つい先日は国を代表する企業トップが「終身雇用は困難」と宣言するなど、会社や国に充分な生活保障を期待する事すら難しい事態が次々と表面化してきた令和ニッポン。私達は迫りくる変化にどう備えればよいのでしょうか。今回の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』では著者で国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんが、合理化をキーワードとして「近未来の労働環境」を予想しています。
令和の労働形態はどう変わる?
今日は、日本の労働形態はこれからどう変わるのかという話。
まず、未来を考える前提についてお話します。私は、「長期的に見ると、人も会社も【合理的】に動いていく」と考えています。
一つ例をあげましょう。2008年の夏、一時帰国した時のこと。私は、お世話になっている出版社に挨拶に行きました。メチャクチャ暑い日でしたが、スーツ(上着も)を着て、ネクタイしていきました。駅につくと、私と同じような恰好をしたビジネスマンがうじゃうじゃいました。私は、「こんなクソ暑い日にスーツ(上着も)を着てるなんて、【合理的じゃない】」と思いました。しかし、どうすることもできません。当時は、それが「礼儀」だったからです。05年から小池さん主導で「クールビズ運動」がはじまっていましたが、当時はまだ一般的ではなかった。
あれから11年経ちました。今はどうでしょう?夏になると、スーツの上着を着ている人を見つけるのが難しいほどです。そう、日本国は、「クソ暑い日にスーツの上着を着なきゃいけない。それが礼儀だから」という「不合理」をなくしたのです。実にいいことです。
その他の例。皆さん、映画をどうやって見ますか?もちろん映画館で見ることもあるでしょう。私も最近、娘とドラえもんを見に行きました。では、家ではどうやって見ますか?90年代は、ビデオを買うか、借りるかしてみていました。2000年代になると、DVDが一般化しました。2010年代になると、ネットで見るのが一般化しました。最近、レディーガガの「アリー、スター誕生」を見ました。ネットで借りたら400円でした。便利(合理的)です。何がいいたいかというと、世の中は、遅かれ早かれ「合理的な方に動いていく」ということ。
北野の驚き
もう一つは、「近未来の萌芽は今出ている」ということ。合理的だけど、今はまだマイナーな存在。しかし、それは合理的な故に、将来主流になっていく。
この話、もう2回しました。最近取引のある会社の方に、「いつ出社してるんですか?」と聞いた。するとその方は、「うちの会社は、出社するしないは本人の自由です」といった。
「でも、私は一応、(午後)1時ぐらいに出社しています」
私は驚きました。全然出社せず、毎日家で仕事してもいいという。Hさんは、一応出社するが、午後1時だと。
私 「出社してから何してるんですか?」
Hさん 「まず昼飯食って、その後昼寝します」。
私 「昼寝!?会社で昼寝していいんですか?」
Hさん 「はい。社長も昼寝してますから」
昼寝から目覚めたHさんは、夕方7時まで仕事して帰宅するそうです。会社にいる時間6時間。そこから、昼食、昼寝の時間をのぞけば、実働時間は4時間ぐらいなのでは?
しかし、大切なのはここからです。Hさんの会社は、こんな感じの働き方で、非常に業績がいいのです。これを別の言葉で、【労働生産性が高い】といいます。取引のある別の会社の人に聞くと、「私は週1出勤です」という。私は、「日本も変わってきたな~」と思いました。もちろん「いい方に」です。
近未来、日本人は会社に行かなくなる
考えてみると、「パソコンがあれば、会社の仕事、自宅でもできます」という方は、たくさんいるのではないでしょうか?もちろん、「全員」とはいいません。肉体がその場にいなければできない仕事も、たくさんあるでしょう。でも、「ほとんどはパソコン仕事なので、会社に行かなくてもできます」という人は多いでしょう。それなのに、その人は今、毎日往復2時間かけて会社に通っている。これって、メチャクチャ【不合理】ですね。
まず、2時間って結構大きくないですか?その時間、寝ることもできる。子供を幼稚園に送ることもできる。料理をすることもできる。食料品を買いに行くこともできる。会社側から見ると、交通費もバカにならないでしょう。それに、社員が家で仕事をする割合が増えれば、バカでかいオフィスは必要なくなる。ここでも経費を削減できますね。
というわけで、あらゆる観点から、「自宅でも会社と同じ仕事ができる社員」が毎日会社に通うのは【不合理】です。だから、「こういうバカげたことは止めようよね」となることでしょう。令和10年ぐらいになると、「出勤は週1」という人が3~4割になると思います。
これは、もちろんいいことですが、「ついていけない人」も出てくることでしょう。どういうこと?
自己管理ができない人は?
この話を聞いて、社長さんの読者さんは、「うちの会社じゃ絶対無理!」と思われたかもしれません。「出社しなけりゃ、従業員はサボる…」と。
確かにそういう人も多いことでしょう。
「小人閑居して不善をなす」といいます。意味は、「凡人が暇だと、ろくなことをしない」と。要は、出社しなくてもいい人の条件は、「自己管理できているか」ということ。
「自宅にいても、会社にいるのと同様に、サボらずやれるか」
だから、入社から半年ぐらい出社してもらい、自己管理がてきていそうなら、「出社しなくてもいいよ」となるかもしれません。
リストラはなくならない
最近、トヨタの社長さんが、こんな発言をされました。
トヨタ自動車の豊田章男社長の終身雇用に関する発言が話題を呼んでいる。13日の日本自動車工業会の会長会見で「雇用を続ける企業などへのインセンティブがもう少し出てこないと、なかなか終身雇用を守っていくのは難しい局面に入ってきた」と述べた。
(日経ビジネス 2019年5月14日)
トヨタでも、「終身雇用」の維持は難しいそうです。ほとんどの企業では、もうとっくに終身雇用なくなっていますね。残念ですが1990年以前のように、「終身雇用が普通」とはならないようです。
もう一つ。みずほFGは、副業を解禁するそうです。みずほFGの酒井社長は、
坂井:みずほFG社員の副業を含めた兼業を今年度から解禁したいと考えています。社内における競争原理で考えるのではなく、70歳、80歳まで自己実現していくためのスキルをみずほで身につけてほしい。
(日経ビジネス 2019年6月4日)
副業を認める。その理由は、「70歳、80歳まで自己実現していくためのスキルをみずほで身につけてほしい」だそうです。しかし、次の質問で、社長の「本音」がわかります。
なぜ副業を認めるのですか?
坂井:働くことに対する一人ひとりの意識がものすごく変わっているからです。昔は定年まで勤めあげて、年金で暮らすという生活が普通でした。今は、(年金など)社会保障に対する不安もあり、平均寿命も長くなっている。そうした中、終身雇用を前提にした人事制度には限界があります。
「終身雇用を前提にした人事制度には限界があります」だそうです。思うのですが、銀行業は、AIを活用する余地がたくさんありそうです。それで、「終身雇用を前提にした人事制度には限界があります」ということなのでは?
「副業してもいいよ」というのは、要するに「私たちは、君の人生に責任持てないから、将来首にするかもしれない。これからは、【自己責任】で生きて行ってくれよ!」ということなのでしょう。
令和は、国民総「個人事業主」の時代
1950~1990年、日本は「会社教」で発展しました。しかし、平成になると、終身雇用、年功序列を維持できなくなり、「会社教」は崩壊した。ところが、平成時代「新しい中心的価値」は現れなかった。
トヨタ、みずほFGが、「終身雇用は無理!」と宣言している意味はなんでしょうか?ついに、「会社教の時代が完全に終わりつつあること」を示しているのでしょう。
これからは、会社に勤めていようがいまいが、私たち自身が、「自分と家族の人生に責任をもつ」、いってみれば、「個人事業主」の時代になっていきます。
昭和後期の人は、「会社の一部」だった。平成の人は、「会社が冷たくなって」悩んだ。令和の人は、(会社に勤めているいないに関わらず)「自分会社の社長」という意識で生きていかざるを得なくなるでしょう。「自立人間」の時代ですね
令和の時代、「自立人間」が増え、日本も「自立」にむかいます。
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