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【書評】人口減少で年金破綻、という理論が現実にならない理由

 世界における日本の立ち位置についてはさまざまな考察がなされていますが、「国際会議などで撮影された写真を見ればよくわかる」とするのは、元大蔵省職員で経済学者の高橋洋一氏。昨年のG20の写真から読み解ける日本の国際的な立場とは?今回の無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』では編集長の柴田忠男さんが、そんな内容や高橋氏が専門とする「数字」で読み解く我が国の未来が記された一冊をレビューしています。

偏屈BOOK案内:高橋洋一『この数字がわかるだけで日本の未来が読める』 

この数字がわかるだけで日本の未来が読める
高橋洋一 著/KADOKAWA

世界における日本の立ち位置を知るのに好都合な材料が、国際会議などで撮影された集合写真である、と著者が解説する。2018年11月30日~12月1日にアルゼンチンのブエノスアイレスでG20が開かれた。この時の集合写真に見る首脳たちの立ち位置は、いまの国際社会における各国の影響力をよく表しているというのだ。前列の真ん中が、主催国のマウリシオ・マクリ大統領である。

向かって左側に日本の安倍首相、トランプ米大統領、マクロン仏大統領らが並ぶ。向かって右側には習近平中国国家主席やウラジミール・プーチン露大統領らが並ぶ。主催国の大統領が中心に立つのは当然だが、その隣が安倍首相だったことは、国際社会における日本の存在感の大きさと無関係ではない

国際会議の立ち位置については、各首脳が競い合うのではなく、シンプルなルールがあるそうだ。

  1. 議長国の首脳が中央
  2. 首相よりも大統領が内側
  3. 在任期間の長い首脳が内側

もちろん立ち位置は議長国がその都度決めてもかまわないが、多くの場合は慣例となっているルールによって決まる。

ブエノスアイレスG20での安倍首相の立ち位置は、開催国首脳の隣には次期開催国の首脳が来るという慣例にも則っているが、それを割り引いたとしても、集合写真での安倍首相は目立っていた。この写真にはメルケル独首相が写っていない。専用機のトラブルで開催に間に合わなかったからだが、それにより安倍首相は写っている中で最も在任期間の長い、先進国の首脳となった。

集合写真右側も興味深い。議長国の隣に習主席、リー・シェンロン・シンガポール首相、プーチン大統領の順で、通常はシェンロン首相がこの位置にいることはありえない。シェンロン首相は英語、中国語、ロシア語も堪能だ。つまり、通訳の役目も兼ねて中露の間に呼ばれた、と著者は推測する。なるほどねー。

このG20には「ジャーナリストのジャマル・カショギ氏を暗殺を指示した人物」と国際社会から見られている、サウジアラビアのサルマン皇太子が参加した。その根拠となる情報は、敵対するトルコが提供した。集合写真ではトルコ大統領は前列左端、サルマン皇太子は後列右端に位置している。無難に会議を進められるように、事前に立ち位置が決められたのだろうと著者は考えた。

著者は数字とともに生きてきた人。だから本のタイトルも「この数字がわかるだけで日本の未来が読める」と言い切る人。「統計データを見極め、正しい数字を読み解ければ、『現在』の立ち位置を見誤ることはないし、じつは『未来』もかなり正確に予測できる。消費増税から少子高齢化、さらには安全保障まで日本の正しい未来を知りたければ、まず正しい数字を論拠にすることである」

国のバランスシートを1995年に初めて作成したのは大蔵省の役人だった著者である。いま財務省のHPにアクセスすれば、バランスシートは誰でも見ることができる正確な数字が並んでいる。国の「資産」はオープンな数字であるにもかかわらず、財務省は「負債」の数字だけを使いトリックの危機感を煽っている。天下り先を確保するための増税理論武装に他ならない。あ~あ。

首相官邸サイト G20ブエノスアイレス・サミット出席等 -1日目-

少し前まで、大阪市と大阪府は犬猿の仲にあったが、日本維新の会コンビになってから両自治体の協力体制がうまく機能している。2020年度のIR区域認定、2024年度のIR開業、2025年度の大阪万博開催というスケジュールの実現に向けて足並みを揃えている。万博誘致に成功したのはオールジャパンの勝利である。

高橋先生は大阪万博開催の経済効果を数字で示す。1970年の万博開催が、大阪の都市開発の大きな原動力になった。なかでも都市交通網の整備は著しく進んだ。2025大阪万博の会場は、大阪市の最西端にある広大な未開発地域・夢洲で、3.9キロ平方メートルの殆どが更地である。大阪万博は、いままで大阪の負の遺産とされた、この忘れられたような場所を有効活用する、捲土重来のチャンスというべきだ。

数学が天敵のわたしは、色々な数字を出されても困惑するが、「万博をプロジェクトとして見れば0.2兆円の投資費用で2.6兆円の便益があるという計算式が成り立つ」と言われるとよく分かる。これは滅多にない優良案件で、多少費用が増えても、入場者数が減ったとしても「投資する価値がある」という結論に変わりはない。それでも心配な人は、万博の仕組みを考えればよい。

万博は出展者である各国が費用持ちでやってくるのだ。この種のイベントは、主催者が儲かるのは当たり前だ。最初から大阪万博に反対する人たちは、誘致が決まっても批判を続けている。多くが左翼系の文化人である。彼らは、もし誘致に失敗したときは大喜びで「誘致活動に金がかかった」ことに文句を言うつもりだった。誘致が成功してしまったことで、あてが外れて残念でした。

批判の中には、試算はあてにならない、外れるものだと、頭から決めつけている意見もある。産業連関分析、あるいは投入産出分析と呼ばれるこの手法はそれなりの信憑性があるものだ。元大蔵省の数学の天才・高橋先生の言うことだから間違いはあるまいと確信する、数学敗残者の元高橋君であるわたしである(結婚して姓を変えた)。

そしてまた堂々たる(てへっ)年金生活者である。色々わけありで、給付額は決して多くない。出生率と経済成長率に左右されるという給付額だが、先行きを不安視してもしょうがない。重要なのは、年金が保険制度であることだ。保険料を支払う人が減れば、そのぶんだけ給付額も減るように自動調整される。

したがって、「人口減少で年金制度が破綻するという主張は年金制度を正しく理解していない人の戯れ言のようなものだ。また、年金制度を「保険」ではなく「福祉」だという、トンデモおバカな誤解も広まっているらしい。誤解してもらったほうが好都合な人たちが存在するからだ。とくに財務省である。

社会福祉は保険料でなく「税金」でまかなう。年金制度への不安が高まれば、破綻させないためには消費税が必要という曲解が流布する。高橋先生は役人時代に「年金定期便」の制度設計を企画し、発行にかかわった。そこに書かれた年金支給額の見込み数字が、大きく裏切られたという話は一切ない。その数字を見れば、年金財政が絶対に破綻しないということが理解できる。

編集長 柴田忠男

image by: Shutterstock.com

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