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なぜテレビ番組を「卒業」?一般人が疑問に感じる芸能界の常識

新型コロナウイルスの影響により、例年とは趣きの異なる卒業シーズンを迎えていますが、所定の学業を終えた人には心から「おめでとう」の声をかけてあげたいもの。そんな「卒業」について、あれこれ考察するのは、メルマガ『8人ばなし』著者の山崎勝義さん。山崎さんは、テレビ番組などで「お疲れさま」の声とともに「今日で卒業です」と送られる様子に芸能界の偽善を感じ、そこに面白みも見出していいるようです。

「卒業」のこと

卒業の季節である。本来、国語における卒業とは学校等で所定の学業を学び終えることである。この時、つまり卒業式などで「おめでとう」の言葉を以て祝すのは学籍にあるそれまでを半人前あるいは修行中と見なし、それを終えた以上は一人前に一歩近づいた筈だという判断からである。

この「半人前の状態から一人前に」というところが大事で、ここから派生して例えば「ニート生活を卒業して定職に就いた」とか「独身は卒業して身を固めることにした」といった表現が可能となるのである。

逆に言えば「サラリーマンは卒業した」という表現が日本語として適格文となるか不適格文となるかは現在の状態次第ということになる。つまり「サラリーマンは卒業して起業した」なら適格であり、「サラリーマンは卒業してニートになった」なら不適格ということである。一般論としてはこれでいい。

ただこれが芸能界の話となると事情は大分変わって来る。例えば「アイドルグループ○○を卒業する」といった表現はどうか。前述の通り、その後の展望が例えば女優業に専念するとかハリウッドに挑戦するとかならそれはステップアップと言えるだろうから、まず適格としても良いであろう。

仮にその後芸能界を引退するにしても、以下に述べるような理由を以て適格とできるのではないか。まずアイドルと呼ばれる人たちのほとんどが高校生か大学生くらいの年齢に当たる点を考慮すれば、特殊な芸能科のある高校か大学で学んだのと同等かそれ以上の経験を積んだと確実に言えること。

またアイドルのほとんどが芸能人としてのキャリアをアイドルとしてスタートさせるから、アイドルであるうちは半人前あるいは修行中であると言って差し支えがないこと、などである。以上二例に関しては「卒業おめでとう」と言ってあげられる。

だが長期の休養期間を経ての卒業という場合はさすがに無理があるように思う。これを学校に例えるなら休学からの退学である。およそ卒業とは言えない。然るにこれを「卒業」と言うのは、どう考えても「脱退」の美辞的婉曲表現としか思えない。当人の無念さや悔しさを無視した、どこか冷淡な物言いのような気がしてならないのである。少なくとも「おめでとう」と言える状況などでは決してない。

同様に、テレビ番組などからの「降板」の美辞的婉曲表現としても「卒業」という言葉が使われる。より正確に定義すれば、出演者本人の不祥事によらない降板を卒業と言うようである。結局は、面白くなくなったとか人気がなくなったなどの理由でそのタレントが要らなくなっただけのことである。にもかかわらず「○○さん、今日で卒業でーす!」とMCが声高に言いながら花束を手渡すおなじみのくだりにはさすがに偽善的なものを感じざるを得ない。また、それが分かっているからこそ「おめでとう」ではなく「お疲れさま」なのであろう。

例外的に堂々と卒業と言っていいのは当該タレントに、より大きな仕事が入ってスケジュール的に両立が不可能となった時くらいであろう。そんな例が一体どれほどあるのだろうか。

そもそも日本人が日本語において、敢えて美辞的婉曲表現を使うのは心情的にどこかやましいところがあることの顕れとも言える。「おめでとう!」と感嘆符を付けて言えないようなら、やはり「卒業」とは言うべきではないのである。

それにしてもこういった美辞的婉曲表現が飛び交っているのが芸能界というのがちょっと面白い。やはり建前と本音、虚と実が入り混じる恐ろしい世界ということなのだろうか。おそらくそれほど大層なことでもなかろう。建前は建前のままに、虚は虚のままに、といったようなお約束(虚飾)の世界ということなのであろう。故にこの世界でのし上がって行くにはおよそ人間の持ちものとは思えぬような何かが必要なのかもしれない。

image by: MMpai / shutterstock

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ここにあるエッセイが『8人ばなし』である以上、時にその内容は、右にも寄れば、左にも寄る、またその表現は、上に昇ることもあれば、下に折れることもある。そんな覚束ない足下での危うい歩みの中に、何かしらの面白味を見つけて頂けたらと思う。

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