父ブッシュ以来30年の回り道。「ポスト冷戦時代」が始まらない訳

 

ポスト冷戦時代への回り道

トランプが「西側」を否定したのは正しい。落ちついて考えれば誰でも分かることだが、「東側」が存在しないのに「西側」だけが存続することはありえない。今なお「西側」というものがあって、米国が引き続きその盟主だと思うのは、20世紀へのノスタルジアに寄りかかった幻覚にすぎないのだから、そこから抜け出そうとするのは結構なことである。

とはいえ、単に「西側」を抜けて「米国第一」で国益確保に専念するというのでは、世界にとってはもちろん、米国にとっても何の解決にもならない。米国がなすべきことは、「西側」を勝手に抜けることではなく、それを責任をもってキチンと終わらせて、ポスト冷戦ということはポスト覇権の多極化世界に適合した新しい国際関係原理に道を開くことである。

ゴルバチョフは責任をもって「東側」を終わらせたが、ブッシュ父は大いなる勘違いをして「西側」を終わらせなかった。そのためポスト冷戦時代を迎えるのに世界は30年以上も遠回りしなけれならなかったのだが、トランプのやり方ではまだその遠回りは続くことになろう。

英王立国際問題研究所のジム・オニール会長は、米中対立激化に突き進む米国に対して、次のようにアドバイスしている。

米国は、別の国の経済規模が米国を上回る勢いになったとしても、米国の富にとって脅威にならないことを理解する必要がある。むしろ米国をより豊かにする一助になることを受け入れるべきだというのが私の考えだ。   人口が10億を超える国はいずれ……米国のような人口が3億人強の国の経済規模を上回るだろう。同じように遠い将来、やはり人口10億人以上のインド経済が、米国の規模をしのぐと予想することも不合理ではない。   米国の知識人や政治指導者は、世界最大の経済という自負を捨てて先に進む必要がある。世界最大の経済規模であること自体は、何の意味も持たないだろう。米国の政策決定者は最大でなくなることを恐れるあまり、他国の経済が米国より大きくなることを阻止するためだけに、手段を選ばず行動する可能性がある……。(10月12日付 日本経済新聞)

ブッシュ父のように「唯一超大国」と思い込むのも、トランプのように中国を叩けば自国が蘇るかに夢見るのも、「自分が一番でいたい」がための足掻きであるという意味では同次元ということである。そこに思い至らない限り米国の先行きはない

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