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「コロナ感染をマンション管理組合に届ける」ルールは必要なのか

未だ新型コロナウイルス感染者への偏見が根強い日本。そんな中にあって、感染の報告義務のルール化を検討するマンション管理組合も現れ始めているようです。この動きに疑問を投げかけるのは、マンション管理士の廣田信子さん。廣田さんは今回、無料メルマガ『まんしょんオタクのマンションこぼれ話』で、自身が知る3件の感染例を挙げつつ、報告義務ルールについて「いい方向には機能しない」と結論づけています。

マンションで感染者が出た情報の取り扱いは難しい

こんにちは!廣田信子です。

新型コロナウィルスの第二波、第三波に備え、マンションで感染者が出た場合の対応を考えている管理組合も多いと思います。

その中で、そもそも、感染者が出たことを把握しないと対応ができないので、マンション住民に「感染者が出たら管理組合に届け出る」ということのルール化が可能かという話があります。

そして、届け出があったら、マンションに感染者が出たことを住民に知らせ、注意を促すと共に、感染者が特定され、差別を受けないように配慮しつつ、感染者のサポートをするというのですが…。果たして、この仕組みは機能するでしょうか。

私が、マンションで住民に感染者が出たことを個人を特定できる形で知っているケースは3件しかありません。あれだけの感染者数ですから、かなり多くのマンションで感染者が出たのでしょうが、そのことを、管理組合として把握している、さらには住民に知らせされているケースはどれほどあるのでしょうか。

私が知っている事例の1件目は、自宅でコロナと思われる症状が悪化し、救急車が来て搬送したケースです。管理員さんが、それに立ち合ってサポートしたため、親族から、管理員さんにお礼とコロナ陽性であった旨の連絡があり、コロナだったことは内密に…と。

でも、管理員さんは、理事長だけにはそのことを報告。報告された理事長はどうしたらいいだろうと悩んだけど、親族に内密にしたいという意思がある以上、知らなかったことにしようと決め、住人にも、他の理事にも言わなかった…と。

ただ、救急車が来て、防御服を着た救急隊員が出入りしていたので、多少噂にはなり、理事長に問い合わせはありましたが、この時期、コロナ対応で、コロナであるかどうかにかかわらず、救急隊員の方は防御服を着ているのでわからないということで通したみたいです。

接触感染が心配な共用部分で、その住人に関係するエレベーターのボタンやドアノブ等は管理員さんが入念に消毒したようです(数日間、部屋から出ていないようなので、実際には、感染リスクは限りなく低かったのですが…)。

理事長は、感染者は病院に入院したんだから、もうこれ以上の感染リスクはない。コロナ感染者が出たことを住民に知らせていたずらに心配させることはない。もし、感染者が特定され、何か差別的な言動があったら、その方が、問題が大きい…と。

事例の2件目は、行政の感染者情報や個人的な情報網で、マンション内で感染者が出たことが、かなりの確率で特定できたケースです。

一部の理事の中で情報は共有したが、家族にも確認しなかったし、住人にも知らせなかった…と。一般的なコロナ対策の注意事項は、しっかり広報しているので、それで十分だと言うことと、やはり、感染者の特定や差別があった場合のことが心配だったためです。

事例の3件目は、個人的な知り合いからの話です。

知人の住戸の隣には、マスコミで名前が知られている人が住んでいて、お隣同士なので面識があったところ、テレビで、感染が疑われ自宅に籠もっていることを知った…と(後日、陽性が判明)。

でも、特に本人からも、管理組合からもそれに関しては何の情報もなかった。まだ、入居して日が浅いマンションだったので、同じ階の人も、ほとんどそのことを知らないようだった。でも、自分は知っているので、エレベーターのボタン等触らないように、かなり気をつけた…と。

でも、直接会わなければ、あとは接触感染に気をつければいいだけなので、それでよかったんじゃないか…と。

この3つの事例から思うのは、コロナは本人に自覚が無い陽性者もいるのですから、感染者が出ても出なくても、気をつけることは同じ。共用部分でのマスク着用や入館時の手指消毒を守るようにし、不特定多数の人がふれる箇所の消毒をまめにし、人の集まる集会室等の利用制限、又は感染対策を徹底する。管理組合として行うことは、それで十分ではないかと思います。

マンション内に感染者が出たと聞けば、どの部屋の誰かを知りたくなるのが人情です。同じマンションといっても、同じ階の住戸なのか、隣の棟なのかではまったく受け止め方が変わりますから。

噂が先行してしまう場合もあります。現に、防御服を着た救急隊が来たというだけで、コロナだったと噂になってしまったケースもありました。

「夜のまち」での感染が広がっているなどと言われれば、感染した人が、言われなき偏見にさらされることも考えられます。

感染したことを届け出ることを求めたり、感染者が出たことを住民に知らせるということは、いい方向に機能しないと、私には思えます。

image by: Shutterstock.com

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【著者】 廣田信子 【発行周期】 ほぼ 平日刊

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