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安倍首相「先手先手で」は焦りの裏返し。ウイルス対策の後手後手

国内で初の死者も出てしまった新型コロナウイルス感染症。クルーズ船内での感染者数も増え続け、多くの乗員乗客が厳しい状況に置かれています。こういった事態への政府の対応を新聞各紙はどう評価しているのでしょうか。ジャーナリストの内田誠さんは、自身のメルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』で、朝日、読売、毎日、東京4紙の論調を詳しく解説。後手後手に見える対応や対策の原因が突き詰められていないと指摘しています。

「新型コロナウイルス」感染拡大における政府の対策を各紙はどう報じたか?

ラインナップ

◆1面トップの見出しから……。

《朝日》…中国からの来日拒否 拡大
《読売》…マスク増産・輸入支援
《毎日》…クルーズ船5人重症
《東京》…4人重症 検疫官も感染

◆解説面の見出しから……。

《朝日》…中国 企業ジレンマ
《読売》…序盤 2強の様相
《毎日》…ブティジェッジ氏 勢い
《東京》…新型肺炎 政府後手

【プロフィール】

政府の新型コロナウイルス肺炎に対する対策について、各紙がどう言っているか、みてみましょう。うまく、ササッとまとめられますかどうか…。きょうは各紙ごとに記事や議論を紹介します。

■中国の方向転換■《朝日》
■日本政府はチャンとやっている?■《読売》
■治療体制の早期構築を■《毎日》
■後手に回った政府の対策■《東京》

中国の方向転換

【朝日】の記事を通覧すると、最も強く印象に残るのは、中国政府が1つの状況判断を行い、新型コロナウイルス肺炎対策を今までとは逆の方向に展開させようとしている姿であり、住民の移動制限まで敢行してウイルスを封じ込めようとしていたこれまでとは逆に、労働と日常生活のリズムを取り戻しながらウイルスと闘うという、ある意味では離れ業を市民に要求し始めているということだ。

その判断の元になっているのは感染者の増加の仕方の変化で、全体の感染者数は増えているが、その多くは湖北省内の感染者であり、それ以外の地域では増加率が下がってきているということがあると。

中国政府の最大の関心事は、今年の経済目標を達成することのようで、そのためにはもう生産を再開しなければ間に合わないということがあるのだろう。しかし、仮に状況判断が間違っていたら、一気に全土で感染が拡大する危険性も残っている。何しろ、症状がない状態の感染者からも感染が起こりうるウイルスであり、クルーズ船では検疫官まで感染してしまっている。

だからなのかどうか、日本政府の対応はむしろ厳しくなってきている。来日拒否のエリアを拡大するなど、「水際対策」を強化しつつある。さすがに「感染症危険情報」のレベルを引き上げるには至っていないが、外務省は在留邦人や渡航検討者に「日本への早期の一時帰国や中国への渡航延期を至急ご検討ください」としていて、これまでの「積極的にご検討ください」という表現を一段階引き上げている。

日本政府はチャンとやっている?

【読売】は「マスクの増産と輸入」への政府の支援、安倍氏が対策会議で公表した「浙江省からの入国拒否」、国会で質疑の対象になった「病院船の配備検討」と、基本的にはこの問題に関する最新の政府の動きについての記事が目立っている。

あとは、新型肺炎の影響で中国の子会社への監査業務が行えないなどの事態に対する対応として、決算の延期が容認されるという話も経済面に。

相変わらず、《読売》から伝わってくる最も強いメッセージは、政府がしっかりやっているという印象だが、はたしてそれは実態に近いのだろうか。

クルーズ船「ダイヤモンドプリンセス」の3千数百名の乗客らは、およそ2週間も船内に留め置かれることになっているが、なぜにいっせいに検査を行うことができないのか。満足がいくような説明はどこにもみられない。検疫法上、船内に留め置くことは可能だという説明はあっても、なせ、すぐに感染の有無を検査することができないのか。下船につながる措置が取られない理由が分からない。

治療体制の早期構築を

【毎日】は、日本国内で感染を心配する人々の気持ちに寄り添おうとしている。2面の「焦点」では、「中国を中心に広がる新型コロナウイルスの感染を心配する人らが医療機関に相談するケースが相次いでいる」として、そうした声に対応するのに本来必要な「簡易検査キット」が未だ開発中であること、現在の検査対象は症状のある人に限られていて、発症前14日以内に湖北省に渡航するか居住していたか、あるいはそうした人と濃厚接触があった人などで、ただ渡航歴の有無にかかわらず、入院が必要と判断された人については検査の対象になるということが強調されている。

政府は、基準外の場合でも柔軟に検査すると言うようになっているが、院内感染をうかがわせる事例、検疫官の感染ということも起こっており、その意味でも国内の治療体制の構築が必要になってくると。既に都立駒込病院などは、感染が疑わしい場合は病院への入り口や通路を完全に他の患者と別にするなどの態勢を整えているという。

後手に回った政府の対策

【東京】は2面の解説記事「核心」で「新型肺炎 政府後手」との大見出し。《読売》とは鋭い対照を見せている。感染者が増え続けているのに、政府の対応は追いつかず、「対処方針も二転三転。危機管理が後手に回っている」とリードで指弾している。

対策会議の場で安倍氏が「先手先手で対策を総動員してほしい」と全閣僚に指示したことに対して、記者は「感染対策に対する焦りの裏返し」と読み取っている。

クルーズ船内で感染したと思われる検査官が、防護服を着ていなかったことについて、国民民主党の泉健太氏が「不思議だ」と指摘していることを紹介。また与党からも公明党の議員が、自宅待機させた帰国者からの感染確認を「ちぐはぐ」と指摘し、「例外は認めない方がいい」と苦言を呈したこと。また健康状態の観察期間について2転したことで「現場の混乱を招いた」ことなど。

確かに対応が「ちぐはぐ」だったり、二転三転したことなどもあるが、その原因はもう少し具体的に突き詰められないものかと、記事を読んでいて思った。クルーズ船に留め置かれている3千人以上の人たちに対するPCR法による本格的な検査も、1週間あれば十分可能だという専門家もおり、では何が障害になって検査がなされないのか、分からない。感染症に対応する部局は厚労省結核感染症課と思われるが、そこで指揮を執っている医官(医師の資格を持つ高級官僚)の判断力の問題という可能性はないだろうか。

image by: S and S Imaging / shutterstock

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ニュースステーションを皮切りにテレビの世界に入って34年。サンデープロジェクト(テレビ朝日)で数々の取材とリポートに携わり、スーパーニュース・アンカー(関西テレビ)や吉田照美ソコダイジナトコ(文化放送)でコメンテーター、J-WAVEのジャム・ザ・ワールドではナビゲーターを務めた。ネット上のメディア、『デモクラTV』の創立メンバーで、自身が司会を務める「デモくらジオ」(金曜夜8時から10時。「ヴィンテージ・ジャズをアナログ・プレーヤーで聴きながら、リラックスして一週間を振り返る名物プログラム」)は番組開始以来、放送300回を超えた。

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【著者】 内田誠 【月額】 月額330円(税込) 【発行周期】 週1回程度

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