香港の次は、台湾。「一国二制度」を崩した中華人民共和国の横暴

 

1997年に英国と中国政府が合意して香港が中国に返還されました。その際に署名され合意された「香港の自治に関する合意」によると、2047年までの50年間は香港の自治を尊重し、言論の自由を保障すると同時に、経済活動の自由も保証するとの内容が含まれています。

この合意に忠実に沿うのであれば、2047年を待たずに2020年に約束を反故にする内容を香港に押し付けるのは国際法違反(注:中英両政府は、この合意を国際条約として国連に登録したから)という解釈になり、アメリカや旧宗主国英国が行う中国への非難は当然というように捉えることが出来るでしょう。

しかし、そもそも香港がアヘン戦争(1839年)の結果、英国領として植民地化された歴史まで遡り、第2次世界大戦後は中国共産党への対抗として1949年以降、米欧が民主主義と自由経済のシンボルとしてのステータスを香港に押し付けたという史実を考慮した際、「不当に英国に奪われた自国の土地を取り戻し、現政権が中国への復帰をcompleteするのは当然の結果であり、それを過去に横暴に奪い去った者たちから批判される謂れはない!」という北京の主張も一理あるように感じたのです。

それでも、今回、施行された香港国家安全法は行き過ぎた“賭け”だと考えますし、民主化運動への激烈な弾圧行為に対しては全く支持しませんし、中国本土でずっと繰り返されている人権弾圧(新疆ウイグル自治区など)は絶対に看過できませんが、私たちが日々メディアを通して見聞きする中国批判も、100%純粋に人権擁護や自由の確保という理由からなされているものではないと感じています。

それは欧米や日本にとっては、政治・外交的な立場表明でしょうし、何よりも長年築き上げてきた【アジア市場への窓口】としての自由経済・香港の維持という経済的な既得権益の保持という側面は否めず、こちらはこちらで自国中心的な思惑が透けて見えます。

例えば、7月2日に菅官房長官が明かした数字によると、香港には在留邦人は約2万4,000人いて、約1,400社の日本企業がビジネスを行っているとのことですので、「在留邦人の安全の確保」という大前提に即せば、中国に対して邦人保護を要請する観点から“懸念の表明”は適切だと思いますし、尖閣諸島問題などと一緒くたにせずに、懸念の的を香港国家安全法とその邦人保護の観点に対するimplicationsに絞っているのは日本外交の賢明な姿だと思います。そのことは北京も重々承知で、邦人が不条理に危害が加えられることはないとのことですが、香港の扱いについて外国から難癖をつけられる謂れがないとの立場については明確に主張を繰り返し、批判的に捉えられる要素については日本に対して反論しています。

しかし、アメリカや欧州各国については、日本と同じような“冷静な”対応は、国内世論的にも、ビジネス的にも、そして歴史的にも取ることが出来ず、YESかNOかという二元論的な視点で中国と真っ向から対立する他ありませんが、ご存じの通り、コロナ禍で課せられる諸々の制限ゆえ、中国政府に対してのcritical hitを打ち出せていません。英国はBrexit問題を今年中にケリをつけないといけないというジレンマを抱えていますし、欧州各国も国内での分裂に悩まされ、そしてアメリカは大統領選挙を11月に控えており、必ずしもトランプ大統領有利とはいえない状況ですし、Black lives matter(BLM)に代表される分裂が政府にunified actionsを取らせていない混乱に陥っています。

今回、急ピッチで習近平国家主席と政権が進めた香港国家安全法の制定と施行は、内容的には褒められたものではないと思いますが、中国政府にとっては、恐らく、国際的な批判を浴びせられたとしても、One China構想を一気に前進させる契機は“今しかない”との判断から、アメリカをはじめとする諸国が中国に対してのcritical hitを打ち込んでくる前に押し切った感が満載だと考えます。

習近平体制が苦々しく感じてきた香港における民主派を抑え込むには、9月の立法府選挙の候補者申し込みが始まる7月18日までに法施行を強行し、民主派の一掃を目論み、香港の中国化を現実にするとの狙いが見えますし、香港国家安全法による“恐怖”を演出して、香港市民の政治意識を削ぎ、「北京の言うことを聞いていれば、無用な批判をしなければ、香港市民の繁栄は保証される」といううま味を見せることで、長年の狙いを完成させるものと考えます。

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