「不寛容の時代」と言われて久しい現代社会ですが、カスタマーハラスメントも世界規模の問題となっているようです。今回の無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』で編集長の柴田忠男さんが取り上げているのは、そんなカスハラの実態を放送したNHK「クローズアップ現代+」取材班による一冊。なぜモンスタークレーマーはここまで増えてしまったのでしょうか。
偏屈BOOK案内:NHK「クローズアップ現代+」取材班 『カスハラ モンスター化する「お客様」たち』
『カスハラ モンスター化する「お客様」たち』
NHK「クローズアップ現代+」取材班 著/文藝春秋
カスハラ……カスタマーハラスメント、知らなんだ。NHK「クローズアップ現代+」で2回放映し、大反響を呼んだ「カスハラ」の実例と分析、処方箋を、放送し切れなかった情報までまとめて書籍化、というもの。ここ何年もテレビ番組はほとんど見ないから、気がつかない。お客様は神様、ではなくてモンスター。セクハラ、パワハラと並ぶカスハラは、世界的な現象になっているという。
そういえば、毎日買い物に行く妻が、またイヤなものを見たと話していた。レジ前で小銭入れからコインを出すのに難渋していた老婦人がいて、その後ろに並んでいた爺さんがいきなり無言でレジのデスクを激しく叩いて、別のレジへ向かった。老婦人は怯えていたが、レジの女性は「また、いつもの人ですよ」と言っていたという。わけわかんないモンスターじじいはよくいるらしい。
カスハラを受けた事例が6件、元クレーマーの50歳男性の告白、カスハラ対策例が3件、読み応えあり。取材者はカスハラに詳しい大学教授に、クレーマーの実像や登場した背景などを聞く。「最近のクレームの傾向や特徴があれば教えて下さい」って、NHKよお前もか、最近インタビューで「教えて下さい」という幼稚な問いかけが耳障りだ。傾向や特徴はどういうものですか?だろうが。
教授の説明によれば、普通なら見過ごすようなことで引っかかる人が増えている、これが限界という怒りの沸点が下がってきていて、「ちょっとしたことで逆鱗に触れてしまう、そういう傾向が見て取れる」という。おいおい、逆鱗の用法が違うだろうが。目上の人、地位の高い人を激しく怒らせてしまうという意味だぞ。教授も編集者もNHKもみんなアホだ。というわたしはクレーマー?
こういったクレーマーが増えたのは、団塊の世代が退職し始める時期と重なる。現在高齢者の団塊の人、なかでも高学歴、高所得、社会的地位の高い人からの、筋論的な、わりと上から物を言う「権威型」「説教型」が多いらしい。しかし、沸点が低いのは高齢者だけでない。いまや年齢は無関係だ。さらに因果関係が無茶苦茶なケースもある。自分の不注意を平然とメーカーのせいにしたりする。
悪質なクレームが増えている理由は、過剰サービスによる過剰期待、情報化社会の影響、社会の疲労による不寛容、格差社会の進行、所得が大きく伸びていないこと、言語能力の低下、消費者を甘えさせた日本の企業風土、労働者への想像力の欠如、人手不足などいくらでも挙げられる。抑え込む手はないようだ。
元クレーマー・堀さん(仮名・50歳男性)が26ページにわたり登場。冷静な普通人がクレーマーになる至った状況を自己分析していて、非常に興味深い。元コンビニのオーナーだった人だ。経験上、よかれと思って言うべきことを言うと、それはクレーマーだとSNSで祭り上げられ、怖くなってなにも言えなくなったこともある。クレーム=悪であるという一方的な決めつけは間違いだ。
それでもクレームを繰り返す。そこには二つの感情の要素があって、ひとつは虚栄心というか、相手を攻撃しながら自分の心を満たし、もうひとつは攻撃していることに対する罪悪感があるという。いまシルバーモンスターが増えている。ごく普通の体裁の単行本なのに1,650円!高過ぎる!文句をつけるだけのわたしだが、カスハラではない。一字違いのカステラ、大好きです。
編集長 柴田忠男
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