そして、最近、アメリカの対中東政策でじわじわ顕在化しているのが、アメリカによる『サウジアラビア切り』の兆しです。イスタンブールにある領事館で、ジャーナリストのカショギ氏を惨殺した事件に確実にサウジアラビアの“トップ”が関与していることが明らかになったにも拘らず、ビンサルマン皇太子をかばう姿勢を見せたトランプ政権でしたが、それを機に「もう面倒を見切れない」との心境に変化してきているとのことです。
そして、イラン問題と絡めて、サウジアラビアも当事者であるイエメン内戦の“調停”をアメリカが行うことで、何とか打開策を探っていたトランプ政権の方針に、サウジアラビアが真っ向から対立し、その後、発生したサウジアラビア東部の石油関連施設への攻撃の責任をイランになすりつけようとしたアメリカの姿勢にも迅速に対応しなかったことで、トランプ政権も業を煮やしたと言われています。
そこには、アメリカのほかに、中国やロシアにいい顔をする八方美人外交にアメリカが我慢しきれなくなったという点も指摘できます。加えて、アメリカ国内でシェール革命がおき、今や世界1位の原油・天然ガス輸出国に返り咲いたことから、中東、特にサウジアラビアへの原油調達依存度が著しく下がり、今このタイミングでの『サウジアラビア切り』にシフトしたのではないかと思われます。
その『サウジアラビア切り』に敏感に反応したのが、これまでイエメン内戦をはじめ、対イラン戦線でも盟友であったUAE(アラブ首長国連邦)で、先のサウジアラビア東部の油田へのフーシー派による攻撃(ドローンなどを用いた遠隔攻撃)を受け、地域の金融センターであるドバイを抱える国としては、同じようにターゲットにされてはたまらないと、急にサウジアラビアを裏切り、今ではフーシー派に付いているようにさえ思われる動きが目立ってきています。
実際にこれまで、サウジアラビアとともに支援してきた暫定政府側の軍を攻撃しています。またそれに対し、アメリカ政府もUAEの方針を支持する姿勢を示していることから、一気にアメリカ・トランプ政権によるサウジアラビア熱が冷めている気配が感じられます。
アメリカやUAEの“心変わり”を敏感に察知したのか、サウジアラビアのモハメッド・ビンサルマン皇太子は、最近、接近を続けているロシア・プーチン大統領や中国との関係を強めるような動きに出るのではないかと思われています。イラン憎し!!!では、イスラエルやアメリカと“共同戦線”を取ることができるかもしれませんが、今回の動きは、確実に中東における勢力地図の大幅な書き換えにつながるかもしれません。
同じく八方美人外交をしてアメリカを苛立たせるトルコとの連帯が、何らかの形で生まれるようなことがあれば、痛々しい歴史が繰り返され、再度、中東・アラビア半島が、列強諸国の草刈り場兼代理戦争の場、そして最悪の場合、新型兵器の実験場になってしまうかもしれません。
そして、しばらく続いてきた中東における非常に微妙な平和が一気に音を立てて崩れだすのも時間の問題でしょう。アメリカの次の大統領が決まるのが早いか。それとも中東発の世界戦争が始まるのが早いか。世界は今、再び非常に不穏で不安定な状況に陥っているように思われます。
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