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軍事アナリストが警戒。シュライバー米国防次官補の退任の意味

米国防総省インド太平洋安全保障担当のシュライバー氏が年内にも退任の意向との報道がありました。メルマガ『NEWSを疑え!』を主宰する軍事アナリストの小川和久さんが、トランプ政権で相次ぐ政府高官の退任、とりわけ対中強硬派のシュライバー氏の退任の意味を解説し、注意が必要だと呼びかけています。

シュライバー退任の意味

トランプ政権の安全保障政策、とりわけインド太平洋方面への関与を占うキーパーソンが表舞台から姿を消そうとしています。

アジア担当の国防トップ退任へ 米政権、選挙前に進む空洞化
  「米国防総省のシュライバー国防次官補(インド太平洋安全保障担当)が近く退任することが11日、複数の関係者への取材で分かった。北朝鮮情勢が緊迫する中、インド太平洋地域を統括する高官の退任が米国の安全保障政策に影響を与える可能性もある。トランプ政権では政府高官の辞任が相次いでおり、来年秋の大統領選を前に空洞化が一層進むとみられる。
  関係者によると、シュライバー氏は年内にも退任する意向を伝えた。国防総省は時事通信の取材に回答していない。同氏は2017年10月にトランプ大統領に指名され、18年1月に就任した」(12月12日付 時事通信)

13日付の産経新聞は、退任の理由を「家族と一緒に過ごす時間を確保するため、多忙な職務から退く判断をした」と伝えています。

読者諸賢はご記憶のことと思いますが、このメルマガでは過去に2回、シュライバー氏を取り上げています。2017年11月2日号の編集後記と2017年2月9日号のストラテジック・アイ「トランプの対中政策を握る男」です。

その中で、対中強硬派というだけでなく、台湾側と非常に近い関係にあること、シュライバー氏が主宰するシンクタンク・プロジェクト2049は中国の軍事問題について高い知見を有しており、台湾側には民進党か国民党かを問わず、強力な財政面のスポンサーが存在すること、再選が有力視されている蔡英文総統が就任時の訪米でシュライバー氏と秘密裏に会食したことなどをお伝えしました。以上については、バックナンバーをご参照いただければ幸いです。

このシュライバー氏は、おりに触れて日本政府が意見を求めるリチャード・アーミテージ氏のアーミテージ・アソシエイツのパートナーであり、私も2回、会ったことがあります。

トランプ大統領は、アーミテージ氏が批判的な発言をしていることに不快感を示しており、当然、シュライバー氏についてもアーミテージ人脈とみなしていると思われたのですが、それを抜擢したのは手腕を高く評価してのことと思われます。

シュライバー氏は国防次官補に就任したあと、期待に応えるかのように対中強硬姿勢を鮮明にしていきます。日本に関係するだけでも、「尖閣諸島は日本の施政権下にあり、日米安保条約の適用対象」(2018年11月21日)、「中国民兵の漁船と中国海軍と区別しない」(2018年11月22日)といった発言は記憶に新しいところですし、韓国との日韓GSOMIA(包括的軍事情報保護協定)についてもアメリカ側に事前通告がなかったことを公表、韓国側に協定破棄の再考を促しています。

このようにながめると、シュライバー氏の退任は、トランプ大統領が中国との経済問題を関税の一部引き下げなどの形で決着させ、それを成果のひとつとして来年11月の大統領選挙に臨む姿勢を示しており、中国側とのディールの中で対中強硬派のシュライバー氏の退任が条件になったとも囁かれています。

同様に、北朝鮮に対しても強硬派のボルトン大統領補佐官を更迭してシグナルを送ってきたトランプ氏です。日本としては、中国だけでなく、北朝鮮を「着地」させるうえで示唆に富んだシュライバー氏の退任だと受け止め、注意を怠らないことが肝要です。(小川和久)

image by: United States Department of Defense [Public domain], ウィキメディア・コモンズ経由で

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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