3月末に内閣府が発表した、中高年の「ひきこもり」が推計61万3千人にいるとする調査結果が驚きをもって伝えられていますが、感覚的には「もっといる」と語るのは、メルマガ『ジャーナリスティックなやさしい未来』の著者でジャーナリスト、福祉分野でも活動する引地達也さんです。引地さんは、内閣府が発表した以上、対策が動き出すことに期待し、かつて同じように統計発表から対策が進んだ「自殺問題」を例に、現場が動くために必要なものについて考察してます。
中高年の引きこもり61万人の衝撃に新しい皮袋を
自宅に半年以上閉じこもっている40~64歳の引きこもりは全国で推計61万3千人─。内閣府が発表した調査結果に世間は驚きとともに、私のような福祉関連に従事する関係者間では「まだまだいるのでは」という感覚もある。
引きこもりのうち男性が7割以上で、全体の半数以上が7年以上引きこもっているとの内容に「長い」とみるか、「短い」とみるかは、引きこもりとの関わりによって見方は変わってくる。
報道によると、内閣府では15~39歳も合わせた引きこもりの総数は100万人を超えるとみているという。
この調査を内閣府が主導したからには、対策までも責任を持つはずだろうから、いよいよ具体的な計画づくりにいくはずだが、専門家の立場や視点によって解消へのアプローチは違うはずで、国はどのように引きこもっている人を表に出していくのだろうか。
今回の調査は、2018年12月に全国で無作為抽出した40~64歳の男女5千人に訪問で実施した結果。回答を得たのは3248人で、これに人口データを掛け合わせて出したのが61万人という数字だから、61万人は顔のない数字である。
この61万人が定義づけられた「引きこもり」とは、自室や家からほとんど出ない状態に加え、趣味の用事や近所のコンビニ以外に外出しない状態が6カ月以上続く場合という。
回答者のうち引きこもり該当者は1.45%で、引きこもり開始年齢は60~64歳が17%で最多、しかし20~24歳も13%で大きな差はない。きっかけは「退職」「人間関係」「病気」の順となった。
回答者のうち40代前半は20代前半の就職活動期に引きこもり始めたケースが目を引く。「就職氷河期」が原因であることは容易に想像がつくだろう。
わたしたち社会が生み出している「引きこもりの人」をどのように捉え、改善していくのかが、今後の議論になるであろうが、内閣府主導で「成功事例」として模倣しそうなのが、自殺対策である。
これも「バブル崩壊」により経済状況が悪化して、一気に年間自殺者が1997年の約2万4千人から98年に約3万3千人となり、3万人以上の時代が続いたことを懸念した政府が内閣府主導で対策に本腰を入れたのである。
その結果、2012年に2万人台となり、以後2万人台を下降している。同年に政府は自殺総合対策大綱を制定し、毎年国会に内閣府自殺対策白書を提出している。首相に近い内閣府の仕事を毎年国会に報告するからには成果が求められる。
そうすると、自殺対策を実施する機関も関係省庁も「忖度」が生まれそうで、実際減ったとされる自殺者の数は、最近の統計不正の問題もあり、実数とは微妙に違うのではないか、という疑念も沸いてしまうが、それは今回触れない。全体としては減っているはず、である。
大事なのは、内閣府主導でやることで、「忖度」も含め周囲は成果に向けて動く、という政策実行の習性である。
私自身、支援の現場で自治体の担当者と話をする時に、政府が重視しているワードやトレンドを口にすると先方が敏感に反応し、俊敏な動きを見せくれることがある。それは「自死」であり、最近では「虐待」「DV」にも敏感な反応を見せる。
「引きこもり」も調査を受けてガイドラインを示せば、何らかの行動は可能であろう。しかし、その中身が重要だ。約5割が7年以上引きこもっており、暮らし向きは上・中・下のうちの選択で聞いたところ3人に1人が下であった。
引きこもりの方の中には幸せに生きている方もいらっしゃるとの認識を持ちつつ、「不幸な状態にある」引きこもりの方を表に出すために、おそらく何らかの「社会」と結びつき、小さなコミュニティの一員として迎えるところから始めるかもしれないが、即座に「福祉」「就労」等の既存の領域に入れるとの発想からは離れたい。この新しい問題には新しい皮袋が必要だと考えている。
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