国際交渉人が懸念。アジアを混乱に陥れるトランプ外交の袋小路

 

次に中東情勢全般での、アメリカ外交方針のシフト・大転換の兆しについてです。対イラン情勢については、残念ながら大きな変化はなく、相変わらず解決の糸口は開かれていませんが、最近になって大きく変わったのが、アメリカの“シリア絡み”のトルコへの対応と、サウジアラビアに対するコミットメントです。

トルコに関しては、すでに今回のメルマガの冒頭部分で触れましたが、トランプ大統領とエルドアン大統領との電話会談後、突拍子もなく「トルコは近々シリア北東部に侵入する。アメリカとしては厳重に抗議するが、特に介入は行わない」とのコメントがTwitterに投稿されました。

これはイランやシリアを勢いづけることになるとの考えから、アメリカの議会は非常に反発し、トルコへの制裁の強化を訴えたこともあり、すぐさま「一線を越えた場合は、トルコに対する非常に厳しい制裁を発動する」と立場を修正していますが、これまでのところ、トランプ大統領からは『その“一線”が何を指すのか』明らかになっていないことから、混乱は収まっていません。

その隙を狙ったかのように、10月10日トルコの地上軍が国境を超え、シリア北東部にあるクルド人地域への侵攻を行いました。シリア政府からは公式に抗議がなされていますが、アサド政権の後ろ盾の一つであるトルコ(ほかはイランとロシア)に対して、トランプ大統領同様、何か具体的な行動はとらない模様です。これで確実に、またクルド民族は見捨てられることになりますが、今回の不可解なトルコ・エルドアン大統領へのプレゼントは、間違いなく近いうちに、アメリカ国内外で、トランプ外交に大きな試練となりそうです。

しかし、興味深いのが、トランプ外交の方針転換とは直接的に関係はないかと思いますが、EUの外交的“無反応”です。これはエルドアン大統領のシリア北東部侵攻の“目的”に関連しています。今回の侵攻に際し、トルコはシリア北東部からクルド人武装勢力を追い出し、その地域にトルコに逃げてきたシリアからの避難民を移住させるとの計画を示しています。

EUとトルコの間の微妙な綱引き外交の主なイシューの一つが、『欧州各国に押し寄せるはずだったシリア難民をトルコで留めおく』という処置の継続性です。エルドアン大統領がEUに対して用いるカードとして、「もしEUがことごとくトルコの邪魔をするのであれば、国内のシリア難民の収容をやめて、欧州に送るか送り返す」という脅しがあります。

今回、そのシリア難民たちの移住の地の確保を目的としているとのことなので、EU各国はあまり厳しい非難を行っていません。この欧州のチョイスが今後、どのような結果を招くのか。アメリカの実際の反応の方向性と合わせて、先行きは非常に不透明です。

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