新型コロナウイルスの影響でスポーツの大会やイベントはことごとく中止になり、競技によっては練習も制約があって、モチベーション維持に悩む競技者が多くいます。メルマガ『届け!ボディメイクのプロ「桑原塾」からの熱きメッセージ』著者の桑原弘樹塾長は読者の質問に答え、やる気向上に関わる「カテコールアミン」について解説。ドーパミンもノルアドレナリンも副作用があり分泌されるほどよいわけではなく、バランスを保つことが重要と説明しています。
カテコールアミンとは何ぞや
Question
多くの大会が中止となり、トレーニングにも練習にもヤル気が起きません。知り合いがカテコールアミンなるものを増やせばいいのだと言うのですが、いったい何ものでしょうか。そもそも簡単に増やす事は可能なのでしょうか。(35歳、男性)
桑原塾長からの回答
カテコールアミンとは神経伝達物質の事で、アドレナリン、ノルアドレナリン、ドーパミンを指します。そしてこれらの材料となるのがチロシンです。カテコールアミンはどれも脳内の神経伝達物質ですが、ドーパミンはノルアドレナリンの前駆体となり、またノルアドレナリンはアドレナリンの前駆体という関係なので、それぞれが関連しあって成り立っている物質でもあります。
覚醒していく際に増える物質であるため、日中の活動的なシーンにおいては必要となり、逆に夜間の沈静を必要とする際には増えすぎないようにしたい物質となります。
トレーニングに向けては、覚醒に必要な神経伝達物質が優位になる事はいいことですが、チロシンを飲んだから即覚醒するかと言われれば、それほど単純な反応ではないように思います。むしろそこに加えて適度なトレーニングを心地よく行っていくうちに分泌されていくのが自然かもしれません。しかし、カテコールアミンが、それぞれどういった役割を担っているのかはとても面白いですから、ご説明したいと思います。
ドーパミン
ドーパミンは「報酬系」などとも呼ばれる神経伝達物質で、快楽と密接という特徴があります。私たちは何かを頑張った時に達成感のような感覚をもちます。更にはそこで成果をあげた場合はこの成果が頑張ったという努力への報酬ということになり、そこで大きな快楽へと繋がっていきます。この時の快楽を感じる原因となる脳内の主役がドーパミンなのです。
トレーニングの際にも最初はジムに行くのが億劫だったり気乗りしないことがあるでしょう。しかし、気を奮い立たせてジムに足を運び、更にはしっかりとトレーニングが出来たような時、なんとも言えない充実感や達成感を感じる事があります。こんな時は、恐らくトレーニング後に脳内にドーパミンがしっかりと分泌されているはずなのです。
ドーパミンに限った事ではありませんが、神経伝達物質は多ければ多い程良いという事ではありません。快楽を感じるとは言っても、ドーパミンも万能ではないのです。それはもし過剰になった場合に、依存症などの副作用を生じることがあるからです。
報酬系なので、それなりの報酬(成果)があった場合はバランスがとれていますが、成果が伴わなかった場合にも分泌されてしまうため、それがストレスとなりドーパミンの過剰状態が生まれてしまいます。例えば、パチンコなどの依存症も、実はこのドーパミンの過剰分泌が影響していると言われています。
ノルアドレナリン
続いて、ノルアドレナリンですが、ノルアドレナリンは意欲を出す際に必要となる神経伝達物質ですが、一方で怒りのホルモンなどとも呼ばれていて、やはり2つの側面を持っています。
いわゆる覚醒に必須となる物質で、交感神経を刺激して覚醒させてくれるので、トレーニングをする際にもぜひとも分泌をさせておきたい物質でもあります。しかし、その反面でストレスに対しても反応をするため、例えば不安であるとか恐怖といった感情も引き起こしていきます。やはり過剰な分泌の場合にはデメリットが大きくなります。
私たちが心身問わず外部からのストレスに対して即座に的確に反応出来るのは、このノルアドレナリンがあるからなのです。「闘争か逃走か(FIGHT OR FLIGHT)というフレーズがありますが、これはアドレナリンの効果を表すフレーズであります。ノルアドレナリンからアドレナリンが作られるため、この2つは更に密接な関係にあります。
つまり外部から何か強いストレスを受けた時に、とっさにどういった行動をとるのかというのは、ノルアドレナリンやアドレナリンが密接に影響しているのです。ちなみにアドレナリンは代謝酵素のほとんどが副腎にしか無いので自律神経に主として作用して身体への影響が大きいのですが、ノルアドレナリンは副腎以外に脳内の中枢神経や交感神経でも分泌されるためメンタル的な影響がより大きいとされています。
セロトニン
セロトニンはドーパミン、ノルアドレナリンと並んで、脳内の三大神経伝達物質です。チロシンからではなく、トリプトファンを材料として作られますが、覚醒系の神経伝達物質の調整役のような役割を担います。体内でのセロトニンはその大半が腸内にあり、実は脳内にはわずか2%程度しかありませんが、その役割と機能は絶大です。
セロトニンは必須アミノ酸であるトリプトファンが5-HTP(5-ヒドロキシトリプトファン)へと変換されて作られますが、更にはメラトニンへと変換されていくため、睡眠とも深く関わっている物質です。
セロトニンにも交感神経を刺激して、血圧、心拍数、体温などに影響を与えて覚醒に関わりますが、それ以上の役割としてノルアドレナリンやドーパミンといった興奮系、快楽系の物質を調整してくれる役割が大きく、感情を安定させてくれる役割を担います。睡眠時などには重要となる一方で、トレーニング中に出てしまうと集中力を欠くなどの症状が出てきます。
どの神経伝達物質も欠かすことができない重要なものですが、単独で成り立つものではなくバランスが重要となります。過度な分泌はメリットをデメリットが凌駕してしまいます。
脳内の神経伝達物質という点においては、ドーパミン、ノルアドレナリン、セロトニンがそれぞれのシーンにおいて、上手にバランスを保つことが重要なのです。チロシンの摂取によるカテコールアミンの分泌促進もさることながら、一方でBCAAによるセロトニンの分泌抑制はトレーニング時には有効です。
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