女子高生土砂崩れ事故で判った、手つかずの危険箇所と行政の後手

 

それにしても、穏やかな晴れの日にいきなり斜面が崩落したのはなぜでしょうか。原因の調査はこれからですが、専門家の見解としては、「過去の雨や地震などで斜面全体にひずみが徐々に蓄積され、それが限界になったのではないか」「上のマンションの水道や排水管からの水漏れなども原因になる可能性がある」「現場は下の部分に石積みの擁壁があり、上の部分はむきだしになっている。このようなつくりでは上の部分が相対的に緩くなるので、そこが崩壊したのではないか」「土砂が緩んでいると、下の道を大型車両が通過するなど、ちょっとした振動が引き金になることもある。最近、関東で地震が続いたので、それが最後の引き金になったのではないか」等々が言われています。

この事故に関して、斜面下の市道を管理する市は崩落などの危険の予兆は、特に把握していなかった、昨年秋の台風でも崩落などの被害はなかった…としています。ということは、斜面・擁壁を抱えるところは、いつ、自分のところで崩落が起きても不思議はないのです。一番の問題は、斜面が民有地の場合、斜面が崩れる可能性があることや、対策をとる必要性などを管理責任を持つ住民が把握していないことです。

斜面・擁壁を抱えるマンションは、これをきっかけに、そのリスクを正確に把握することが必要になります。住民も不安でしょうから、ディべロッパー、建築会社、管理会社が総力を挙げて、調査を行い、住民に説明してほしいと思います。その上で、危険があると判断したら、行政と連携して早急に対策を進める必要があります。

今回の事故に関しては、これから管理組合、ディベロッパー、管理会社、行政等関係者の間で、責任の所在について様々なせめぎあいがあると思いますが、責任の押し付け合いでなく、早く対策に進んでもらいたいと思います。擁壁の老朽化は進み、地震の発生危険や集中豪雨、台風の激しさは急速に増しているのですから。

2018年6月18日に発生した大阪府北部地震で、ブロック塀が倒壊し、登校中だった4年生女児が下敷きになり亡くなった事故のことが、頭をよぎりました。この事故をきっかけに、国土交通省は全国でブロック塀を調査し、ブロック塀の安全対策に本格的に着手しました。ブロック塀の所有者・管理者が安全対策を怠ってはならないのと同様、今後、斜面・擁壁の所有者・管理者に、安全対策が本格的に求められるはずです。といっても、行政の支援がなくては、安全対策は進みません。

崩落事故の犠牲になった女子高生の方はほんとうにお気の毒です。せめて、この事故をきっかけに斜面・擁壁の安全対策が進むことを祈ります。犠牲者が出ないと対策を本気で考えないという国の姿勢に、納得いかない思いは消えませんが…。

image by: Shutterstock.com

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【著者】 廣田信子 【発行周期】 ほぼ 平日刊

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