先の大戦前夜に酷似。米中が加速させる分断と「一触即発」の危機

 

そして今後、中国と欧米の分断を加速させそうなのが、同じく7月30日に通達された【香港議会選挙の1年延期】です。

オリジナルのスケジュールでは9月に実施されることになっていましたが、COVID-19の香港での感染拡大への恐れというのが理由です。しかし、実際には【民主派排除に向けた時間稼ぎ】だと思われます。欧米や日本などから香港国家安全維持法への批判があっても意に介さず、北京政府はその反動からか、ひたすらに一国一制度の実現に邁進しており(One Chinaの一環)、欧米などと一歩も退かずに対峙するつもりのようです。

その姿勢は南シナ海と東シナ海でも顕著になっています。南沙諸島海域では、島々が次々に軍事拠点化され、軍港や滑走路をはじめ、地対空ミサイルも設置されていますし、どうも地上から宇宙空間の衛星を攻撃できるレーザー兵器やGPSを狂わせる電波妨害兵器を配備するのではないかとの噂もあります。電波妨害兵器については、GPS衛星の精度を狂わせることで、全世界に展開する米軍の誘導型兵器を無力化する恐れがあるため、アメリカ政府も南シナ海に展開されている中国の人工島を攻撃するのではないかという可能性が高まってきているようです。

今週も中国の友人たちからその可能性についての考えを聞かれましたし、アメリカの主要メディアでもその可能性が論じられていました。

双方とも観測気球的なものかと思いますが、昨今のポンペオ国務長官をはじめとする政権幹部による対中イデオロギー戦争、言い換えれば中国共産党こそが悪の根源とする見解の連発は、南シナ海を舞台とした中国への直接攻撃を前提とした地場ならしとも考えられます。

また最近は尖閣諸島への中国艦船の侵入についても、「基本的に当事者間で解決しましょう」というこれまでの姿勢から、一歩(以上?)踏み込んで「日本の領土である尖閣諸島とその海域に対する中国の領有権の主張は看過できず、また明確な国際法違反との理解。さらに米軍が沖縄に駐留するという事実に鑑みて、アメリカへの威嚇とも受け取れるため、行動が過激化する場合には、双方の措置をアメリカとしても取る」との姿勢に変わってきており、こちらも緊張感が高まっています(とはいえ、攻撃に踏み切るなら、南シナ海でしょう)。

アジア全域を舞台にした安全保障上の対立構図に加え、ファーウェイ問題やオセアニアからチリの間を結ぶ海底光通信ケーブルの選定、IDB(ラテンアメリカ開発銀行)総裁選といった経済的な側面においても、米中間の覇権争いは過激化する一方です。

オーストラリアについては、もう完全にアメリカについていくと覚悟したようなのではっきりしていますが、日本や欧州各国、英国、そして東南アジア諸国については、米中両国との経済上の距離感とバランスから、まだサイドを選びきれていないように思います。

「対中制裁に乗らなければ、制裁対象にするぞ」というトランプ政権と、「中国批判を続けるなら中国とのビジネスを失うことになる」と脅しをかける習近平政権の狭間で日英欧は場当たり的な対応を取って時間稼ぎをしているように見受けられますが、米中双方から“踏み絵”を迫られる日もそう遠くないほど、多方面で対立が激化し、そして両国間でブロックへの勧誘が露骨になってきています。

トルコやロシア、イランといった一筋縄ではいかない国々もありますが、コロナウイルスの感染拡大の裏では着々と安全保障・経済両面でのブロック化が進み、世界は一触即発の危機に近づいてきているように思います。

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