皆150円、200円、300円、500円と高価格の商品にも取り組んでいる。100円回転寿司の「スシロー」、「くら寿司」、「はま寿司」、「かっぱ寿司」に行っても、150円、180円、200円、250円などの高単価な皿が回っているのだ。

顧客は無理な100円商品の固定化にこだわっているのではない。見ているのは、値段以上の値打ちである。

セリアは、さらにグレードを上げた200円や300円の商品にも取り組み、もっと社員に再分配できる財務体質になって、従業員満足度を高めないと、店員の機転が利かない、接客がおざなりという顧客の不満にはこたえられないだろう。

せめて牛丼屋程度の非正規率85%くらいにまで正社員数を改善し、かつ適正に利益が上げられる、脱貧困ビジネス化を進めてもらいたいものである。

長浜淳之介

プロフィール:長浜淳之介(ながはま・じゅんのすけ)

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兵庫県出身。同志社大学法学部卒業。業界紙記者、ビジネス雑誌編集者を経て、角川春樹事務所編集者より1997年にフリーとなる。ビジネス、IT、飲食、流通、歴史、街歩き、サブカルなど多彩な方面で、執筆、編集を行っている。共著に『図解ICタグビジネスのすべて』(日本能率協会マネジメントセンター)など。

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