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新年度あるある「名刺交換」と「握手」は心理学で攻略せよ

4月は新年度スタートの記事で、入社・入学や異動など新生活がスタートする人が多い時期。そのため、初対面の人に挨拶する機会が一気に増えますが、名刺交換や握手などの挨拶アクションをきっかけに相手との心理的距離を縮めることができると説くのは、心理学者でメルマガ『富田隆のお気楽心理学』の著者、富田隆さんです。人と仲良くなるための「距離」の縮め方を心理学的に解説します。

名刺交換と握手の共通点とは

いよいよ3月。日本では年度末。出会いと別れの季節ですね。名刺交換をしたり、握手をしたり。こうした「挨拶の回数が増えるのもこの季節。名刺交換はもっぱら日本流のビジネスマナー。しかし、挨拶のついでに自分のビジネス情報を相手に渡せる便利さから、今やグローバルに拡がりつつあります

一方、ヨーロッパ・アメリカ発の握手という挨拶も、いつの間にか日本でも定着しつつあります。なぜか日本では別れ際の握手(またお会いしましょうの握手、ありがとうの握手)が人気のようです。
名刺交換と握手は、どちらも「挨拶」ですが、心理学的に見ると、親密な関係を築く上で、両者には、ある共通な機能が秘められていることに気づきます。

それは、相手と自分の距離を縮めるという機能です。

物理的な距離を縮めて親密度を増す儀礼

距離を縮めるという場合、心理的に親しくなるという意味と、文字通り物理的な距離を縮める(近づく)という意味の二つが考えられます。
実は、この両者には密接な相互作用が働いているのですが、それは後ほど説明させていただくこととして、まずここで問題にするのは「物理的な距離」です。

握手をするためには、お互いの手が届く距離に近寄る必要があります。
初対面の場合、日本の場合でしたら相手との距離が一番近くても1m、遠い場合でも3m以内で紹介されたり自己紹介をすることになりますね(アメリカやヨーロッパでは1.3m~3.6mとやや遠くなります)。

ところが、これだと握手をしようにも手が届きません。そこで、手を握れるように、お互い一歩ずつ相手の方に近づくわけです。すると、二人は1m以内の空間を共有することになります。

握手は、手を握り合うというスキンシップで親近感を高めるだけでなく、お互いの物理的距離を縮めることによっても親密度が増す儀礼」だったのです。

名刺を交換するのにも近づく必要がある

名刺をお互いに交換する場合でも、両者が1m以上離れたままだと、伸縮自在のマジックハンドが必要になります。
そんなもので名刺を渡しても親しくはなれません・・・、というより、相互の不信感が増すだけですので、ここはお互いに一歩ずつ歩み寄ることになります。

離れた位置から相互に接近して、1m以内の空間を共有するための儀礼」という点では、握手も名刺交換も同じ機能を備えています。

明治以降の近代化の過程で、それまで「非接触系」の文化を守っていた日本人に「接触系」の握手やハグといった西欧流の挨拶は受け入れにくかったのでしょう。そこで、握手代わりに普及したのが、初対面における名刺の交換です。

名刺は古代中国の発明ですが、当初は訪問する相手の門前の箱に名前を書いた札(刺)を入れて案内を乞うというような取り次ぎ用のものだったようです。今日の使い方とは随分違いますね。そして日本流の、挨拶としての名刺交換は、今や世界のビジネスシーンを席捲しつつあります。

距離の近さは親しさに比例する

人間が社会的な場面で、相手との間で自然に取っている距離には心理的な「親しさ」が反映しています。二人の人物の距離の取り方を観察していればその人たちの社会的関係が推察できるのです。

大学の授業などで、しょっちゅう隣の席に座っている男女は、ほとんどの場合恋人どうしです。そんな二人が別々に離れて座るようになると、恋は破局したとみるべきでしょう。

異性関係に限らず、大教室などの授業では、知りあいの学生どうしは詰めて座りますが、よほど混雑していない限り、見知らぬ学生どうしは、ひとつ席を空けて座ります。

人間に限らず、サルの群れなどでも、親しい個体どうしは近くにいます。

小さな子ザルは母親にベッタリですし、少し年長になった仲良しの子ザルたちは、しょっちゅう一緒になって遊び回っています。

サルの群れを研究する生物学者は、こうした距離と接近行動(2匹がお互いに近くにいるためにはどちらかの個体が相手に接近する必要があります)を指標に、群れの中の社会的な関係や地位などを調べるのです。

「かくれた次元」というベストセラーを書いたエドワード・ホール氏は、私たち人間が相手との社会的関係に応じて無意識に一定の距離を取るということを明らかにしました。文化によって多少の伸縮はあるものの、物理的距離と心理的距離の比例関係は世界中に共通です。

「公衆距離」「社会距離」「個体距離」「密接距離」

ホールは、距離を4つのゾーンに分けました。

一番遠いのが「公衆距離」で3.6m(3m@日本)以上。
これは、大統領が演説するとか、社長が朝礼でスピーチするとか、大道芸人がパフォーマンスをするとか、路上ライブとか、いわゆるパブリックなこと(個人的な人間関係ではなく不特定多数を相手に何かをすること)をやる場合に必要とされる距離です。
大学の授業なんかもパブリックなサービスの一種なので、受講者の中に自分の子供がいようが、浮気相手がいようが、授業は「他人行儀」にやる必要があります。そのためには最前列と少なくとも3mの距離が欲しいわけです。

この内側、1.3m(1m@日本)~3.6m(3m@日本)が「社会距離」です。
皆さんが買い物に行ったり、街を散歩したりするときに、見ず知らずの相手と自然に取っている距離がこれです。社会生活を営む上で、見知らぬ相手と自然に取る距離です。
ですから、初対面の人と挨拶をするときも、最初はこれだけの距離を取っているはずです。

さらにその内側、45cm~1.3m(1m@日本)が「個体距離」です。
友達や仕事仲間顔見知り、といった人たちと共有するのがこの距離です。立食パーティーなどで、グラスを片手に誰かと談笑しているとき、貴方は無意識にこれくらいの距離を保っています。もし、それ以上接近すると、二人は誰の眼にも「ただならぬ関係」であると映ります。

この一番近い距離、45cm以内の「密接距離」は最も親しい者どうしに許される距離です。
親子、夫婦、家族、恋人、親友といった親密な関係の人がこのゾーンに入れます。
腕を組んでパーティーに登場する夫婦やカップルは、当然45cm以内のゾーンを共有していますし、母親にまとわりつく子供も、孫にエスコートしてもらう老婦人も家族とこの距離を共有しています。

ニワトリが先でもタマゴが先でもOK

こうした距離の指標を考慮に入れると、握手や名刺交換といった挨拶の儀礼は、「社会距離(1m~3m)」から個体距離(45cm~1m)」に入るための儀礼であったことがわかります。

つまり、社会距離しか許されない「見知らぬ」関係から、お互い、一歩ずつ踏み込んで個体距離を共有する「知り合い」になりましょう、という儀礼なのです。

そして、これはこれで一定の効果があるのです。たとえごく僅かでも、二人を親密にする効果があるから、これまで延々と続いてきたのです。

物理的距離と心理的距離の関係を知ると、普通の人は、「親しいから近くのゾーンを共有できる」つまり「心理的距離の近さが原因で物理的距離の近さが生じる」という因果関係を理解したところで満足してしまいます。

しかし、心理学者はこれだけでは満足しません。これはまだ、事実の「半分」に過ぎないのです。

逆もまた真なり

握手や名刺交換の儀礼は逆の可能性を示唆しています。つまり、「物理的な距離の近さを共有することが心理的距離を縮める」ということです。いろいろと実験などをしてみると、これもまた真実なのです。

幼稚園児などは、最初の日に隣りどうしの席になった子供や、お迎えのバス停で一緒になる子供と仲良くなります。学生寮などの調査研究でも、部屋が隣りどうしとか同じフロアの学生から先に仲良くなります。

要は、ニワトリが先でもタマゴが先でもどちらでもOKということです。

これを「単純接触効果」などと呼んで推奨している人たちもいますが、嫌いな相手が近くにいる(あるいは接触して来る)とますます嫌いになるという実証研究もありますから要注意です。熱心に接近すればするほど、ストーカーは嫌われますものね。

接近行動には「口実」がいる

それでは、どうすれば相手に嫌われずに接近(近い距離を共有)することができるのでしょう?

そこでヒントになるのが、当初から話題になっている握手と名刺交換の事例です。

そもそも、なぜ、見知らぬ二人は一歩ずつ近寄ったのでしょう?なぜなら、それが社会的な「礼儀」であり「マナー」だからです。

つまり、私たちの社会においては「マナーに則(のっと)った接近行動は許されるどころか大いに歓迎されるのです。乗り物やエレベーターでのエスコートやさり気ない気配り。立食パーティーで、飲み物やオードブルを取って来るといった気の利いたサービス。社交ダンスやパーティーゲーム。マナーに則った接近行動を実行する機会は山ほどあります。マナー、礼儀正しさ、といった「口実」を味方につければ、人間関係はさらに自由度を増すはずです。

もしあなあたが、若い後輩や部下をお持ちなら、ジェントルマン(あるいはレイディー)になることで人生が豊かに楽しくなるという秘密をこっそり教えてあげてください。もちろん、妙に気取る必要はありません。今風で良いんですよ。

image by: PhotoByToR / Shutterstock.com

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