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弾劾調査すらアメリカ大統領選の追い風にするトランプの狡猾さ

トランプ大統領がウクライナ大統領に対し、大統領選挙の民主党候補ジョー・バイデン氏の調査を要請していたことが内部告発で明らかになった問題で、ついに弾劾調査が開始されました。ジャーナリストの内田誠さんは自身のメルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』で、新聞各紙の報道内容を詳細に分析・検証しています。

トランプ氏の弾劾調査開始を新聞各紙はどう伝えたか

ラインナップ

◆1面トップの見出しから……。

《朝日》…「表現の不自由展「再開目指す」」
《読売》…「日米貿易 最終合意に署名」
《毎日》…「NHK報道巡り異例「注意」」
《東京》…「銀座の高級すし店は還元」

◆解説面の見出しから……。

《朝日》…「不自由展 再開に難題」
《読売》…「トランプ流 圧力外交」
《毎日》…「NHKの自律揺るがす」
《東京》…「米イラン非難合戦 安倍首相苦慮」

プロフィール

あいちトリエンナーレの問題が動いていますが、あまり新鮮な論点を導けそうにないので、きょうは「トランプ氏」に注目します。 題して「トランプという人ときたら…」。

■弾劾は望むところ?■《朝日》
■自国第一主義■《読売》
■すべては大統領選のために■《毎日》
■内部告発者の議会証言がヤマ■《東京》

弾劾は望むところ?

【朝日】は3面の大きな記事で弾劾調査が始まることについて伝えている。 見出しは「トランプ氏の弾劾 調査開始」「民主 攻め手欠き、方針転換」「トランプ氏 中間層の民主離れ期待」「ホワイトハウス 通話記録を公開」とある。

2016年の大統領選挙でロシアがトランプ氏に肩入れした疑惑が持ち上がった時、ペロシ氏は「国を分断してまで弾劾するほどの価値はトランプ氏にはない」と言って弾劾に進まなかった。 そもそも上院では共和党が過半数を握っているので、弾劾でトランプ氏を退場させることは困難で、また、民主党内には弾劾より選挙に集中すべきとの考えがあったからだという。

今回のウクライナ疑惑は、トランプ氏の関与が明白で悪質。 弾劾を求める声も大きく、ペロシ氏もかじを切ったことになる。

表向き、弾劾の動きに激しく噛みついたトランプ氏は、しかし、実際は弾劾を歓迎しているふしがあるという。 驚いた。 スキャンダルや差別的な政策・発言にもかかわらず、支持率は40%代前半で安定しているため、弾劾されても支持は落ちないとみている上に、政局を優先するかに見える民主党から中間層が離れることを期待できるからだという。 しかも、弾劾の手続きが終われば、バイデン氏の疑惑だけが残る可能性もあるという。

しかし不思議なことがあるものだ。 分断を徹底すれば、あらゆる非難は「敵陣営からの攻撃」と見做され、自陣に影響を及ぼさないということのようだ。

自国第一主義

【読売】は3面の解説記事「スキャナー」と社説でトランプ氏を取り上げている。 「スキャナー」は「トランプ流 圧力外交」を分析したもので、ここでは社説の方に注目する。 タイトルは「国際協調の衰退」「トランプ流の拡散を懸念する」。

社説子は「未来はグローバリスト(国際主義者)のものではない。 愛国者のものだ」と国連で演説したトランプ氏に噛みついている。 各国指導者が国益を最優先するのは当然だが、テロや気候変動、貧困など、国境を越えた課題は一国だけでは解決できない、とする。 もし自国の利益のみを追求すれば、紛争が広がり、経済的利益も阻害されるのだと。

トランプ氏は「国際的な枠組みよりも、各国の主権や独立性が重視されるべきだ」というが、それは「中国やロシアが、国際社会の干渉を拒むのと同じ理屈」だと非難する社説子は、そうした「トランプ流」が拡散し、ハンガリー、トルコ、ブラジルなどで支持を集めている現状を憂えている。

国連で安倍首相は「多国間主義の枠組みとグローバリズムを、格差を減らすためにこそ用いる」と強調し、G20の議長国を務め、アフリカ開発会議で投資や貿易の活性化を提起したが、社説子は「自国第一主義の行き過ぎを戒めるメッセージとしては物足りない」と珍しく安倍氏を批判している。

まあ、もっとグローバリズムを強調せよということなのだろうが、日米貿易交渉が妥結した直後の社説ならば、TPPから勝手に抜けながら2国間交渉を求めてきた米国にさしたる抵抗もせず、自動車関税撤廃の口約束を得ただけで米国産農産物にTPP水準かそれ以上の優遇を与えてしまった安倍首相に対して、「物足りない」などという中途半端な批判ではなく、国益を毀損した可能性を指摘して指弾する社説としなければ、メディアの役割を果たしたとは言えまい。

すべては大統領選のために

【毎日】は2面の木曜日掲載コラム「木語」で、専門編集委員の坂東賢治記者が興味深い事実に注目している。 タイトルは「米印首脳の共通項」。

国連の気候変動行動サミットに突然姿を見せたトランプ氏(10分間だけだったようだが…)。 トランプ氏なりに環境問題への関心を示したという評価もあるそうだが、実は、丁度演説の時間を迎えていたインドのモディ首相への配慮だったのではないかという。

その前日、テキサス州ヒューストンで開かれたインド系米国人の大集会にトランプ氏は招かれていたという。 約5万人の観衆の前に、モディ氏と手を握り合って登場したトランプ氏。 いつも自分が主役でなければ気が済まないトランプ氏が珍しく脇役に甘んじていたのは、400万人を超え、有力者も多いインド系米国人から、大統領選で支持を得たいがためではないかという。 あるいは、強権的で選挙に強く、総選挙で権力基盤を強化したモディ氏にあやかりたいのかもしれないと見る。

だが、モディ氏が率いるインド人民党はヒンズー至上主義で、イスラム教徒らマイノリティを迫害しているとの批判がある。 モディ氏は8月、カシミール州の自治権を剥奪して地域情勢を不安定化させたこともあり、「「2大」民主国家」のトップの蜜月ぶりも手放しでは喜べない」とする。

私が思い当たったのは、2008年のインド映画「スラムドッグ$ミリオネア」。 貧民街に暮らす主人公らイスラム系の人々がヒンズー過激派の集団に襲われ、母親が殴り殺されるシーンが出てくる。 勿論、これは映画の話だが、とりわけイスラム系の住民に対するヒンズー至上主義者による迫害は事実と思われる。 その政党が政権を握っているのが今のインド、ということになる。 トランプ・モディの蜜月には理由があるということか。

内部告発者の議会証言がヤマ

【東京】は11面の特集「2020年 米大統領選」でトランプ氏の疑惑について書いている。

ロシア疑惑に関して民主党が弾劾に進まなかった理由については、《朝日》に書かれていることと同様で、「特別検察官の報告以上の疑惑を明らかにする作業は容易ではなく、政策論争よりも弾劾訴追に集中することで国民の支持を失い、共和党が多数の上院で否決されれば、むしろトランプ氏を利すると考えたからだ」という。

既に、トランプ氏がウクライナ大統領にバイデン前副大統領の次男の捜査を要求していたことはホワイトハウスが公表した通話記録からも判明しているが、トランプ氏は圧力を掛けていないとして、調査の動きに対しても「バカげている。 魔女狩りだ」と悪罵を浴びせている。

トランプ氏の「不適切な約束」を内部告発した情報当局者は近く議会で証言するとみられていて、「トランプ氏が政敵を倒すために大統領の地位を利用して外国政府に圧力をかけ、協力を引き出すために軍事支援という国民の税金を担保にした、という構図」(ワシントン・ポスト紙)を明らかにすれば、トランプ氏は窮地に立たされることになるとみられているようだ。

民主党の有力な大統領候補であるバイデン氏は、各種調査でもトランプ氏との一騎打ちで支持率を大きく上回っているのだそうで、トランプ氏としてはなんとかバイデン氏が選挙に出てこられないようにしなければと必死だったのだろう。

思うに、自国第一主義と言いながら、国内で権力を握るにあたって充てにするのがいつも外国政府というのは、実に奇妙で危険な構図のように思える。 境地に陥ったトランプ氏が起死回生を期して何をしてくるのか、それもまた恐ろしいことのように思われる。

image by: Адміністрація Президента України [CC BY 4.0], via Wikimedia Commons

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ニュースステーションを皮切りにテレビの世界に入って34年。サンデープロジェクト(テレビ朝日)で数々の取材とリポートに携わり、スーパーニュース・アンカー(関西テレビ)や吉田照美ソコダイジナトコ(文化放送)でコメンテーター、J-WAVEのジャム・ザ・ワールドではナビゲーターを務めた。ネット上のメディア、『デモクラTV』の創立メンバーで、自身が司会を務める「デモくらジオ」(金曜夜8時から10時。「ヴィンテージ・ジャズをアナログ・プレーヤーで聴きながら、リラックスして一週間を振り返る名物プログラム」)は番組開始以来、放送300回を超えた。

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【著者】 内田誠 【月額】 月額330円(税込) 【発行周期】 週1回程度

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