MAG2 NEWS MENU

働いたのに年金が減らされる?泣き寝入りしないための年金受給術

老後は年金生活で悠々自適…などと考えられていた時代ははるか昔。どうやって老後の生活を送るか、真剣に考えなければなりません。年金が少しでも増える方法があれば教えてもらいたいくらいですよね。メルマガ『事例と仕組みから学ぶ公的年金講座』の著者で年金アドバイザーのhirokiさんは、働き続けることで年金を増額させることができるという一方、注意しないと逆に損をしてしまうと語っています。

年金で絶対に損をしたくない!事例と仕組みから学ぶ公的年金講座のメルマガはコチラ

年金受給で損をしないためには?

60歳到達後も継続して在職するという形が一般的となって、なんだか70歳まで働くのが今後の標準になってきそうですよね。60歳以降70歳までは厚生年金に加入する事が出来るので、働き続ける事は退職後の年金を増額させるという点でメリットはあります。

ところが単に厚生年金の加入月数を増やすぞー!と頑張っても、逆に損をするような事態に陥る事も有り得るのが年金制度です。あとで損をしたと気付いた時に、「そんな仕組み知らなかったから取り消してほしい!」と思っても、取り消せるような事はほぼありません。

なので、あらかじめ働き続けるにしても、働く事でどういう影響が生じるのかという事を考えておく事は大切です。

さて、60歳以降も働く事により一番問題になるのは、年金が停止されるかどうかの在職老齢年金の問題でありますが、それだけでなく配偶者の年金にも注意しておかなければなりません。

よく20年以上の厚生年金期間があると、配偶者加給年金が付くからオトクという事が言われます。でも逆に、20年を達成したがために配偶者の年金を減らす結果にさせてしまったという事態もあります。

配偶者加給年金は年額390,900円もの額なので、これが無くなってしまうというのはかなり痛いです。とはいえ、例えば妻に加給年金が付いていたとしても、夫が65歳を迎えたら加給年金は無くなってしまいますけどね^^;

配偶者が65歳になってしまうと、年金受給資格期間10年以上を満たしている人であれば、配偶者自身に老齢基礎年金が支給されて、本格的な年金受給者になるので家族手当としての加給年金は消滅します。でも中には65歳までの間に、働き続けたがために配偶者加給年金が全額消えてしまったという後悔も生じてしまいます。

それは20年になるかならないか、というタイミングをしっかり把握しておく事です。

今回は、年金を貰う年齢になったけど、継続雇用で60歳から65歳までの間に20年以上を満たしてしまう人の例で考えていきましょう。考える点は、本来の支給開始年齢の場合、途中で退職する場合、20年になろうがそのまま働き続ける場合の3点です。

1.昭和34年11月11日生まれの女性(令和2年中に61歳になる人)
(昭和28年9月5日生まれのすでに65歳以上の夫がいる。老齢厚生年金に配偶者加給年金が付いている)

(令和2年版)何年生まれ→何歳かを瞬時に判断する方法!
絶対マスターしておきたい年金加入月数の数え方

この女性は15歳年度末の翌月である昭和50年4月から昭和53年3月までの36ヶ月間は厚生年金に加入する。平均給与(平均標準報酬月額)は15万円とします。

昭和61年3月までの年金制度は厚生年金は20年以上無いと貰えない制度だったので、中途半端な期間の場合はそれまで支払った保険料を返す脱退手当金という制度があった(脱退手当金は昭和61年4月以降は原則として廃止)。

特に女性の場合は厚生年金期間が短期間になる事が多かったので、脱退手当金を請求する場合が比較的多かった。この脱退手当金というのは女性のためにあるような制度でもありました。

当時、女性に関しては昭和29年5月から昭和53年5月までの間に2年以上の厚生年金期間があり、退職していたら生年月日に関係なく脱退手当金は貰えた。なお、現在脱退手当金を請求できるような人はほぼ皆無に等しいのであまり気にする必要は無いですが、一応どのくらい貰ったか現在の賃金価値で計算してみます。

・脱退手当金額→平均標準報酬月額(年金と違って過去の賃金の再評価はしない)15万円×36ヵ月以上の人の支給率0.9=135,000円

随分前の事なので貰ったかどうかわからないという人も多いですが、その場合は年金事務所の記録に残ってるので、聞きたい方は聞いてみるといいですね^^

一応、脱退手当金を貰った期間はカラ期間になるので(昭和61年4月以降に年金保険料を支払ったとか免除期間がある必要がある。カラ期間にする場合は20歳未満の期間でも構わないけど、昭和36年4月から昭和61年3月までの間の厚年期間がカラ期間対象)、年金を貰う時に意外な力を発揮する事はある。

さて、脱退手当金はこの辺にして進みましょう。昭和53年4月からサラリーマンの夫と婚姻したが、まだこの時点では20歳になっていないので国民年金には加入も何もない。

20歳になる昭和54年11月から国民年金に加入する事になるが、サラリーマンの夫の妻だったので国民年金には任意加入だった。将来の事が不安だったので任意加入して昭和61年3月までの77ヶ月間は国民年金保険料を納めた。ついでにこの77ヶ月間は付加年金の保険料を納める(余談ですが付加年金は昭和45年10月からの制度)。

昭和61年4月からはサラリーマンの専業主婦は国民年金に強制加入となり、国民年金第三号被保険者となった。保険料を納める必要は無かったが、保険料をちゃんと納めたものとして平成13年10月までの187ヶ月間は国民年金第三号被保険者期間。

育児からもだんだんと解放されてきたので、再就職先を探していたが、平成13年11月に就職する事が出来て厚生年金にも加入する事が出来た。それ以来、働き続ける事となる。(老齢基礎年金額の計算の基になるのは、20歳になる昭和54年11月から60歳前月の令和元年10月までの480ヵ月の間)

さて、この女性は厚生年金の支給開始年齢は61歳(令和2年11月)ですが、一旦ここで61歳前月までの記録で年金を請求により支給する。

平成13年11月から令和2年10月までの228ヶ月間は厚生年金。

なお、平成13年11月から平成15年3月までの17ヶ月間の平均標準報酬月額は12万円とし、平成15年4月から令和2年10月までの211ヶ月間の給与と賞与を合計して平均した平均標準報酬額は35万円とします。

・令和2年11月の61歳からの老齢厚生年金(報酬比例部分)→12万円×7.125÷1000×17ヵ月+35万円×5.481÷1000×211ヵ月=14,535円+404,772円=419,307円(月額34,942円)

ところで、この女性が61歳時点での夫(昭和28年9月5日生まれ。平成30年9月に65歳到達)の年齢はすでに65歳を超えています。なので、65歳からは配偶者加給年金390,900円が夫の老齢厚生年金に加算されていた。妻が年金を貰い始めた事で、何らかの影響があるかもしれないと思っていたが、夫の年金には特に何も変化は無し。

しかしながら女性は61歳以降も継続雇用で働き続ける事になった。最近は70歳まで働くというような世間の流れになっていたが、体力に自信が無かったのでせめて65歳までには辞めるつもりだった

61歳以降は標準報酬月額20万円で働くとします。賞与はなし。

さて、年金受給後も働き続ける事で何か変化は出てくるのか。

まず62歳(令和3年11月)時点で辞めるとする。そうすると退職した月の翌月からは年金額が再計算される(退職改定)。

・退職改定により増額する年金→20万円×5.481÷1000×12ヵ月=13,154円
なので419,307円+13,154円=432,461円となる。

ところが、62歳時点で61歳時点の厚生年金期間228ヵ月+12ヶ月分=240ヵ月となってしまったので、夫の配偶者加給年金は令和3年12月分から全額停止となる。

退職改定で13,154円増えたのに390,900円が消し飛んだ形になりましたね^^;

更に妻が65歳になった時は夫の配偶者加給年金から振り替えられる振替加算26,988円(年額)も、厚生年金期間が20年以上ある年金を貰えてるから加算されない。

振替加算額(日本年金機構)

62歳から65歳までは、この妻は432,461円(月額36,038円)の年金を受給する。

【※参考】
62歳退職後は妻は失業手当を受給すると思いますが、失業手当受給中は妻の老齢厚生年金は全額停止するので、全額停止中は夫の配偶者加給年金は支給される。

65歳になると老齢基礎年金と、老齢厚生年金の差額加算も発生する。

・老齢基礎年金→781,700円÷480ヵ月×(任意加入77ヵ月+3号187ヵ月+60歳前月までの厚年216ヵ月)=781,700円
・付加年金→200円×77ヵ月=15,400円
・老齢厚生年金(差額加算)→1,630円(令和2年度定額単価)×240ヵ月ー781,700円÷480ヵ月×216ヵ月(20歳から60歳までの国民年金同時加入となる厚年期間)=391,200円ー351,765円=39,435円

よって、年金総額は老齢厚生年金(報酬比例部分432,461円+差額加算39,435円)+老齢基礎年金781,700円+付加年金15,400円=1,268,996円(月額105,749円)

じゃあ61歳以降も働き続けると62歳で夫の配偶者加給年金が支給されなくなる事を考えると、62歳になる前に退職するしかないのか(240ヵ月にならないためには少なくとも令和3年10月30日までに退職。10月31日に退職すると10月まで期間がカウントされてしまって240ヵ月になってしまう)。

まあ、239ヵ月で退職すれば夫の配偶者加給年金は、妻が65歳になるまでは止まりません。更に65歳になれば振替加算26,988円も付く。

とはいえそう都合よく退職出来ない事もありますよね。そういう時は62歳以降も退職せずに65歳まで働き続ければ、妻が65歳になるまで夫に配偶者加給年金が支給され続ける事になります。

え?厚生年金期間が240ヵ月になったら配偶者加給年金止まるでしょ?というのはやや誤解があります。さっきの退職改定で「年金額を再計算」して、「240ヶ月分の厚生年金」を貰い始めると配偶者加給年金が止まるんです。

退職せずに働き続けると「年金額を再計算できない」ので、再計算しない限りは61歳時点の228ヶ月分の厚生年金を貰い続ける事になる。

つまり62歳になっても退職せずに在職し続ける限りは配偶者加給年金は止まらないので、65歳までは安心して働いてもらって構わない。65歳まで退職する事無く働くとすれば、夫の配偶者加給年金も停止すること無く、妻の年金もできるだけ増やす事が出来る。

・61歳から65歳までの48ヵ月働いた場合の老齢厚生年金(報酬比例部分)→20万円×5.481÷1000×48ヵ月=52,618円増額。

・老齢厚生年金(差額加算)→1,630円×276ヵ月(平成13年11月から65歳前月の令和6年10月までの厚年期間)ー781,700円÷480ヵ月×216ヵ月(20歳から60歳までの国民年金同時加入の厚年期間)=449,880円ー351,765円=98,115円

よって、65歳まで働いた場合の妻の年金総額は老齢厚生年金(報酬比例部分419,307円+退職改定52,618円+差額加算98,115円)+老齢基礎年金781,700円+付加年金15,400円=1,367,140円(月額113,928円)

振替加算は65歳から20年以上の厚生年金が貰えるようになるので加算されない。振替加算がどうしても欲しいなら令和3年10月30日までに退職するしかないですね(笑)それでは今日はこの辺で!

年金で絶対に損をしたくない!事例と仕組みから学ぶ公的年金講座のメルマガはコチラ

image by : shutterstock

年金アドバイザーhirokiこの著者の記事一覧

佐賀県出身。1979年生まれ。佐賀大学経済学部卒業。民間企業に勤務しながら、2009年社会保険労務士試験合格。
その翌年に民間企業を退職してから年金相談の現場にて年金相談員を経て統括者を務め、相談員の指導教育に携わってきました。
年金は国民全員に直結するテーマにもかかわらず、とても難解でわかりにくい制度のためその内容や仕組みを一般の方々が学ぶ機会や知る機会がなかなかありません。
私のメルマガの場合、よく事例や数字を多用します。
なぜなら年金の用語は非常に難しく、用語や条文を並べ立ててもイメージが掴みづらいからです。
このメルマガを読んでいれば年金制度の全体の流れが掴めると同時に、事例による年金計算や考え方、年金の歴史や背景なども盛り込みますので気軽に楽しみながら読んでいただけたらと思います。

有料メルマガ好評配信中

  メルマガを購読してみる  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 事例と仕組みから学ぶ公的年金講座 』

【著者】 年金アドバイザーhiroki 【月額】 ¥770/月(税込) 初月有料 【発行周期】 毎週 水曜日 発行予定

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け