文法の中で、日本語の特筆すべき点を上げると、「が」の存在である。著者は日本語の中で一番自慢できるのは「が」だという。主格を表す「が」を持っている言語は日本語だけらしい。日本語は主語を表す「が」と「は」があって区別が難しいという外国人がいるが、正しくは主語を表すのは「が」の方だ。
「働く」という字は国字、つまり日本製だ。一般に国字は訓読みだけで音読みはない。しかし「働」は「ハタラク」という訓と「ドウ」という音読みを持つ。いかに日本人がこの国字を重要視しているかがわかる。中国では「勤」「労」「務」などの漢字をあてる。どの字も義務的にいやいやしかたなく、という語感が漂う。それに対して「働く」は、人がいきいき動いている感じがする。
現在はこの国字が中国に逆輸入されて使われている。「働く」は英語ではworkになるが、日本語のほうが語義が狭く、使い方がやかましい。「働く」は自分のために何かをすることではなく、何かほかの人の利益になることをいう。反対語は「遊ぶ」だが、playとはちょっと違い、何も役に立つことをしないことで、あまりいい意味ではない。いまのわたしの立場を表しているようである。
忘れて欲しくない日本語に「いそしむ」がある。英語では「励む」endeavorになるが、意味が違うだろう。「励む」はがむしゃらに働くことだが、「いそしむ」は働きながらそこに喜びを見出しているというニュアンスがある。日本人は働くことをことのほか愛する。だからこのようなステキな言葉ができた。
英訳が難しい日本語がある。「気にする」「気が置ける」「気がね」などの言葉に出てくる「気」や、「義理」「厄介」「人情」「迷惑」など独特の雰囲気を含んだ言葉だ。「今年もどうぞよろしく」「日頃お世話になっております」「つまらないものですが」など、直訳では相手の外国人は意味がわからないだろう。日本語は面白い。日本語は美しい。日本に生まれてよかった。
編集長 柴田忠男
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